【ムーンショット型研究開発制度②】未来社会のDXはAIやロボットが変える

【ムーンショット型研究開発制度②】未来社会のDXはAIやロボットが変える

ムーンショット目標1

サイバネティック・アバター生活
出典:内閣府/ムーンショット目標1 2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現

ムーンショット目標1は、「2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現」というものです。

内閣府ではすべてのムーンショット目標に、それぞれ目指す社会像(ターゲット)と共に、関連するエリアをビジョンが掲げられています。

目標1に関連するエリア(Area)とビジョン(Vision)は下記の通りです。

  • Area:急進的イノベーションで少子高齢化時代を切り拓く
  • Vision:「誰もが夢を追求できる社会」の実現、「100歳まで健康不安なく、人生を楽しめる社会」の実現

ムーンショット目標1の狙い

ムーンショット目標1の狙い

少子高齢化によって生産年齢人口の減少が予想される日本。このままでは、国家としての国際競争力が失われるだけでなく、我々の日常生活にも大きな影響を及ぼし、安心して過ごすこと自体が難しくなってしまうかもしれません。

極端に言えば、現在の社会構造上、必要不可欠な生産、流通や販売を担う人口が足りなくなれば、これまで通りのライフスタイルを継続していくことは不可能になるのです。

しかし、現実社会のフィジカル空間だけでなく、仮想現実社会といったサイバー空間にまで人々の生活基盤がシームレスに広がる未来社会であれば、望む人は誰でも個人の限界を越えた身体的能力を獲得したり、時間と距離といった制約を無くし、高齢者も含めたあらゆる人々が自由に社会活動に参画・貢献できるようになるでしょう。

ムーンショット目標1は、年齢や性別、ライフスタイルや居住地など、それぞれ異なる背景や価値観を持つ人々が、自分のスタイルに応じた形で参画できる社会を実現することを目指しており、そのためにイノベーションを起こし新たな生活基盤を構築することを目的としています。

ムーンショット型研究開発制度では、科学技術によって変革された生活基盤を、「サイバネティック・アバター基盤」と呼んでおり、2050年までに実用段階に落とし込むことが目標に掲げられています。

ここでは、ムーンショット型研究開発制度が実現を目指す新たな生活様式「サイバネテック・アバター生活」について、簡潔にご紹介します。

サイバネティック・アバター生活

サイバネティック・アバター生活
出典:内閣府/サイバネティック・アバターとはより引用加工

「サイバネティック・アバター」とは、これまで人の営みに当然のように存在した3つの制約から解放された、新たな生活様式に合わせた人の身代わりとなるアバター(分身)の事を指します。

【人の営みに存在する3つの制約】

  1. 空間、時間の制約
  2. 身体の制約
  3. 脳の知覚・認知能力の制約

参考:内閣府/サイバネティック・アバターとは

このような制約から人の営みを解放するためには、大胆な技術革新が必要です。

ムーンショット目標1では、【人の営みに存在する3つの制約】を解決するため、誰もが多様な社会活動に参画できるサイバネティック・アバター基盤の構築を目指し、達成までの期限を設定して実用段階までの技術開発を続けています。

具体的には、例えば2030年までの目標として、1つのタスクに対して1人が10体以上のアバターを同時に操作できる状況を実現しようとしています。

正確には、アバター1体のみの時と同等の速度や精度で10体以上のアバターを操作できる技術を開発し、その運用基盤を構築する事を目指しているのです。

この基盤が構築され、実用化されれば、誰もがタスクに対して、これまでの10倍以上という圧倒的な身体能力や認知能力、及び知覚能力を得ることが出来るようになります。1人が10人分のタスクをこなせるようになれば、労働人口減少の問題は大きく改善されるでしょう。

さらにムーンショット型研究開発制度では、2050年までを目標に、複数の人が遠隔操作する多数のアバターやロボットと組み合わせる事で、より大規模かつ複雑なタスクを実行するための技術を開発し、その運用基盤を構築することを目指しています。

この技術を利用することで、誰もが様々な能力を現在では考えられないレベルにまで拡張することができるだけでなく、生産活動などあらゆる分野で年齢や居住地などの制約を受けずずに活躍することが可能になるでしょう。

その先には、人の能力拡張により年齢だけでなく、それぞれ特有の価値観を持つ人々が、自分に合った多様なライフスタイルを追求できる社会の実現が待っているはずです。

目指す社会像

目指す社会像

政府が描く未来の社会像は、若者から高齢者まで全ての人が、それぞれの背景や価値観に合わせた多様なライフスタイルを追求出来る社会です。

技術革新によって人の能力を拡張する事を目指し、サイバネティック・アバター基盤の活用が研究されています。

サイバネティックアバター基盤では、ネットワークを介して、国際的なコラボレーションを可能にするプラットフォームの開発も目標として設定されており、このプラットフォームを通じて、様々な企業や組織及び個人が参画した新しいビジネスを実現することが期待されています。

これは、単に既存のビジネスをサイバネティック・アバターを通じて行うという話ではありません。

人の能力が何倍にも拡張されるという計画はそれだけでも魅力的ですが、本当に空間と時間の制約を超えた働き方が可能になれば、これまでにない企業と労働者のつながりが生まれ、そこから新たな産業が創出されるかもしれません。

また、プラットフォーム上に集約された生活データに基づく新たな知識集約型産業が生まれることはほぼ間違いなく、さらにはそのデータをベースとした新興企業も創出されるでしょう。

人の能力拡張技術とAIロボット技術が調和した形で活用されれば、例えばこれまでにない速度と精度で宇宙空間での作業が行えるようになるなど、これまではSFの世界の話でしたなかった生活様式や生産活動を現実のものにすることも不可能ではありません

このように、ムーンショット型研究開発制度は既存の社会生活を技術革新によって維持するだけでなく、人の営みを飛躍的に発展させる可能性を秘めているのです。

そのためのカギの1つとなるAIとロボットの技術革新に関しては、ムーンショット目標3において実用への目標段階が詳しく設定されています。

ムーンショット目標3

ムーンショット目標3
出典:内閣府/ムーンショット目標3 2050年までに、AIとロボットの共進化により、自ら学習・行動し人と共生するロボットを実現

ムーンショット目標3は「2050年までに、AIとロボットの共進化により、自ら学習・行動し人と共生するロボットを実現」です。

目標3に関連するエリア(Area)とビジョン(Vision)は下記のように設定されています。

  • Area:急進的イノベーションで少子高齢化時代を切り拓く、サイエンスとテクノロジーでフロンティアを開拓する
  • Vision:完全無人化による産業革新、サイエンスの自動化(AI)、宇宙への定常的進出

ムーンショット目標3の狙い

ムーンショット目標3の狙い

ムーンショット目標1と同様、ムーンショット目標3も少子高齢化の進展により生産年齢人口の減少が予想される日本の未来を切り拓くための目標として掲げられています。

すでに述べた通り、政府が目標とする未来の社会を実現するためには、人の能力を拡張させるサイバネティック・アバター基盤だけでなく、人に代わって自律的に活動するロボット技術も必要となります。

人間のように自律的に判断・行動できるロボットの開発・活用は、人類の活動領域をさらに拡大していくためには必要不可欠です。

そのためには自律的に動くだけでなく、自ら学び・学びを発展させることができるAIの開発も欠かせません。

現在のAIに搭載されているディープラーニングには、未知の事象への対応が困難であったり、機械学習に関わる膨大なコストや労力が必要であったりと、いくつもの限界が指摘されています。これを打破するには、自ら学習し成長するAIや消費電力を飛躍的に低減させたロボット、更にはAIロボットの最適なアーキテクチャの検討が急務です。

ムーンショット目標3では、このような既存のAIが抱える限界を打ち破り、イノベーションによって開発されたAIロボットと人が共により良い社会を目指すことを目的としています。

AIロボットの開発目標

AIロボットの開発目標

ムーンショット目標3では、期間を区切った具体的な開発目標が設定されています。

そのターゲットは次の通りです。

2050年までに、人が違和感を持たない、人と同等以上な身体能力をもち、人生に寄り添って一緒に成長するAIロボットを開発する。

2030年までに、一定のルールの下で一緒に行動して90%以上の人が違和感を持たないAIロボットを開発する。

2050年までに、自然科学の領域において、自ら思考・行動し、自動的に科学的原理・解法の発見を目指すAIロボットシステムを開発する。

2030年までに、特定の問題に対して自動的に科学的原理・解法の発見を目指すAIロボットを開発する。

2050年までに、人が活動することが難しい環境で、自律的に判断し、自ら活動し成長するAIロボットを開発する。

2030年までに、特定の状況において人の監督の下で自律的に動作するAIロボットを開発する。

引用:内閣府/ムーンショット目標3 2050年までに、AIとロボットの共進化により、自ら学習・行動し人と共生するロボットを実現

目指す社会像

目指す社会像

ムーンショット目標3が目指す社会像は、人の感性や倫理観を共有できるAIロボットと人とが共に成長し、豊かな暮らしが実現した社会です。

70年も前に漫画家の故・手塚治虫氏が創造した『鉄腕アトム』の世界が、そのまま実現した世界と言ってもいいかもしれません。

>>手塚治虫公式サイト/鉄腕アトム

宇宙開発や様々な分野での技術革新、災害時の人命救助や復旧に関わる労働力など、人やそのアバターだけでは対応しきれない事も、人と同様に活動できるAIロボットがいれば可能となります。

AIロボット技術と人の能力拡張技術が発展し、それらを調和させて活用できる状態を創り出せれば、社会基盤は益々広がり、これまでは考えもつかなかったような新たなイノベーションも生まれるでしょう。

ゆりかごから墓場まで、人の感性や倫理観を共有し人と一緒に成長するパートナーAIロボットを開発する。それにより豊かな暮らしを実現する。(一部引用:内閣府/ムーンショット目標3」人とAIロボットがパートナーとして豊かな暮らしを実現すること。)」

それこそが、日本政府がムーンショット型開発制度の目標3によって目指す「人とロボットが共進化する未来像」なのです。

まとめ

内閣府主導で行われる国家的なDX推進戦略とも言える【ムーンショット型研究開発制度】と、それを体現する【ムーンショット目標】を解説する本シリーズ。

「社会・環境・経済」といった3つの暮らしの基盤を改善・向上させる事を目的に行われるこの政策に関して、第2回目の本記事では「ムーンショット型研究開発制度が目指す未来の社会構造」についてご紹介しました。

かつての少年少女たちが目を輝かせてかじりついていた『鉄腕アトム』のように、人とロボットがパートナーとして共存する社会。それがムーンショット目標1と3が目指す未来社会です。

こうした未来像は荒唐無稽なSFの世界の話ではなく、すでに現実として実現可能な時代がすぐそこまで迫っています。

連載の第3回目となる次回は、ムーンショット型研究開発制度の「環境」に焦点をあて、SDGs等と絡めたDX政策についてご紹介しますので、どうぞご期待ください。

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この記事の執筆者

株式会社MU 代表取締役社長

山田 元樹

社名である「MU」の由来は、「Minority(少数)」+「United(団結)」という意味。企業のDX推進・支援をエンジニア + 経営視点で行う。 最近の趣味は音楽観賞と、ビジネスモデルの研究。 2021年1月より経営診断軍師システムをローンチ

株式会社MU 代表取締役社長

山田 元樹

社名である「MU」の由来は、「Minority(少数)」+「United(団結)」という意味。企業のDX推進・支援をエンジニア + 経営視点で行う。 最近の趣味は音楽観賞と、ビジネスモデルの研究。 2021年1月より経営診断軍師システムをローンチ

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