様々な業界で積極的な取り組みが始まっているDX(デジタルトランスフォーメーション/以下:DX)推進。
そんな中、不動産業界は「DXの推進が遅れている」と言われる業界の1つです。
実際に、「まだまだ自分の会社には関係なさそうだ」と思っている不動産会社の経営者や担当者も多いのではないでしょうか。
しかし、不動産業界においても「AI査定」や「契約書面の電子化」などを始め、様々なDX推進施策の導入が既に行われています。不動産業界にも、DXの波は着実に来ているのです。
近い将来、不動産業界のDXが進むことは間違いなく、そうなった時に従来型のビジネスモデルしか持たない不動産会社の多くは、大きな後れを取ることになってしまうでしょう。
現時点でDXが進んでいない企業は、時代に取り残されないために、いち早くDX推進施策の検討を開始すべきと言えます。
そこで、これから3回にわたり、実際に不動産売買の営業員として現場経験も豊富な筆者が、不動産業界におけるDX推進の現状について解説してまいります。
連載第1回の今回は、「なぜ不動産業界のDXが遅れているのか」についてその原因と、解決すべき課題について解説します。
時代の変化に対応し、DX時代の不動産会社として生まれ変わるための第一歩として、ぜひ貴社の現状と照らし合わせて読み進めてみてください。
目次
不動産業界DX推進の現状
そもそも、一般的に言われる「不動産業界のDX推進は遅れている」と言われていますが、それは本当なのでしょうか?
その問いの答えを端的に示すデータがあります。
このグラフは、総務省が実施した「令和3年版 我が国におけるデジタル化の取組状況」の調査結果を示したものです。
不動産業界の結果を見ると、DXを「実施していない、今後実施を検討」と「実施していない、今後も予定なし」の合計、つまりは「現状、実施していない」と回答した企業が76.8%となっています。
この数値は、「その他」を除く23業種中ワースト7位という結果です。
不動産業界は、全産業に占める「売上高比率」や「法人数比率」を見てもわかる通り(上図「法人統計調査」参照)、国内主要産業の1つと言えるほどの市場規模であるにもかかわらず、DX推進については「他業界と比較して遅れている」という現状がデータで明らかになっているのです。
では、それはなぜなのでしょう?
根強く残るアナログ文化
不動産業界のDX推進が遅れている大きな理由の1つとしては、業界内に「アナログ文化が根強く残っている」ということが挙げられます。
筆者の経験でも、多くの不動産会社においては、以下のような光景が今でも珍しくありません。
- 顧客との対面でのやりとりを必須にしている営業スタイルを続ける
- データの入力の際は、基本的にExcelしか使わない
- 会社間の書類のやり取りのほとんどはFAXで行う
- メールよりも電話を優先する
- 帳簿は全て紙に印刷して保管する
これは不動産業界のDXの遅れを示すほんの一例に過ぎません。
時代は令和になっているにもかかわらず、その業務体制には昭和~平成初期の文化や習慣が色濃く残っており、他の業界ではすでに「ガラパゴス化した」とも言える昔ながらの業務体制が根強いのが不動産業界の特徴です。
例えば、次のような昔ながらのスタイルの顧客対応は、今でも当たり前に行われています。
- 顧客から「返信はメールでお願いします」と連絡をもらっていたとしても、電話で折り返す
- メールで資料請求の依頼がきても、「一度ご来店ください」とお願いする
もちろん、「リアルに顧客と向き合い、顔の見える関係を構築したい」という不動産会社や現場担当者の姿勢は必ずしも否定されるべきものではありません。
不動産という商品の特性を考えれば、営業に対する前向きかつ積極的な考えと評価できる部分もあるでしょう。
しかし、急速にデジタル化が進んでいる現代社会の中で、アナログな方法だけにこだわっていては、社会から遅れた業界になっていってしまうのは自明の理です。
ライフスタイルや考え方が多様化する中、誰しもがこれまでのような対面型の営業スタイルを求めているわけでもありません。
このままでは、利便性や効率性を求める顧客は、DX化が進んでいる一部の不動産会社に流れ、デジタル化社会から取り残された残りの不動産会社で、従来型の不動産取引を求める顧客を奪い合うような事態になりかねないのです。
現場従業員の意識
先に触れたように、不動産業界のDXが遅れている原因には、業界の体質自体がアナログに偏っているというだけでなく、営業担当者を始めとする現場従業員の意識そのものが影響しています。
不動産業界に限らず、現場で働く営業担当者たちは、売上目標(ノルマ)を達成することに重きを置いています。
その中でも、不動産業界で活躍している営業担当者の多くは、個人の力量やセンスに頼って売上を伸ばしてきた人たちで占められています。
つまり、社内で発言権の強い「優秀な営業マン」は、わざわざ新しいやり方を取り入れなくとも成果を上げることができているのです。
現状の仕組みで成果を挙げられている人は、「このままで問題ない」「今のやり方でいい」と考え、仕組みの抜本的な改革には及び腰になります。
わざわざ新しい考え方を取り入れてゼロからスタートしたり、新しい技術を学んだりせずとも、十分な成果を手にしている以上、こうした保守的な考え方に陥ることはある意味、当然なのかも知れません。
新型コロナウイルスまん延で変わりつつある不動産業界
一方で、これまでなかなかDXが浸透してこなかった不動産業界も、新型コロナウイルスのまん延をきっかけに、徐々にではありますが変わりつつあります。
総務省が令和2年に発表した「通信利用動向調査報告書(企業編)」における「テレワークの導入状況に関する調査」では、「不動産業界」は「情報通信業」に次いで導入実績が第2位となっていることが明らかになりました。
令和元年(棒グラフの青)と比べてみても、急速に普及していることがわかります。
これはアフターコロナのニューノーマル(新常識)として、以下のような変化が生まれた影響が考えられます。
- 大手企業を中心に、従業員のテレワークが積極的に導入された
- 対顧客との商談において、リモートツールを活用する会社が増えた
テレワークの導入においても、業界全体で見ればまだまだ課題は残されているものの、不動産業界においても着実に変化の兆しが現れています。
新型コロナのように、予見不可能な事態に臨機応変に対応するためにも、物理的・時間的な制約を大きく取り払うデジタルツールの活用は不可欠です。
今後は不動産業界においても、テレワークだけでなく他のデジタルサービスが活用されていくことが期待されます。