【ムーンショット型研究開発制度①】内閣府は日本社会のDXにどんな未来を見るのか?

【ムーンショット型研究開発制度①】内閣府は日本社会のDXにどんな未来を見るのか?

既存の業務をデジタルに置き換えることで効率化するだけでなく、新技術・サービスの開発など新たなビジネスチャンスの創出を目指すDX(デジタルトランスフォーメーション/以下:DX)。

DXで必要なのは地道な施策の積み上げです。『DXは一朝一夕に成らず』というのは、現在、DX推進を模索している企業であれば、誰しもが共感する言葉でしょう。

1つの施策だけで、企業の抱える課題を全て解決することはほとんど不可能であることを理解した上で、長期的な視点でDX推進に取り組む姿勢は、DXを成功に導くための重要なポイントです。

しかし、社会が直面する難題を解決するためには、急進的なイノベーションが求められる場合もあります。

内閣府が主導する【ムーンショット型研究開発制度(ムーンショット目標)】はまさにそのようなイノベーションを生み出すための制度であり、日本型DXの未来を切り開く鍵となるかもしれません。

社内のDXを進めるだけでなく、社会に影響を与えるDXに関心を持つ企業にとっては、この制度は大きな後押しになるのではないでしょうか。

そこで、これから数回に渡り特集記事として、日本政府が実施しているムーンショット型研究開発制度について解説します。

第1回目の今回は、「ムーンショット型研究開発制度とは何か」という概論的な説明に加えて、日本政府が真剣に取り組んでいる未来構想について取り上げます。

内閣府ムーンショット型研究開発制度とは

ムーンショット(Moon Shot)とは、1960年代の有人月面着陸「アポロ計画」に際して、第35代アメリカ合衆国大統領ジョン・F・ケネディが行ったスピーチから生まれた言葉で、「前人未到の一見不可能と思えるプロジェクトに挑む事」を意味しています。

そのスピーチの中で、ケネディ大統領は人類初の月面着陸を実現させるプロジェクトを大々的に発表したのです。

「まず私は、今後10年以内に人間を月に着陸させ、安全に地球に帰還させるという目標の達成に我が国民が取り組むべきと確信しています。この期間のこの宇宙プロジェクト以上に、より強い印象を人類に残すものは存在せず、長きにわたる宇宙探査史においてより重要となるものも存在しないことでしょう。そして、このプロジェクト以上に完遂に困難を伴い費用を要するものもないでしょう。」

“First, I believe that this nation should commit itself to achieving the goal, before this decade is out, of landing a man on the Moon and returning him safely to the Earth. No single space project in this period will be more impressive to mankind, or more important in the long-range exploration of space; and none will be so difficult or expensive to accomplish.”

ジョン・F・ケネディ(引用:Weblio「アポロ計画」

まさしく、「達成できれば大きなインパクトをもたらし、イノベーションを生む壮大な挑戦」であったムーンショットは、現在では、困難は伴うが野心的で夢のある計画、を指す言葉になりました。

ダートマス大学の経営学博士スコット・アンソニー氏は、優れたムーンショットには次の3つの条件が必要だと述べています。

  • Inspire:人々を魅了し奮い立たせる
  • Credible:根拠と信憑性がある
  • Imaginative:斬新なアイデアである

内閣府が進める【ムーンショット型研究開発制度】は、まさにこの『困難は伴うが野心的で夢のある計画』を後押しする制度であり、上記の3つの条件を満たす計画を対象としています。

内閣府主導の大規模科学技術プロジェクト

内閣府主導の大規模科学技術プロジェクト

内閣府は、2020年1月に開催された『48回 総合科学技術・イノベーション会議』において、日本が抱える超高齢化社会などの社会課題に対する、1つの解答を得るための大規模な科学技術プロジェクトの立ち上げを発表しました。

その時点では6つの目標が掲げられていましたが、その後の改正を経て、2021年9月以降は9つの目標が定められています。

ムーンショット型研究開発制度は、2018年度の補正予算で1000億円の基金創設予算を計上して創設され、更に2019年度の本予算で新たに150億円を計上されました。

また、目標に向けたプロジェクトは最長10年間の支援が取り決められています。

ムーンショット型研究開発制度は、次項に挙げる9つのムーンショット目標を達成するために、『失敗を許容する』と明言されている点が特徴的です。

失敗を許容することでより挑戦的な研究開発を奨励し、これまでにない革新的な成果を得ることを目指しています。

更には目標達成にステージゲートを設け、ポートフォリオを柔軟に見直すことで、将来における社会実装を見据えた派生的研究成果のスピンアウトも奨励するなど、長期的な目標として掲げられています。

参考:内閣府/ムーンショット型研究開発制度

9つのムーンショット目標

ムーンショット型研究開発制度に設定された9つの目標は次の通りです。

目標1:2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現
目標2:2050年までに、超早期に疾患の予測・予防をすることができる社会を実現
目標3:2050年までに、AIとロボットの共進化により、自ら学習・行動し人と共生するロボットを実現
目標4:2050年までに、地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現
目標5:2050年までに、未利用の生物機能等のフル活用により、地球規模でムリ・ムダのない持続的な食料供給産業を創出
目標6:2050年までに、経済・産業・安全保障を飛躍的に発展させる誤り耐性型汎用量子コンピュータを実現
目標7:2040年までに、主要な疾患を予防・克服し100歳まで健康不安なく人生を楽しむためのサステイナブルな医療・介護システムを実現
目標8:2050年までに、激甚化しつつある台風や豪雨を制御し極端風水害の脅威から解放された安全安心な社会を実現
目標9:2050年までに、こころの安らぎや活力を増大することで、精神的に豊かで躍動的な社会を実現

引用:内閣府【ムーンショット目標】

これらの目標はすべて、「生活の質(Quality of Life/QoL)の向上」と、「人々の幸福(Human Well-being)」の実現を目指して掲げられています。

>>次ページ/「日本政府が目指す未来」を支える3領域

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この記事の執筆者

株式会社MU 代表取締役社長

山田 元樹

社名である「MU」の由来は、「Minority(少数)」+「United(団結)」という意味。企業のDX推進・支援をエンジニア + 経営視点で行う。 最近の趣味は音楽観賞と、ビジネスモデルの研究。 2021年1月より経営診断軍師システムをローンチ

株式会社MU 代表取締役社長

山田 元樹

社名である「MU」の由来は、「Minority(少数)」+「United(団結)」という意味。企業のDX推進・支援をエンジニア + 経営視点で行う。 最近の趣味は音楽観賞と、ビジネスモデルの研究。 2021年1月より経営診断軍師システムをローンチ

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