【日本酒×DX】酒造メーカーのデジタルトランスフォーメーション最前線

【日本酒×DX】酒造メーカーのデジタルトランスフォーメーション最前線

日本酒業界のDX事例

日本酒業界のDX事例

日本酒業界では、伝統的な製法や技術を守りつつ、DXを推進する動きが活発化しています。

老舗蔵元が人事DXに着手し、海外市場拡大や事業多角化に備えている事例や、IoTを活用して蔵人不足に対応している事例など、各地の酒蔵がDXに挑戦しているのです。

そこで本章では、こうした日本酒業界におけるDXの先進事例をいくつか紹介していきます。

旭酒造のデータ活用による「幻の日本酒」の安定供給

山口県岩国市に拠点を構える、「獺祭」を製造する旭酒造では、杜氏や蔵人の不在という危機的状況の中、IoT技術やAIなどの最新テクノロジーを活用し、データに基づいた酒造りを実現しました。

1990年代の半ば、杜氏や蔵人がいなくなり経営が振るわなかった頃に、社員だけで製造工程のすべてを担う内製型酒造りに切り替えようと考え、データ活用による日本酒造りをはじめたのです。

杜氏の経験と勘だけに頼っていた酒造りを見直して、タンク内の温度や麹を作るときの時間や温度経過などを計測して、すべてそのデータを見ながら生産する仕組みを先駆的に作り上げました。

これにより、経験の少ない人材でも0.1度単位、秒レベルの調整が可能となった結果、「幻の日本酒」と呼ばれるほど高品質な日本酒を安定的に供給できるようになったのです。

高砂酒造のNECグループ技術を活用した伝統継承

全国新酒鑑評会では金賞受賞の常連蔵である、北海道旭川市に居を構える高砂酒造では、NECグループの提供するデータ分析クラウドサービスを導入して、酒造りの工程を可視化しました。

NECグループが提供する「清酒もろみ分析クラウドサービス」は、酒造りの工程のデータをデジタルで見える化するシステムです。データを見える化するシステム自体は珍しくありませんが、NECグループのシステムの特徴は「酒蔵の現場の意見を聞きながらシステムを作る」ことにあります。

ただ単に、酒造りのポイントを数値化するだけでなく、現場の動きをなるべく変えないように、タブレット入力のフォーマットなどの分かりやすさにこだわって作られているのです。

これにより、現場の酒造り担当者が今までの作業をほとんど変更することなく、過去の成功例データを参照しながら、品質の高い日本酒を安定的に製造することが可能になりました。

金井酒造店のDXによるスピード再成長

創業150年以上の歴史を持つ、神奈川県の老舗蔵元・金井酒造店は、生産性向上と後継者不足という中小企業の二つの問題に直面していました。そこで、同社はDXを強みとする中小企業特化型ファンドとのM&Aを通じて、これらの問題の解決に乗り出したのです。

このファンドは、DXを推進することで中小企業の企業価値を高め、次の経営者に引き継ぐという手法を用いています。

金井酒造店の場合、ファンドが経営に参画することで、DXの専門知識とリソースを活用した改革を短期間で実行することができました。

その結果、業務のデジタル化や自動化、データ分析に基づく意思決定などを導入し、生産性と品質の向上を実現。さらに、若手人材の登用や外部人材の招聘により、後継者問題の解消にも取り組み、同社はわずか数年でV字回復を果たし、持続的な成長軌道に乗ることができたのです。

光武酒造場の製造・業務・営業DX

芋焼酎「魔界への誘い」を筆頭に、清酒や焼酎など豊富なラインナップを揃える光武酒造場では、製造、業務、営業の3部門でDXを同時に進めることで、部署間の連携をスムーズにしました。

製造部門では、データに基づいた品質管理と安定生産を実現するという他の蔵と類似する取り組みを行っていますが、さらに他の部門のDXと掛け合わせることで、業務効率化と品質向上を両立させたのです。

例えば、製造部門だけでなく、業務部門(事務作業など)や営業部門も含めた全部門が、それまでは別々のソフトを使っていたものを、同じソフトに統一しクラウド管理することにより、システム化・統合し一元管理できるようにしました。

日本酒業界をDXするといっても、なにも製造工程をデジタル化することだけがすべてではありません。

バックオフィスを含めた企業としてのシステムすべてを統合してDXすることで、効率化や生産性は爆発的に進化し、そこから新しい価値が創出されるというDXの真髄に迫る好例ではないでしょうか。

IoTで杜氏を補助する日本酒製造の実証実験

「宮寒梅」を製造する宮城県の寒梅酒造は、大正7年から続く酒造メーカーです。同蔵では、IoTデバイスを活用した日本酒製造の実証実験を行いました。

もろみの温度管理にIoTデバイスを導入し、クラウド上でデータを一元管理することにより、リアルタイムでの状態把握と分析で杜氏の意思決定をサポート。さらには蓄積したデータを次世代に伝承することで、品質の安定化と向上を図ったのです。

これにより、熟練した杜氏の勘と経験に頼っていた従来の製造方法から、データに基づいた意思決定が可能になりました。

また、得られたデータを分析することで、品質のばらつきを抑え、安定した品質の日本酒を提供できるようになったといいます。

同蔵では、IoTを活用することで、日本酒製造の業務効率化と品質向上の両立が可能になり、伝統的な技術を守りつつ、革新的な取り組みが進められています。

まとめ~今後の日本酒業界のあり方とDX

日本酒業界の持続的な発展のためには、伝統と革新のバランスを取ることが重要です。そして、その鍵を握るのがDXと言って良いでしょう。

ただし、日本酒業界のような伝統文化を継承する業界においては、ただやみくもに効率化のためにデジタル化を行えばよいというわけではありません。

とはいえ、慢性的な人手不足と後継者不在の状況で持続可能な蔵の経営を行うためには、デジタル化をはじめとするDX推進も必須でしょう。

こうした相反する課題を解決していくには、デジタル人材の育成や異業種連携を進めながら、DXを通じて新たな価値創造と課題解決を実現していくことが求められます。

伝統を守りつつ、DXによるデジタル化の波を取り込んでいくこと。そして、そこから新たな酒蔵の形を生み出し、新時代のビジネスモデルへと変革していくことが、日本酒業界の未来を切り拓いていくのです。

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この記事の執筆者

DXportal編集長

町田 英伸

自営での店舗運営を含め26年間の飲食業界にてマネージャー職を歴任後、Webライターとして独立。現在はIT系を中心に各種メディアで執筆の傍ら、飲食店のDX導入に関してのアドバイザーとしても活動中。愛車で行くソロキャンプが目下の趣味。

DXportal編集長

町田 英伸

自営での店舗運営を含め26年間の飲食業界にてマネージャー職を歴任後、Webライターとして独立。現在はIT系を中心に各種メディアで執筆の傍ら、飲食店のDX導入に関してのアドバイザーとしても活動中。愛車で行くソロキャンプが目下の趣味。

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