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DX失敗の事例
前述の通り、DXを推進する企業が増える中、期待した成果を得られずに失敗するケースも少なくありません。
そして、DXの失敗は様々なリソースが限られている中でDXを進めなければならない中小企業に限った話ではなく、より潤沢なリソースを有する大手企業であってもDXに失敗してしまうことはあるのです。
ここでは、大手企業3社のDX失敗事例を紹介し、その原因を分析します。
P&G社の事例:目標の具体性不足による失敗
世界的な一般消費財メーカーである「The Procter & Gamble Company(P&G社)」は、2011年に全社的なDX推進を宣言しましたが、結果的に失敗に終わりました。
同社のDX失敗の主な原因は、達成したいゴールや指標の設定が曖昧なままで、莫大な投資を行ったことです。
P&G社は「地球上で最もデジタルな企業になる」という目標を掲げ、データドリブン(データに基づいて判断・行動する)な企業への変革を目指しました。確かにでデータドリブンは昨今のDXの大きな潮流の一つですが、「最もデジタルな企業」という曖昧な目標では、どのようなデータを、どのような尺度で、何のために分析するのかすらはっきりしません。
こうした曖昧な目標しかない状態でかつ世界的な不況下にもかかわらず、具体性に欠ける施策に巨額の投資をしたため、期待した効果を得ることができませんでした。
同社は当時すでに市場でトップシェアを確立していたものの、漠然とした目標のみを掲げて突き進んだ結果、投資額に見合うプラスの影響がなかったどころか、当時同社が市場でトップシェアを確立していた分野の一部で競争力が大きく低下する事態となりマイナスの影響を及ぼすに至ったのです。
結果として、株主から責任を追及された当時のCEOは、辞任に追い込まれることになってしまいました。
Ford社の事例:経営と現場の乖離によるDX頓挫
米自動車メーカー大手のFord Motor Company(Ford社)は、2014年に大規模な事業変革計画を発表し、DXを推進する子会社「Ford Smart Mobility社」をシリコンバレーに設立しました。10年前にDXに向けて動き出したことは時代の流れを読んだ素晴らしい判断だといえるでしょう。
しかし、Ford Smart Mobility社は、自動車製造部門を含む他の事業部門とほぼコミュニケーションを取らずにサービス開発を進めてしまいました。この重大なミスの影響で、Ford社全体のDXをリードするはずだったFord Smart Mobility社と、製造部門の現場との間に大きな認識の乖離が生じてしまったのです。このため、組織全体としての一貫したDX推進は困難な状況に陥ってしまい、デジタル事業部は孤立してしまいました。
その結果、2017年にはFord Smart Mobility社は約3億ドルの損失を計上し、Ford社の株価も約40%下落するなどの業績不振に陥りました。この責任を取って、Ford社のCEOは辞任する事態となってしまいました。
GE社の事例:レガシーシステムの存在がDX推進の障害に
米大手複合企業のGeneral Electric Company(GE社)は、2011年から「インダストリアル・インターネット」戦略を掲げ、産業用IoTプラットフォーム「Predix」の開発に着手しました。
さらに同社は2015年に「GE Digital」という専門部門を設立し、2020年までに世界のソフトウェア企業トップ10入りを目指すという野心的な目標を掲げました。
しかし、歩幅を併せてDXに取り組まなければならないはずの各事業においては、既に孤立したレガシーシステムが存在しているような状況がありました。その結果、各部門の担当者の視点からすると、システムの変更に伴う不可があまりにも重く、新たなDXツールを導入・活用するメリットが乏しい状況でした。
結果として、社内の各部門の協力を得ることができず、期待した成果を上げられなかったのです。
その結果、株価の低迷を招き、GE Digitalは長期的なイノベーション目標よりも短期的な業績向上を当面の目標にせざるを得なくなりました。最終的にDXプロジェクトは失敗。当時のCEOも退任に追い込まれてしまったのです。
DX成功のための処方箋
DXを成功に導くためには、以下の4つの重要なポイントが重要です。
- DXの必要性を理解し、自社に適した目的・ビジョンを設定する
- リーダーシップを発揮し、全社的な意識変革・体制構築を進める
- 外部人材の登用や社内人材の育成に計画的に取り組む
- レガシーシステムの段階的刷新を進める
これらの要素を適切に組み合わせることで、効果的なDX推進が可能となります。
DXの必要性を理解し、自社に適した目的・ビジョンを設定する
DXはあくまでも手段であり、それ自体が目的ではありません。重要なのは、自社がDXを通じて何を実現したいのか、明確なビジョンを持つことです。
経営層は、自社の強みや課題を十分に分析し、DXによってどのような価値を創出し、どのような競争優位性を獲得したいのかを明確に定義しなければなりません。
この明確なビジョンが、全社的なDX推進の原動力となります。
リーダーシップを発揮し、全社的な意識変革・体制構築を進める
DXの成功には、経営層の強力なリーダーシップが不可欠です。トップダウンで全社的な意識変革を促し、DXの重要性を組織全体に浸透させることが求められます。同時に、従来の縦割り組織の弊害を取り除き、部門間の連携を強化する体制づくりが必要となります。
リーダーがビジョンを示しつつも、現場の声を聞きながらコミュニケーションを取って進めていくのが、理想的なDX推進のあり方なのです。
データやデジタル技術を活用した新しい価値創造には、異なる部門や専門性を持つメンバーの協働が欠かせません。
外部人材の登用や社内人材の育成に計画的に取り組む
DXを推進するためには、適切なスキルと知識を持つ人材の確保が不可欠です。
必要に応じて外部からデジタル人材を登用することも重要ですが、同時に既存の社内人材のデジタルスキル向上にも注力する必要があります。
デジタル人材の育成には時間がかかるため、長期的な視点を持って計画的に取り組むことが重要です。
また、社内でDX推進を担う中核人材の育成も並行して進めることで、持続的なDX推進体制を構築できます。
レガシーシステムの段階的刷新を進める
すでに述べた通り、多くの企業にとって、長年使用してきたレガシーシステムの存在がDX推進の大きな障壁となっています。しかし、レガシーシステムの刷新は一朝一夕には実現できません。
重要なのは、段階的にシステムの刷新を進めながら、並行してDXを推進していくことです。
短期的な成果と長期的な変革のバランスを取りつつ、柔軟かつ戦略的にシステム更新を進めていくアプローチが求められます。
これら4つの要素を適切に組み合わせ、自社の状況に合わせて実践していくことで、DXの成功確率を高めることができます。
ただし、DXは継続的なプロセスであり、常に変化する環境に適応しながら進化させていく必要があることを忘れてはいけません。
まとめ~DX失敗の教訓から学び、継続的な成功へ歩み続けよう!
DXの成否を分ける重要な要素は、何よりもまずその必要性を深く理解し、明確な目的を設定することにあります。
- DXのビジョンや目的が不明確
- 組織の壁とリソース不足
- レガシーシステムの足かせ
これらの課題を克服するためには、経営トップの強力なコミットメントが不可欠です。
他社の失敗事例を他山の石として学び、自社の現状を冷静に分析することが、DX成功への近道となります。
DXは一朝一夕に実現できるものではなく、長期的な視点と継続的な取り組みが求められます。その道のりは決して平坦ではありませんが、地道な努力を積み重ねることで、着実に成果を上げることができるでしょう。
明確なビジョンを持ち、全社一丸となって取り組むことで、DXによって貴社が大きく成長するチャンスが掴めるはずです。