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デジタルとアナログの融合で健康をサポート
人間の体と生活のすべてのデータが1ヶ所に集約していく、というイメージなんでしょうか。
中田氏「そうですね。ただ、自分のデータをすべて集約して、溜めるだけでは意味がありません。
今までの溜めるだけのPHRは『PHR1.0』と僕は呼んでいますが、僕らが考える『PHR2.0』は、溜まったデータを活用し将来を予測して、それに対するアプローチができる状態です。今はそうしたイノベーションを起こしている段階です。」
御社の「パーソナルドクター」というサービスでは、実際にそこに医師が関わることでアドバイスをくれる仕組みになっていると思いますが、デジタルと人間の医師との関わりはどのような形で設計されているのでしょうか。
中田氏「やはり、アプリ上で『あなたはこういうリスクがあるのでこうしましょう』と言われるのと、自分の顔を知っていて信頼関係のある医師に同じことを言われるのでは、そこからの行動変容の確率は変わりますよね。
正しいことをいうだけならアプリでも出来ますが、やはり医師が伴走することによる安心感もあるでしょうし、より効果的な意識決定のサポートになるはずだと考えています。
実際に海外の事例をみても、アプリだけで完結しようとしたプロダクトはほとんどうまくいっていません。例えば、アメリカで成功したある事業は、デジタルをうまく活用しながら、プロの医師が伴走するといったモデルで成功しています。
これは、いわばデジタルの歴史が証明していることですが、やはりアナログの価値というものはあります。なので、デジタルをうまく活用しつつ、信頼できる医師がしっかり伴走するというのが重要だと考えています。
ですので、今はうまくデジタルを活用できる医師を増やしていくことで、より良い医療を受けられる世界を目指しています。
現在のデジタルは変革期ですので、急に完全デジタルにしたところでいきなり精度の高いものはできません。一方で、デジタルを活用できるようになっていかないと、医師が取り残される時代はこれから絶対に来るでしょう。まさに今は共存の時代です。」
予防医療の未来とウェルネスの挑戦
「AIが発展する未来においては、いわゆる対症療法に関して医師が必要なくなるのではないか?」という予測もありますが、そうならないための医師像とは、やはりデジタルを活用できる人材なのでしょうか。
中田氏「そうですね。僕らのブランドタグラインは『ライフクルー』と呼んでいますが、人生という旅を考えた時にその船員の仲間の一人には医師が必要だと考えています。
それこそ漫画のワンピースでもそうですが、仲間に医師のチョッパーがいなかったらクルーはみんな大変なことになっていると思います。医師というのは、いい人生を送るうえで不可欠だと思っているので、その仲間を作る必要があります。それが当社が考える『パーソナルドクター』の役割でもあるのです。
今までの医師と患者の関係は、調子が悪くなった時に『点』で関わって、『また困ったらおいでね』というスタンスが基本でした。一方、パーソナルドクターは『ずっと伴走していく』スタンスです。体の変化を日々一緒にみていくことで、人生に伴走していきたい。利用者には、そうしたパートナーとして医師との関係を築いてもらいたいという想いがあります。」
パーソナルドクター利用者の平均年齢というのは、どのくらいなのでしょうか。
中田氏「大体40代ぐらいが多いですね。」
やはり、働き盛りで今のところ体の不調などは感じていない、といった年代のように感じますね。
中田氏「まさに40代を中心とした働き盛りの世代は、我々がサポートしたい年代でもあります。予防医療の難しさは、調子が悪くなってから取り組んでも遅いというところにあるので、元気なうちからしっかり対策していくことが重要です。
人が人生の夢や希望を叶えていくには、やはり健康でなければなりません。例えば、50代という若さで亡くなったスティーブ・ジョブズも、『もっと健康にお金をかけていれば良かった』と後悔していたと言われています。いくら才能があっても、努力をしても、健康でなければ夢の続きは見られません。
医師がこれまで求めてきたのはHealth(ヘルス)です。これは病気がない状態を指しています。しかし、当社の社名である『ウェルネス(Wellness)』は、病気がないというだけでなく、健康で豊かな人生を送れる状態を指しています。
体の健康を考えるときに、検査の結果としてわかる数値的に健康かどうかも大事ですが、それだけではなく社会的に健康か、心理的な安心感を得られているか、など、数値には表れにくい複合的な要因も満たしてこそ本当の健康だと言えるのではないでしょうか。」
人がより豊かに生きられるための積極的な働きかけ、それが御社が求める予防医療の姿なんですね。
最後に、御社が考える今後の予防医療についてお聞かせください。
中田氏「予防医療が大切だとは、現場の医師も含めて誰もが分かっていることです。けれども、それが実際にどのくらいのインパクトがあるかというエビデンスはまだ十分にありません。今は感度の高いいわゆるイノベーターやアーリーアダプターが僕らのサービスに興味を覚えてくれている段階なのです。
そこでサービスを使っていただいた結果、どのくらいのリスクを減らすことが出来たのか、などのデータが溜まっていけば、今後は国や自治体などにもアプローチしていけると思っています。
そうすれば、『病気になった人を救うことに医療費予算をかけるよりも、健康なうちから予算をかけて、適切にアプローチすれば、結果的に助かる人も増えるしコストも下がります』という話が出来ると思っています。
そして、国レベルで予防医療の取り組みがひろがっていけば、もっと人々が楽しく豊かに暮らせるようになると思いますし、そうした世の中にしていきたいですね。」
取材をおえて
外科医の家に生まれたことに加えて、4歳の頃に喘息で入院した際に、学校の先生よりも身近に寄り添ってくれた医師をみて「自分も将来はこんなお医者さんになりたい」と思ったという中田氏。その頃からの想いが、今「デジタルの力を用いて人の人生に寄り添う」予防医療を提供する企業を作り上げたのでしょう。
中田氏の話からも、多くの企業でDXを進めるうえでも課題となる「人とデジタルの融合」の重要性を改めて認識しました。
人の健康と生活に関わるすべてのデータを統合させ、それを分析し人生に寄り添う医師の想いとともに届ける株式会社Wellnessの『パーソナルドクター』が、今後どのように業界のファーストペンギンとして市場を切り拓いていくのか。非常に楽しみに感じるとともに、自らの健康と未来への投資について考えさせられる貴重な時間でした。
DXportal®としても、今後も中田氏と株式会社ウェルネスの動向には注目していきます。
株式会社ウェルネス
会社名:株式会社ウェルネス
所在地:東京都港区南麻布1-18-3ラピス南麻布2 302号室
代表取締役:中田航太郎
主な事業内容:予防医学/エンジニアリング/デザイン
ホームページ:https://company.wellness.jp/