電子化やクラウド導入の需要が高まる状況下で、DX(デジタルトランスフォーメーション/以下:DX)やIT化を目的と捉えてしまい、本来やるべきことを見失ってしまう企業は少なくありません。
しかし企業が本来持つべき真の目的はDXではなく、成果を出して売上を立てることであり、そのためにはまわりにある課題や悩みを解決してビジネスを変革することが不可欠です。
今回はDXにおいて重要な考え方となる「問題解決」に焦点を当てて、アメリカを代表する哲学者であり教育学者のジョン・デューイ(1859~1952)が提唱している5つのステップを紹介いたします。
5つのステップを踏むことでDXにおいて重要な考え方が身につきますので、自社のプロジェクトを進めるにあたりぜひ取り入れてみてください。
目次
問題解決に不可欠な5ステップ
「問題解決」というと簡単に聞こえますがその手順は奥深く、単純に「サービスを提供してニーズを満たせばいい」というものではありません。
ジョン・デューイが提唱している「問題解決学習」はその真意を表すものであり、1つの問題に対して仮説・検証を繰り返して得た経験がさらなる学びとなる、という考えをベースにしています。
DXにおいてどのように5つのステップを使い分けるのか、各段階における考え方と進め方の例を挙げながら紹介してまいります。
【デューイに学ぶDXの問題解決5ステップ】
- 問題に気付く
- 問題の原因を明確にする
- 仮説を提案する
- 仮説を推論する
- 仮説を検証する
ステップ1:問題に気付く
問題解決の最初のステップは、人々が抱える悩みやニーズに気づくことです。
ビジネスにおいてもっとも大切なことの1つは「クライアントが抱える問題を解決する」ことであり、相手が持つ悩みを知らないまま行動しても成果に結びつけるのは難しいでしょう。
中小企業がDXの面から問題を解決する際は、まず自社が抱える課題に目を向けてみることから始めるのがポイントです。
たとえば「営業担当者が新規開拓に割ける時間が少ない」という問題があるのなら、それはビジネス変革のために必要な問題解決の最初のステップになります。
この悩みを例に取って、それぞれの段階でどのように行動するべきか、肝になる考え方もあわせて解説いたします。
ステップ2:問題の原因を明確にする
2つ目のステップは問題の原因を明確にすることであり、先ほどの例をあげるなら「営業担当者が新規開拓に割ける時間が少ない」という悩みはなぜ起こったのかについて考えます。
ここで大切なのは、複数の視点から多角的に物事を見ることであり「事務作業が多い」といった1つの意見だけでなく、より広く深い範囲で原因を読み解くことです。
たとえば、以下のような原因が一例として考えられます。
- 営業部門の人材不足
- マネジメント能力不足
- 事務作業が複雑かつ大量で時間がかる
- 営業報告会議の準備が負担になっている
- 既存のクライアントのフォローで手一杯である
こうした意見を関係者が出し合うことで、1つの問題に対していくつも解決するべき事項があることがわかり、その中からもっとも効果が高いものを選びやすくなります。
ステップ3:仮説を提案する
3つ目のステップは、話し合って出された原因に基づいて解決策を出し合うことです。
先ほどの「営業担当者が新規開拓に割ける時間が少ない」問題を話し合った結果、最大の要因は「事務作業の量が多すぎるため時間がかかる」という結論に至ったとします。
本段階ではこの原因に対してさらに議論を重ね、AI(Artificial Intelligence=人工知能)が作業代行する、営業部門を新規開拓・既存顧客フォローチームの2つ分けるなどの解決案を出していくことになります。
この時にもアイデアの数はできる限り多い方がよく「実行が難しいものは却下する」といったマインドを捨てて、大きなことから小さなことまで話し合ってみることがポイントです。
日本では上司の発言を尊重し、部下は反対意見を持っていても述べずに従うような「忖度を重んじる文化」がありますが、DXを進めていくためにはそのような考えは捨てなければいけません。
お互いを尊重し各々が思うように意見を出し合い議論する場から、イノベーションを起こすような案が生まれるのです。
ステップ4:仮説を推論する
4つ目のステップは仮説を実行する前にどのような課題があるか、また仮説から得られる効果などを推論する段階です。
たとえば仮説を提案する段階では、AIに事務作業を代行してもらう案を出しましたが、それらに対する推論を以下のように挙げていくのです。
- AIを導入するコストはいくらかかるのか
- AIによって事務作業のどの工程が省けるのか
- AIが作業代行すると時間がどのくらい生まれるのか
- 新規開拓に何時間かけられるようになるのか
- 結果として新規顧客が何社獲得できる可能性があるのか
仮説を立てたら検証するのが定石ですが、その前に1つステップを挟んで推論することで、予想していた内容と試行した結果のギャップを確かめやすくなります。
ステップ5:仮説を検証する
最後のステップは、実際に仮説を検証してどの程度のパフォーマンスが出るか確認する段階です。
ポイントは推論した仮説通りに物事が進むか確かめて、数値で差異を測ることであり、ここで出たギャップを活かしてさらなる検証につなげることです。
たとえばAIを導入して1つの事務作業を代行した結果、営業担当者1人が新規開拓に1日1時間使えるようになったとします。
仮にステップ4の段階で「作業をAIが代行することで1日30分の余裕が生まれる」と予測した場合、倍の効果があったことがわかります。
さらにその時間を増やすためには何をするべきか、さらにAIが代行する作業を増やすのか、次はSFA(Sales Force Automation=営業支援システム)を導入して会議の準備時間を効率化するのか、といった案も出てくるでしょう。
もしくは、AIに事務を代行させてもほとんど新規開拓にまわせる時間が捻出できなければ、そもそも最大の要因だと考えた「膨大な事務作業」ではない、他のボトルネックがあると予想できます。
このように検証することによって、効果を測定し次のアクションを決めることが可能となり、そのプロセス自体が自分たちの学びにもなり得ます。
悪戦苦闘することで得た経験が糧となり、新しいビジネスを作る一端となるのです。
まとめ
今回はDXにおいて必要な問題解決について、5つのステップを用いて各段階でやるべきことを解説いたしました。
企業の目的がDXやITにすり替わってしまい、本来解決するべき問題に向き合うことを忘れてしまっては、ビジネス変革を実現できるとはいえません。
教育学者のデューイは問題を解決することは1つの実験であり、自ら体験することで学びが増え、次の成果につながると教えてくれています。
DXを進める企業の担当者は、成功のためには課題の解決が鍵であり、そのためには試行錯誤を繰り返すことがもっとも大切であることを心に留めておいてください。