飲食店を変えるDX戦略の実例と導入のアイデアを紹介するこの特集記事。
第5回目の今回は飲食店にとってもっとも大切な「人のふれあい」を、いかにしてDXで実現していくかということをテーマに、実際にオンラインでの接客を提供する「オンラインスナック横丁」の事例をご紹介します。
まさにコロナ禍が生んだ新時代の飲食店の形と言っても過言ではない事例から、これからの飲食店が歩むべき未来像を考える一助としてみてください。
目次
コロナ禍を乗り切る飲食店のDXで「人のふれあい」を守れ
店内がカウンター中心で、店主やスタッフとお客様が対面で接するスナックなどの場合、そこで扱う商品というのは料理やお酒だけではありません。
相席することが前提のクラブ形態の店舗ほどではないものの、こうしたスタイルの店舗でお客様に提供するのは「人のふれあい」そのもので、料理やお酒以上にそこに魅力を感じて通っていただくファンは多いはずです。
しかし現在のコロナ禍においては酒類提供店への風あたりは強く、一時的もしくは恒久的な閉店を余儀なくされている店舗も少なくありません。
お酒を飲みつつ店主やスタッフ、他の常連客と語り合うというのは、飲食店におけるカウンターという1つの聖地を彩る情景で、それをこそ楽しみに通い詰めるというのが世の「酒飲み」たちの本音でもあります。
こうした「カウンターを通した人と人とのふれあい」という飲食文化は、小規模飲食店においてはまさに生命線で店主やスタッフの人柄こそが「最大の売り」となっているはずです。
政府より発せられた酒類提供の自粛やマスク飲食の推奨なども相まって、こうしたスタイルの店舗はもっとも大きなダメージを受けています。
仮にその代替をオンラインへと求めたとしても、対面型ビジネスモデルでなければ提供できないモノが一番の売りである店舗であれば、おいそれと代替はできないでしょう。
ソーシャルディスタンスを良しとするコロナ禍においても「人のふれあい」を守る飲食店のビジネスモデルをオンラインに求める場合には、どのような施策が考えられるのか。
それを考えていくことこそが、小規模店舗のDXを推進していく上では重要な考え方となってきます。
オンラインに販路を求める「ふれあい戦略」の事例
そんな流れの中、対面接客を中心とした飲食店のオンライン戦略として、非常に興味深いサービスが近年注目を集めています。
オンラインスナック横丁という、カウンタースタイルで対面商売を生業としたスナック業態をオンラインに置き換えた、新しいビジネスモデルをここではご紹介します。
オンラインスナック横丁
店主(およびスタッフ)がカウンター越しに接客する飲食店を「スナック」と呼び、お客様が酒や軽食を口にしながら店主(ママと呼ばれる女性の場合が多い)やスタッフ、他のお客様との会話を楽しむことを目的とした店舗型ビジネス。
テイクアウトやデリバリーという業態にも対応できず、もっともオンラインへの置き換えが難しいと思われていたスタイルの店舗ですが、新型コロナウイルスによる第1回目の緊急事態宣言を受け昨年5月にローンチされたサービスが「オンラインスナック横丁」です。
特徴
全国500店舗以上のスナックに来店しスナック愛好家としても知られる五十嵐真由子さんが、コロナ禍で苦しむスナックを救済し新たな出会いを創出する場として立ち上げたサービス。
巷で流行するオンライン飲み会と違って、接客のプロであるママやマスターが相手を務めてくれるとあって、利用者も急増中です。
登録にあたっては営業許可証の提出が必要など厳しい審査がある分、利用客からは「安心して楽しめる」といった好意的なフィードバックも多く、特にママに恋愛や人生の相談を行いたい女性客などの利用も含めて好評を得ています。
利用方法
利用者(客側)は公式サイトにアクセス後、スナック一覧から好きなスナックを選びます。
日程・チケット種別などを選び決済を済ませると、登録したメールアドレス宛に店舗への入店方法(URLなど)が記されたメールが届くので、期日になったら記載のアドレスへアクセスを行い、Zoomなどのオンライン会議システムを使いママやマスター、同席のお客様などとの会話を楽しみます。
チケット種別
- 1対1:ママやマスターとの1対1の接客
- フリー:他のお客様との相席
- 貸切:仲間内グループでの貸切(人数制限あり)
その他、ママやマスターへお酒をおごるドリンク券などのオプションもあり。
詳細
- 料金目安:1時間2,000円以上
- 手数料:システム手数料として売上の30%、売上が1万円未満の場合振込手数料210円
- 決済方法:クレジットカード、オンライン決済
- 利用会議システム:Jitsi、Whereby、Zoom
接客をオンラインに置き換える際の注意点
オンラインスナック横丁でも詳細なハンドブックなどを用意して、オンラインスナックの心得などを解説していますが、実際にオンラインスナックを利用するにはいくつかの注意点があります。
例えば
- 開催時は自店のカウンターに立ち、実際の接客と同様にお客様に接する
- 店内で流している有線放送やカラオケなどをインターネット上で配信すると、権利利用料が別途発生する恐れもあるので、開催時BGMとしても利用しない
- 実店舗と違い複数人数を相手にする際、個々のお客様へのケアがやりづらい
常連さんの中に新規のお客様が参入してきた時は、実店舗でも互いにそれなりの緊張感が走るものです。
そうしたお客様をうまくケアするのは、接客のプロである飲食店主の腕の見せ所ではありますが、お客様が横並びに並ぶ実店舗と違って、画面の中に互いの顔を正面で見合うオンラインスナックの形式ではかえって緊張感を生む場合があります。
さらに、実店舗と比べて誰かの会話に割って入ることが難しいのもオンラインスナックの特徴。
特に実店舗の営業中に、オンラインスナックも並行して営業を行う店舗の場合は、実店舗とオンラインのお客様双方に満足感を与えられる、独特の「客あしらい」の技術が求められます。
しかし、そうした数々のハードルをクリアできるのであれば、客足の遠のく緊急事態宣言の下であっても、接客という最大の売り物をお客さまに届ける手段として、オンラインスナックは新しい未来を感じさせるサービスではないでしょうか。
まとめ
カウンター越しの接客にとどまらず、オーダー受注時の何気ないスタッフが発する一言が来店したお客様の心を和ませたり、「サービス」という言葉でひとくくりにはできない人と人とのふれあいを提供することは、多くの飲食店において生き残りの鍵です。
それをそのままデジタルに置き換えることは、現状のテクノロジーの中では難しいものであるかもしれません。
しかし、苦境に立たされる飲食店が生き残りをかけるためには、オンラインスナックのようなビジネスモデルは、飲食店のDX化を模索する上での大きなピースともなり得るでしょう。
今回5回にわたってお送りしてきた【飲食店のDX】シリーズですが、どの回もそれだけで語り尽くせるほどかんたんな話ではなく、それほど「人のふれあい」を大事にする飲食店においてのDX推進は他の業種と比べてもハードルが高いのは確かです。
大切なのは自店の何をデジタルで解決し、どんな価値を生み出したいのかを明確にすることで、それがあってはじめてDX推進は成功します。
1つひとつのパーツをよく理解し、その上でそれらを複合的に組み合わせてもっとも自店に最適なDX設計図を描くことこそ、飲食店不遇の時代を生き抜く大切な道標なのです。
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