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「人と人」をつなぐ新しいアプローチ
そんな「人と人との関わり」を中心に取り扱ってきた村井先生が、今後取り組んでいきたいことは、どのようなことでしょうか。
村井氏
「はい、ありがとうございます。これまで『人と人との関係はデジタル化できない』というお話をしてきましたが、実は企業内でこれまで属人的にやってきた人間関係の調整のような部分をデジタルの力を使ってやれないかと考えています。
先ほど私は、人と人の関係性に関する部分のデジタル化は『デジタル化しても人の気持ちを数値化できないので難しい』というお話をしました。実際に、ベストなマッチングをすることは難しいと思います。けれども、属性や傾向、あるいは価値観などをもとに『明らかに合わない』というマッチングを避けることはできると考えています。
例えば、利益第一主義の企業に社会貢献を第一義に追求する人が入ってもうまくいかないでしょう。その逆も然りです。
人は自分の感情を騙すこともできるので、本当は自分には合わないと気が付いていても、『給料が良いから』とか『好きな子が入社したから』とか、別の理由で自分を騙して入社することもできてしまいます。ですが、結局のところ自分を騙し続けて働くことは、本人にとっても企業にとっても不幸なことです。
人には譲れる部分と、絶対に譲れない根本的な価値観があるわけです。なので、こうした部分に着目して、明らかに合わないマッチングを最初から取り除くといったことには、デジタルがうまく活用できると考えています。」
マッチングの不備を取り除くデジタル技術ですね。具体的にはどのような取り組みを考えているのでしょう。
村井氏
「これは株式会社MU様と取り組んでいる新しいプロジェクトです。現時点で言える範囲で言うと、一つの診断をもとにマッチングの不備を明らかにするサービスを考えています。
『自分、あるいは企業に合う人をマッチングする』のではなく、『合わない人がわかり、合わない人ともうまくやっていく』ための診断です。診断によって、明らかに自分と合わない人や企業が分かることが重要なので、マッチングの一致度を競うものではありません。
分かりやすいように恋愛のマッチングアプリを例に取ると、一般的には、どこに住んでいるか、年齢や年収はいくらか、というように相手に望む条件などを入力しますよね。自分が望む条件にマッチする人の写真が表示されて、そこから気に入った人を選んでいくといったステップを踏むと思います。つまり、求める条件が先に来るんですね。細かい仕組みは違っていても、あらゆるマッチングサービスがほとんど同じだと思います。
ですが、条件を少し緩めるだけでも出会える相手の数は飛躍的に増えますよね。つまり、自分が絶対に譲れない条件は大切にしつつ、譲れる条件をいかに下げていけるかということで、出会える企業や人の数は増えるはずです。でも、条件ありきで一度に見ていく今の仕組みで探していくと、どんどん可能性が狭まってしまいます。
実際、恋愛の相手にしても、企業にしても、一から十までこちら側の条件通りなんてことはほとんどありません。それなのに、最初から条件ありきで考えてしまう仕組みになっているんです。でも、一から十までの条件のうち、絶対にこれだけは譲れない。例えば、『在宅勤務だけは譲れない、その他はある程度の融通を利かせられます』みたいな方であれば、割とどの企業でもマッチできるはずです。
この時に大切になってくるのが、この自分にとって譲れない条件とは何か?を正しく認識することだと思います。そういったことを指標化できる診断を開発しています。
今のところは恋愛のマッチングという形の運用を想定して開発していますが、ゆくゆくは企業とのマッチングへも展開できるようにしていきたいです。いわゆる結婚による事業承継も含めた人と人、人と企業のマッチングもサポートできればと考えています。」
いわゆる高望みから入るのではなく、これだけは嫌というところから入るマッチングですね。それによって選択肢を広げる。選択肢を広げた分、可能性は大きく広がるわけですね。
村井氏
「最初から条件ありきで探していくと、その条件から少しだけ外れているだけで、本当は許容範囲の相手だったのに、そもそも表示すらされない。目にも触れる機会もないまま、といった状況を排除することができるわけです。こうした状況を排除するには、『欲しい条件』から『譲れない条件』へと判断基準を変えることが重要ではと考えています。
また、この診断にはもう一つの軸があります。それが『現在の価値観』と『育ってきた環境から生まれる価値観』を知ることです。育ちを無視して価値観は測れませんし、価値観があるからこそ個人個人の好みが生じます。
人、あるいは企業とのマッチングを考える上で、今現在の価値観、例えば待遇などへの期待は確かに大きな要素です。しかし、ここまで培ってきた価値観から生じる、人または企業との相性は簡単に看過できないものがあるでしょう。それこそ付き合いを続けていく中での『譲れない価値観』というのはあるはずですからね。
こうした観点からマッチングを考えるサービスというのは、他にはないのではないでしょうか。
この価値観を診断する部分に関しては、多分に心理学的な要素を含んでいるものになるかと思います。現在、家族心理学を専門とされている某大学の准教授をやられている先生とともに設問文などを考えていて、マッチングサービスとしては異例の高い精度を誇る診断ができるように取り組んでいます。現時点でかなり質の高いところまで仕上がってきています。」
ウェルビーイングと幸せになるためのDX
新しい試みなので困難もあると思いますが、確かに画期的なプロジェクトのように感じます。こうしたプロジェクトも含めて、村井先生は今後社会に対してどのような活動をしていきたいと考えているのでしょう。
村井氏
「すごく風呂敷が大きくなってしまいますが、私は人は必ず幸せになるために生まれてきたと思っています。
もちろん、私自身もある日突然『私は生まれてきて良かったんだ』と思えたわけでもなく、それこそこれまで生きてきた環境の中で培われたり、自分で積み上げてきたものであったりと、紆余曲折を経てそう思えるようになりました。それがやっぱりウェルビーイングだと思うんです。
とは言え、そういう想いを不幸にして得られない方もたくさんいらっしゃいます。私が社労士として多くの方とお話する中でも、歪んだ自己認識で自分を貶めてしまった結果、ハラスメントをしてしまったり、逆に通常の指導なのにハラスメントと感じてしまったりするといったケースも少なくありません。
例えば、『ナメられたと思った』と言う理由で過剰に反応してしまう人などが典型だと思いますが、そういう思考の背景にはやはりウェルビーイングでいられる前提となる認知が歪んでしまっていることがあると思います。その理由をさらに掘っていくと、自分にとって譲れないところはどこなのかや、自分の価値観の根底にあるものは何かを知る機会がないまま、不幸なマッチングが行われてしまったことがあると思います。
ですので、私はこの診断を使って、あるいは社労士としての業務を通して、こうした自己認識の歪みをできる限りフラットにするお手伝いをしていきたいと考えています。その結果、日本の国民全員が幸せになれるのではないでしょうか。
上司部下の関係においても、互いに仕事上の立場はともかく、人としてフラットな状態で互いにリスペクトしあえれば、ハラスメントのようなすれ違いも起こりにくくなるでしょうし、恋愛にしても、人と人がフラットになった状態でこそ生まれ、恋愛、見合い問わず結婚する人も増えて少子化にも貢献するなど、それこそ事業承継問題にもプラスに働くかもしれません。
いずれにしても、時代の流れとして多様性が広がる世の中では、個人の多様性を受け入れることが、人と人、人と企業のあり方なのではないでしょうか」
取材を終えて
多様性を受け入れることが人と人、そして人と企業のあり方だと語る村井先生。人によっては「これだけはやりたくない」といったことがあるのを前提に、それを多様性として認められる企業であり、人であることが、これからの社会に求められることなのかもしれません。
企業もその根本にあるものは人です。つまり、人と人がウェルビーイングの観点で良好な関係を作ることができたら、それは幸せな未来に繋がっていくはずです。
今回のインタビューを通して、「幸せになるためのDX」というキーワードが頭に浮かび、それを本記事のタイトルにも使用しましたが、ご自身の業務を通して「人が幸せになる」ために全身全霊で取り組んでおられる姿を、村井先生から垣間見ることができました。
新しいサービスが完成した暁には、ぜひまたお話をお伺いしてみたいと思います。
(DXportal®編集長:町田英伸)
村井社会保険労務士事務所
名称:村井社会保険労務士事務所
所在地:愛知県豊橋市柱三番町74
代表:村井 真子
主な業務内容:経営者向け人事労務コンサルティング、個人向けハラスメント・労務トラブルコンサルティング、他
ホームページ:https://masako-murai.org/