本特集では、経理のDX(デジタルトランスフォーメーション/以下:DX)にまつわるお話を、全3回にわたり神奈川県横浜市に本拠を構えるユナイテッドブレインズ(以下:同法人)の3氏にインタビューして参りました。
同法人は士業からデジタルを活用したコンサルティングなど、上場企業から中小企業の活動を幅広くサポートしています。
2000年(グループの設立は2006年)設立した当時からインターネットの可能性やデジタルに着目し、多くのクライアントの支援をしてきた同法人ですが、最終回の今回は、この分野において豊富な知見を持つ代表の小林氏が考える経理のあり方、そして組織としてのDXについてお聞きしました。
これからの未来において経理のあり方はどうなるのか、今から何を準備しておけばよいのか、未来を見据える企業経営者様は、どうぞ最後までお読みになり、自社の経理を変革するための一助としてください。
目次
DXが進むと経理部門はなくなるのか
経理をDXするということは、これまで経理担当者が行っていた記帳や計算といった単純作業の多くを、機械によって自動化・効率化していくことを指します。つまり、人の代わりに機械に仕事をさせるということです。
AI(人工知能)やOCR(画像データのテキスト部分を自動的に認識し文字データに変換する光学的文字認識機能)の発達により、経理部門の仕事は必要なくなってしまうのではないか。
このような不安を抱える経理担当者は決して少なくないでしょう。この疑問に対して、小林氏はどのように考えているのでしょうか。
(小林氏)
たしかに経理部門の業務は以前より効率的になるかと思いますが、経理が完全に無くなることはないと考えます。
仕訳やデータ入力、あるいは資料と資料が一致していることを確認する「バウチング」などの単純作業は必要なくなると考えられていますが、最終的な数値のチェックは必ず人の目で行わなければなりません。
つまり、ハードの省力化はできても、ソフトの省力化は難しいということです。
人の目で最終的なチェックを行うことにより、その資料から将来の構想がみえてくることもあるでしょうし、そうした判断はデジタルで置き換えることはできないでしょう。
それでも、これまで経理にかけてきたリソースの多くを削減することができますので、これからは空いた時間を利用して、人間がやるべき判断や戦略的な部分にリソースを振り分けていくのが得策でしょう。
つまり、これからの経理担当者は、単純作業をこなすことから、知恵を活かした仕事内容へとシフトしていくことが求められるのです。
「経理」という仕事自体はなくならないものの、今後はその仕事に求められる内容自体が変わっていくというのが小林氏の考える「経理DXの先にある未来」なのでしょうか。
そこに求められるのが、経理部門における「知恵と経験」なのだとすると、すでにそうした力を身につけている経理担当者であれば、時代が変わっても経理という仕事を失うようなことはないのでしょうか。
小林氏は、このように楽観的に考えている経理担当者にとってはある意味ショッキングな言葉を続けます。
(小林氏)
ただし、今後はセキュリティ的な面で考えても、一部の経理業務は外部のプロに任せた方が安全だと考えています。
今まで企業の情報は紙で保存され、鍵付きのキャビネットや金庫に保管していました。
しかし、電子帳簿保存法への対応も含めて今後ますます社会全体のDXが進み、デジタルでの取引量が増える事が予想されます。
今までの「1対1」のセキュリティではなく、「1対多」のセキュリティに対応しなければならないのです。
この時、これまでの物理的な保管に傾倒していた知識と経験ではなく、膨大な量のデータという「無形の情報」を扱う経験が必要になります。
そうしたデジタルデータの取り扱いに長けた人材が社内で確保でき、かつ強固なインフラセキュリティを構築できるのは、一部の大手企業に限られてしまうのではないでしょうか。
多くの企業にとってはデジタルデータの取り扱いという「知恵と経験」、さらには時代に即した「スピード」を兼ね備えた経理部門を作り上げる事は、かなり難しいミッションになるはずです。
それであれば、経理業務自体を信頼できる外部のプロに任せ、自社ではその分のリソースをより生産性の高い、本業に即した業務に振り分けるほうがはるかに効率的だとも考えられます。
実際に当法人では経理、労務における個人情報など、機密性が必要な情報を取り扱っており、そこを信頼して多くのクライアントが経理業務そのものを当法人にアウトソーシングしてくれています。
自社の経理部門をアウトソーシングに頼らず、正統にDXしていくために求められる力は「知恵×経験×スピード」だと、小林氏は語ります。
その真意はどこにあるのでしょう。
必要な力は知恵×経験×スピード
総務省はAIの新規事業創出効果により、新しく創出される職業のタスク量が増加すると予想しています。
つまり、無数のテクノロジーで経理をDXすることで、これまでの単純作業を繰り返す経理業務はなくなるかもしれませんが、経理部門の仕事がなくなることはなく、むしろ新たな業務が生まれてくるのです。
そこで新たな成果が生まれることこそが、DX時代の経理が持つべき付加価値と言って良いでしょう。
ただし、経理に新たな付加価値をつけるためには、「知恵×経験×スピード」といったスキルが重要になってきます。
(小林氏)
とても抽象的な話になりますが、「知恵」とは積み重ねてきた経験や判断力によって生みだされる「課題解決能力」のようなものです。
従来の経理部門は専門的な知識を必要としていましたが、この知識はAIなどのデジタル技術により必要がなくなるでしょう。
これは我々会計士や税理士でも同じことが言えます。
例をあげると最近の会計ソフトは進化し続けており、確定申告の大まかな部分は自動化されてきています。
つまり、これまで我々経理事務所などが担当していた確定申告代行などの業務は、わざわざ外注する必要がなくなるということを表しています。
しかし、だからといって当然のことながら、AIが進化した未来に我々の仕事がなくなるとは考えていません。
AIは正確な申告書を作成することはできても、それをもとにクライアントに経営アドバイスをすることはできないでしょう。
仮に数字上の問題点を指摘して、どのようにすれば数字が改善するかの案を提示する事ができたとしても、それを自社のビジネスモデルの中でどのように改善していけば良いのかまでは、AIがアドバイスできるような未来はこないはずです。
むしろ自動化が進むと個性や特徴がなくなり、「画一的」な世界が訪れてしまうのです。
もちろん、今後のビジネス界は大変難しい世界になりますが、だからこそこれからは個性を出す「知恵」が必要です。
知恵を得るためには裏付けとなる経験を積み続け、課題解決能力を上げるための「人間力」を高める必要があります。
未来の経理・財務部はこれからの世代の方たちが、どのようにデジタルを活かしていくのかスピード感を持って取り組むことが重要です。
デジタル化が進んだからといって、人がいらなくなるということではありません。
デジタルを活用しつつ、人間としての付加価値をどのようにつけていくのかを考え、行動し続け、ビジネスパーソンとして活躍し続けるために求められることこそ、「知恵×経験×スピード」の三拍子だと、私は考えます。
そうした掛け算の力を持った人材こそが、AIでは代替できない「人間力」を持った人材として、これからのデジタル社会では求められてくるのではないでしょうか。