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パーソナルドクターサービスの革新性
ウェルネス社のパーソナルドクターについてさらに詳しくお伺いします。パーソナルドクターとは、端的に言えばどのようなサービスなのでしょうか。
吉本氏
「パーソナルドクターを一言で言えば『データ×医療』です、データをしっかり取って、それに沿ってドクターがマンツーマンでカスタムした予防ケアを提供するサービスです。」
パーソナルドクターというプロダクトは、医療の専門家が作っているという点が最大の強みだと伺いましたが、医療業界においてどのような点で新規性があるのでしょうか。
中田氏
「日本の医療はインフラがしっかりしていて、基本的に我々が一般に受けている健康診断や病院医療などは標準化されています。これは素晴らしいことなのですが、裏を返せば、国や自治体が限られた予算の中で、なるべく多くの人の寿命を伸ばすための検査を選んでいるわけです。これは決して『パーソナル』ではないですよね。平均値を上げるための考え方と言ってもいいでしょう。しかし、『自分の命のために自分でお金を払う』場合は、まったく考え方が変わるのではないでしょうか。日本人の平均値ではなく、『自分にとって』リスクの高い病気を防ぐことが、最重要課題になりますよね。
このパーソナル、自分のことに特化して見てくれる予防医療のサービスはほとんど世の中になかったんです。自治体とかの補助金の中で見られる最低限の健康診断ではわからないことがあるにもかかわらず、自分の健康を守るまさに『パーソナル』な顧問医師という考え方、仕組みは今まで日本ではほとんどありませんでした。」
パーソナルドクターでは、どのようなアドバイスをしてくれるのか。もう少し具体的にお伺いしてもよろしいでしょうか。
中田氏
「例えば会社の経営者などをはじめ、会食は絶対に避けられないという方は世の中にたくさんいます。ただ、やはり会食の場での食事や飲酒は健康のためには良くないことが少なくありません。普通の病院であれば『コレステロール値が高いから会食をやめる、あるいは控えなさい』なんて言うわけです。でも、これって経営者さんからしたら無理な話ですよね。我々の場合は、会食のある生活をキープしたうえで、どうやったら今の課題を改善できるか、理想とのギャップを埋められるかというやり方を、たくさんある選択肢の中からその人にあったものをパーソナルに提案していきます。
今の課題と将来想定されるリスクがわかれば、それを解決する方法はいっぱいあります。それこそその人の価値観とかライフスタイルにおいて、どれが最も良いかというのを一緒に考えていくドクターですね。医療の指導をするというよりも、まさに『伴走』するスタンスです。
夢を叶えようと思えば、絶対に健康でなければいけません。そんなとき、仲間に医療に詳しい人間がいれば、こんなに心強いことはないですよね?ましてそれがプロであればなおさらです。医師の経験とテクノロジーのデータ分析の力で、個々人の健康に関する問題を解決していくサービスというのが、パーソナルドクターの魅力かと思います。
私はよくパーソナルドクターを、漫画ワンピースのチョッパーに例えています。麦わらの一味にチョッパーがいてくれる安心感というのは計り知れないものがあるはずです。ルフィのゴールは海賊王になることであって、健康であることじゃないですよね。けれども、健康でなければそれが達成できないわけです。ルフィが夢をかなえるために、少しでも健康を保てるようにそばでチョッパーが支えてくれている。我々の想いとしては、『チョッパーの代わりにパーソナルドクターがあなたの船に乗ります』という感じです。
パーソナルな医療を提供するために、画一的な健康診断や人間ドックなどではわからない事細かな検査をして、それをすべてデータとして可視化します。そのうえで、ガイドラインではないパーソナルなアドバイスをさせていただく、といったサービスです。」
山田(DXportal編集部)
「私もパーソナルドクターを利用してお世話になっているのですが、実は先日『緑内障の気配がある』と言われたんです。この『気配』というのは、緑内障になるリスクが人より高いといった感じらしく、今なにか自覚症状があるわけではないんです。今度病院に行ってしっかりと検査してこようと思っていますが、こういうのってあまり事前にはわからないですよね。」
中田氏
「緑内障は神経の病気なんですが、視野が狭くなってから気づいても、もう絶対に元には戻りません。でも、進行を止める治療はあるんです。止めることはできるけど戻すことはできない。だから、少しでも早めにそのリスクがわかっていれば、症状が進行し切る前に食い止めることはできます。」
緑内障などは、通常の健康診断などでは視野が狭くなる前に異常がわからないものなのでしょうか。
中田氏
「ほぼわからないないですね。通常の健康診断だと視力と眼圧くらいしか見ません。でも、緑内障の影響で視力が落ちてる場合だと、眼圧が上がるタイプの緑内障もあるんですが、上がらないタイプの場合もあるので、一概に眼圧だけでは判断がつきません。ですので、より早くリスクを知るためには、現在の視野がどこまで見えているのかとか、目の奥の網膜がどうなっているのかを知ることが重要です。こうしたデータがあれば、その症状に自分がどれくらいなりやすいかというのが分かります。」
山田
「確かに健康診断は受けていますが、他の病院では緑内障の話は言われたことがなかったんですよね。」
ウェルネス社のパーソナルドクターでは、一般的な健康診断もやるのでしょうか。
中田氏
「一般の健康診断や人間ドックで調べるようなことはすべて入っています。ただ、普通の人間ドックの目的って、その時点で治療が必要な病気がないかを調べることにあるんです。一方で、パーソナルドクターは将来まで健康に『100年生きるため』のデータを取るという考え方で検査をしています。目的が、現在病気かどうかを調べるためのものではないんです。そのため、将来どのような病気のリスクになりうるかを知るための数値や画像をとりに行きます。
ビジネスに置き換えて言えば、KGI(重要目標達成指数)だけでなく、KPI(重要業績評価指標)も見ます、ということです。現在の銀行残高だけを見て経営してたら、この経営者大丈夫?ってなりますよね。一方で、業績を分析して、KPIを見て、ここが課題だからこうしようと考えるから会社は伸びていきます。
つまり、健康診断でやっていることは、売上とコストだけを毎年見ているみたいな状態なわけです。その中身を見ていないので、なんでそうなったのかはわからないし、結果だけを見ている状態で赤字(病気)になったら慌てるというのが、今の一般的な予防医療の実態でしょう。
企業の場合も、中長期で考えれば細かいデータが必要で、戦略的な経営のためには現状分析と未来の分析をしますよね。パーソナルドクターで調べるのは、そのためのデータであり、それに基づく戦略的な予防医療というのが、我々が提供するプロダクトなわけです。」
非常に重要なサービスだと思いますが、同様のサービスを展開している企業は他にはないのでしょうか。
中田氏
「少なくとも企業としてはないと思います。一部のクリニックなどが予防医療に取り組んでいる場合もありますが、この場合ソリューション提供がゴールになっているため、中立性が欠けていることもしばしばあります。
我々はあくまでデータを預かって、それに対してコンサルテーションするという部分に特化して提供しています。自社でクリニックを持っているわけではないので、特定のソリューションを選択してもらう必要はないんです。データに基づいて、その人に本当に必要な提案をするという考え方でやっています。そういった意味でも同様のサービスは国内には多分ないです。」
前回にお話を聞いたときにも感じましたが、中田社長は医師ということで当然医療の深い知識を持っていながら、経営者としてもとてもクレバーな考え方を持っておられて、その両方を持っている経営者の方は、日本ではそうそういないのではないでしょうか。
話は変わりますが、ウェルネス社では、医師や看護師といった医療の専門職の方だけでなく、エンジニアも含めたITの専門家も社員として雇入れ、いわば「基本的なDXを内製化」している状態にあると聞きます。DX人材の不足が叫ばれる昨今、よほどの大企業ならともかく、医療業界に限らずそこまでやられている会社というのは少ないように感じますが、そこは必須だったのでしょうか?
中田氏
「このあたりは、ビジョンとゴール次第ですね。当社は『戦略的に健康管理できる世界を作る』ことを目指しています。戦略を立てるには、絶対にデータの蓄積が必要だと考えました。そして、データを蓄積する場所はデジタルでなければありえない。そうなると、この分野で勝つと決めた以上は、このプロダクトのコアを担う部分については、内製化が必須でした。
なにかの業務効率化のためにITを活用する場合なら外注することもありえますが、プロダクトの根幹部分にデジタルが必須な場合は、外注ではどうしてもタイムラグが発生してしまうリスクがあるので、そこは社内に持っていないと駄目だなというのが当然の答えでした。」
パーソナルドクターは「人生の後悔」をなくす取り組み
吉本さんは看護師として働いていたわけですが、現場の医療従事者は、予防医療に対してどのように捉えているのでしょう。
吉本氏
「やっぱり必要だよね、とはみんなが思っていると思いますが、ではどうするのか?となると、そこまでは考えが及ばないケースが多いように感じます。実際のプロダクトを現場が作るというのは難しいですよね。」
そうした中では、やはりウェルネス社が提供するパーソナルドクターは、医療業界に大きな革新をもたらすプロダクトなのでしょう。
最後に、吉本さんがウェルネス社で成し遂げたい『夢』を教えてください。
吉本氏
「先ほどお話したのと同じなのですが、私の夢は本当に『防げ得た後悔をなくしたい』というのが一番大きいです。というのも、私が病院で働いていたときの経験が大きく関わっています。
はじめて受け持った患者さんで、すごい若く、お子さんもまだ小さい方がいらっしゃいました。当時ICU(集中治療室)担当だったのですが、通常ICUというのは1~2日くらいで出られるんです。けれど、その方は私が担当した時点でもう半年も入室していらっしゃいました。いつ急変するかわからないという状態を半年も続けておられたんです。その事自体が異例で、私も驚きました。
でも、ご家族の方ともお話をさせていただくと、その方はずっと高血圧を指摘されていたのに、仕事を優先して忙しくされて、たまの休みにはご家族の時間を作って自分のことを後回しにして……というような状態だったようです。その結果、心臓からすぐ近くの大きな血管の内側が裂けてしまい、手術をしたという経緯でした。
その方は結局お亡くなりになってしまったのです。その方が病気になったことで、その方自身が送りたかった人生……お子さんの成長を見たりとか、仕事で成し遂げたかったこととか、送りたかった人生を送れなかった後悔があるんだろうな。ご家族もすごく大きな悲しみを抱えているんだろうなと思ったんです。
その時に、そういった誰かの『防げ得た後悔をなくしていきたい』と心の底から思いました。それがやっぱり一番大きな夢ですね。」
取材を終えて
医師、あるいは看護師として医療の最前線で活躍しながら、「防げる後悔」をなくしたいと考え、それにデジタルと人の力で立ち向かうお二人の姿は、素人目に見ても頼もしく映りました。
さらに、今回の中田社長や吉本さんのお話からは、「人とデジタルの理想的なコラボ」こそ、DXを正しく進め、よりよい未来を作り上げる力なのだ、ということを改めて思わされました。
パーソナルドクターが見せる予防医療の未来は、この世界をどのように変えていくのでしょう。これからも株式会社ウェルネスの挑戦からは目が離せません。
(DXportal®編集長:町田英伸)
株式会社ウェルネス
会社名:株式会社ウェルネス
所在地:東京都港区南麻布1-18-3ラピス南麻布2 302号室
代表取締役:中田航太郎
主な事業内容:予防医学/エンジニアリング/デザイン
ホームページ:https://company.wellness.jp/