【旅客バスのDX事例】苦境に打ち勝て!業界活性化のヒント2事例

【旅客バスのDX事例】苦境に打ち勝て!業界活性化のヒント2事例

乗合バスに代表される旅客バス業界は、以前より少子高齢化による利用者の減少や運転手などの労働力不足といった課題と、安全面への配慮でバス運転手の勤務時間などが法令で厳格に定められた結果、経営を圧迫していました。

その苦境に追い打ちをかけたのが、新型コロナウイルスの流行です。

緊急事態宣言化では県をまたぐ移動に対して自粛要請が出された影響で、長距離バスや観光バスの需要は激減。路線バスも自粛要請の影響で利用者が減少してしまい、多くの路線が減便するような事態になりました。

さらに、新型コロナ対策として新たな設備投資が発生したことに加えて、感染拡大期には席数を削減する必要に迫られるケースもあり、コロナ禍で大幅な収益悪化が生じています。

高速バスを含め、旅客バスは人々の移動や生活を支えるライフラインですが、このまま収益の悪化が続けば、公共交通機関としての役割が果たせなくなりかねません。

このような問題解決のためには、DX(デジタルトランスフォーメーション/以下:DX)推進による、効率の良いバス事業の運営が必要です。

今回は、まずは乗合バスや高速バスといったバス業界が直面している課題を整理し、その上でそれらの課題を乗り越えるためにDX推進を行っている企業の2事例を紹介します。

DX推進は、一朝一夕に結果が出るものではありませんが、先行事例を苦境を乗り切るためのヒントとして活用し、自社のDX戦略を検討してみてください。

バス業界がDX推進を求められる理由

バス業界がDX推進を求められる理由

現代のビジネスにおいて、業務効率化と収益性確保の観点からDX推進はマストな企業戦略です。

しかしながら、バス業界は他の業界に比べてDX推進が遅れているというのが現状で、新しい時代の流れに合わせてビジネスを変革していく波に乗り遅れていると考えられています。

コロナ禍による収益悪化はバス業界に大きな爪痕をダメージを与えており、このままでは公共機関としての存続すら危ぶまれるため、バス業界においてDX推進はまさに一刻の猶予もない急務なのです。

DX推進が必要な理由は、バス業界が長年抱えてきた構造的な課題にあります。

労働力の不足

労働力の不足

ご存じの通り、バス運転手の労働力不足は、年々深刻化しています。

少子高齢化による労働人口の減少は日本社会全体の問題ですが、バス業界の人手不足は少子高齢化だけでは説明できません。

バス業界の労働力不足を招いた原因は、バス業界の規制緩和と、それによってもらたされた過剰な価格競争です。

バス業界に関連する規制緩和は、貸切バスについては2000年の2月、乗合バスについては2002年2月に実施されました。

この規制緩和により、異業種からバス業界に事業参入することが容易となり、業者の数が一気に増加。その結果、企業間で過剰な価格競争が起こったのです。

長距離バスを中心に各社が競うように低価格のプランを出した結果、バス運転手の労働環境の悪化を招きました。

2000年代後半から2010年代にかけて、価格競争のしわ寄せを受けて過重労働を強いられたバス運転手が、居眠りや体調不良により事故を起こすという事態が立て続けに発生し、バス業界の抱える問題点が明るみに出たのは記憶にある方も多いでしょう。

その後、企業の取り組みや政令の改正の結果として、バス運転手の労働環境は改善してきたものの、未だに課題を抱えている企業も少なくありません。

また、一時的とはいえ注目があつまったバス事故報道の影響もあり、バス運転手という仕事に対するイメージ自体が悪くなり、若手の運転手が増えにくい状況を作り出してしまいました。

その結果、バス運転手の高齢化は止まらず、他業種よりもさらに深刻な労働力不足へと繋がっていったのです。

利用者が減少する乗合バス

利用者が減少する乗合バス

路線バスを初めとする乗り合いバスは、車の免許を持たない人や車の免許を返納した高齢者、マイカー未所有者などにとって、重要な移動手段です。

バスがあることで、市街地や駅から距離がある場所であっても、不便なく暮らすことができるといった地域も少なくありません。

しかし、乗合バスの利用客は様々な理由により減少しています。中でも特に大きな影響を及ぼしているのは以下の3点です。

  • 少子高齢化による通学客・通勤客の減少
  • 地方の過疎化による利用者減少
  • 都市部のタクシー台数、利用客の増加

少子高齢化や地方の過疎化は日本社会全体の問題であり、バス業界だけに限られた問題ではありません。

しかし、3点目の都心部におけるタクシー利用の拡大は、DXを筆頭に訪れている時代の流れに対応できたか否かが明暗を分けました。

タクシー業界は、アプリ1つでピンポイントに車を呼べるシステムを開発するなど、バス業界に先んじてDXを推進し大きく躍進しています。

今までは、タクシー乗り場に利用者が出向くか、若しくは店舗や自宅などわかりやすい場所にタクシーを呼ぶのが一般的でしたが、タクシーと顧客の双方がGPSと連動したアプリの開発により、いつでもどこにでも手軽にタクシーを利用できるようになりました。

このタクシー業界の躍進は、大都市部はもちろんのこと、地方の乗合バスにおいても事業収益低下などの影響をもたらしています。

少子高齢化による通勤・通学者の減少、地方の過疎化による影響、タクシー業界の躍進など様々な要因によって、このままではバスの利用者は減少の一途です。

近頃は、赤字路線の廃線や減便などバス業界の存続時代が危ぶまれるような事態も起こっており、これらの課題を乗り越えることは、今後のバス業界が解決すべき大きな課題と言えます。

コロナ禍によるバス利用自粛

コロナ禍によるバス利用自粛

前述の通り、新型コロナウイルス感染拡大も、バス会社の収益を悪化させる大きな要因となっています。

これは、車内がいわゆる『密』状態になりやすいバス車内でのウイルス感染を恐れた乗客が、バスの利用を控えた結果、バスの乗車率が低下したためです。

これにより利用者が減少したため、バスの減便にも繋がりました。

在宅勤務や他人との接触を避けるためのマイカー通勤は、コロナ前と比較すると明らかに拡大しており、仮に新型コロナが落ち着いても以前のようにバス利用が回復するかは不透明です。

更には、昨今の原油高の高騰など事業運営コストも重くのしかかっています。

このように、バス業界は営業的に相当な危機に瀕しているのです。

バス業界活性化に向けたDXとは

バス業界活性化に向けたDXとは

現在のバス業界はかつてない危機に直面しており、これを打破するためにDX推進は必要不可欠な営業戦略です。

ここでは、バス業界活性化に向けたDX例の一部を紹介します。

運用業務のデジタル化

運用業務のデジタル化

運賃支払のICカード決済促進は、業務の効率化を図るだけでなく、乗客の利便性を向上させる施策です。

また、コロナ禍に合った「非接触式決済」であるため、感染リスクを下げる効果が期待できます。これにより、コロナで離れていた顧客のバス利用の再開に繋がる可能性もあります。

すでにICカード決済は都心部を中心に多くの路線バスで導入されていますが、相互利用の拡大など更なる利便性の向上も含めて検討してみてください。

顧客の利便性の向上を考えた施策としては、ネット上の運行情報提供サービスの導入も有効でしょう。

乗車予定のバスの現在地を利用者に知らせる事で、交通状況による遅延など生じるで顧客の不満などを大幅に軽減することができます。

この技術もすでにバス業界で導入が広がっており、先行事例からノウハウを学べるため、比較的導入が容易なDX推進の施策です。

MaaSの導入

MaaSの導入

MaaS(Mobility as a Service:サービスとしてのモビリティ/以下:MaaS)を導入することも、バス業界生き残りの施策となります。

複数の公共交通機関や、それ以外の移動サービスを組み合わせた検索・予約・決済等を一括して行なうMaaSを導入すれば、旅客バスの新たな需要拡大が見えてくるはずです。

次章では、具体的な事例を見ながら解説します。

>>次ページ【バス業界に変革を起こすDX事例】

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