2024年、出版業界はDX(デジタルトランスフォーメーション/以下:DX)の波に乗り、無人書店の進出と電子書籍市場の拡大という新しい流れを生み出しています。
これらの変化は、今後は一般の書店や中小の出版社であっても、市場での競争力を保つための新たな戦略やテクノロジーの採用を促していると言えるでしょう。
そこでこの記事では、出版業界のDXの最前線であり、2024年のトレンドでもある、無人書店の展開と電子書籍市場の拡大を通して、これらの変化が出版業界が抱える課題にどのように影響を与えるのかを探ります。
目次
出版業界が抱える課題とDXへの取り組み
出版業界は特に近年、多くの課題に直面しています。何より大きな課題は市場の縮小です。1996年をピークに紙媒体の出版物の売り上げは減少傾向にあり、特に雑誌の売上が落ち込んでいるため、市場規模が縮小し、出版社や書店の数も減少しているのです。
加えて、労働条件の厳しさ、低賃金や長時間労働も業界の問題点となっています。
さらに、出版物の販売低迷、再販売価格維持制度の弊害、高い返品率が出版業界の課題といわれています。国によって、状況は異なるものの、これらの課題は世界中の出版社が抱えている共通の悩みです。
2024年の出版業界は、これらの課題を克服するためにDXを進めています。
英ロイター研究所の報告によれば、出版社は広告収入の減少に対処するために、デジタル定期購読、メンバーシップ、寄付の継続的な成長に期待しており、8割の出版社が主な収入源としてサブスクリプションやメンバーシップに取り組んでいるとされています。
また、日本の出版市場に目を転じると、特に約8割をコミックの売上が占める電子書籍の市場が、ここ数年は急増しています。
これは、コロナ禍を契機にユーザーのライフスタイルが大きく変わった結果でもあるでしょう。
こうした出版市場の状況は、出版社のみならず書店にとっても重大な問題です。規模の大小に関わらず、紙の書籍の出版と販売に関わるすべての人にかかわる問題です。
今や、デジタル戦略の策定と実施は、どんな規模のビジネスでも避けては通れない喫緊の課題といって良いでしょう。
今後の事業戦略において、DXを進め、新しい収益源を探求することが不可欠であり、それなくして出版業界の持続可能な成長と競争力の維持は果たせないのです。
無人書店の展開
技術の進歩に伴い、無人書店は出版業界に新しい風をもたらし始めています。
大手出版取次企業であるトーハンと日本出版販売(日販)は、この新しい形式の書店を展開し始めており、物流と販売の効率化、そして新しい購買体験を提供する可能性を模索しています。
日販は、2023年9月下旬に東京メトロ溜池山王駅構内に完全無人書店を出店しました。
この新しい無人書店「ほんたす ためいけ 溜池山王メトロピア店」は、進化し続けるデジタル社会のビジネスの中にあって、持続可能な新しい書店モデルを目指して設立されています。
一方、トーハンは2023年度中に傘下の書店複数店舗を一部無人化する計画を発表し、204年3月15日には都内3店舗目として「メディアライン大山店」を東京都板橋区にオープン(有人・無人ハイブリット型24時間営業)しました。
トーハンでは、既存店舗が抱える人件費の高騰という問題を解決し、書店の新たなビジネスモデル構築につながる可能性を求めての展開です。
この動きは、今後、無人書店が商業施設や文化施設などと連携し、空間デザインを取り入れた新しい購買体験を提供する場となることも視野にいれた計画でもあります。
また、トーハングループは無人書店の実証実験を開始し、小売店向けDXソリューションを提供する企業と協力して、次世代書店の実証実験を開始することも発表されています。
こうした2大出版取次企業の取り組みは、出版業界におけるDXの進むべき道筋を示しており、無人書店が販売と顧客エンゲージメントの新しい形式を提供することで、出版業界における物流と販売の効率化を促進する可能性があるとして、大いに注目を集めているのです。