既存の業務をデジタル化し、効率を上げたり利益を確保したりするのがDX(デジタルトランスフォーメーション/以下:DX)の重要な役割ですが、DXの本質はそれだけではありません。
業務効率化の先に新たなビジネスチャンスの創出や、社会的・経済的なイノベーションがあって初めて、DXを推進する意味があるのです。
しかし、企業がDXを推進してイノベーションを起こすというのは、口で言うほど簡単なものでは無く、越えなければならない壁がいくつも立ちはだかっています。
小売・流通業界の雄、セブン&アイ・ホールディングス(以下:セブン&アイ)ほどの企業であっても、その壁を乗り越えることは難しかったようです。
この記事では、セブン&アイが味わった3つのデジタル敗戦を振り返りつつ、そこから学ぶべき教訓について考えてみたいと思います。
小売・流通業界に限らず、企業のDX推進に携わるすべての経営者・担当者は、転ばぬ先の杖として、これらの事例からDX推進成功へのヒントを学び取ってください。
目次
セブン&アイDX3つの敗戦
まずは、セブン&アイのDX推進における3つのデジタル敗戦を振り返ってみます。
これらの事例について、それぞれ何が問題であったのかを考えながら読み進めてみてください。
オムニ7
リアル店舗とECサイトの垣根を取り払い、双方のメリットを活かしたユーザー体験を提供する、小売店のマーケティング手法【オムニチャネル】のポータルサイトとして、2015年にスタートしたECモール【オムニ7】。
グループ内の店舗(ブランド)を問わず、リアルとネットの融合を図って作られた【オムニ7】は、売上目標1兆円を目指してリリースされたものの、サービス開始直後からその売上は低迷し続けました。
その後、数度に渡るリニューアルを行うものの、結果的にECサイトとしては十分な成果を上げることができず、2023年にサービスを終了することがアナウンスされています。
セブンペイ
記憶に新しいのが、【セブンペイ】の破綻です。
スマートフォン決済サービス【セブンペイ】は、「スマホを通じて顧客や購買情報などのビッグデータを幅広く収集」する事を目的に、2018年7月に鳴り物入りでスタートしました。
しかし、開始直後に不正アクセスが発覚。総額3,800万円という莫大な被害を出すという事態を招き、わずか3ヶ月でサービスは終了しました(サービス終了のアナウンスは開始から1ヶ月後)。
【セブンペイ】失敗の大きな理由は、「2段階認証」を怠ったセキュリティ管理の甘さと、セブンアプリにログインするための【7iD*】からの移行がスムーズにいかず、顧客からの問い合わせが殺到し、店頭の従業員がその対応に追われたという2点が指摘されています。
*【7iD】はセブン&アイで導入されている会員システムであり、会員総数約1,650万人です。【セブンペイ】のリリース当初は【7iD】のアカウントを用いて、セブンペイの登録ができるとアナウンスされていましたが、リリース直後から「のっとり」による被害が続出。対応策としてセブン&アイ側では、会員のパスワードをリセットして再設定する必要性をアナウンスしました。しかし、元のパスワードを覚えていない人から、店頭で従業員への問い合わせが殺到するなど、大混乱を招きました。
DX戦略の崩壊
2021年秋、セブン&アイのDX部門トップを務めグループのDX戦略を統括していた米谷修氏が、ひっそりとグループを去りました。
これを受けてセブン&アイでは、2020年4月に発足したDX戦略本部を解体し、1,200億円を投じて推し進められていたDX戦略の撤回を発表したのです。
ちなみに、1,200億円というDX投資は、流通業界におけるDX投資比率(売上に対するIT投資額)としては、他社の2倍を超える水準とされています。
それだけ巨額な経費を投じて行われていた戦略を白紙撤回するという事は、事実上、セブン&アイの「DX戦略の崩壊」を意味しているといっても過言ではありません。
現在でも、その混迷は収まっていないといえるでしょう。