堀江貴文氏が「想定外」という言葉で流行語大賞を取ったのは2005年のことだが、Webの世界、特にクラウドシステムの場合にも想定外といった減少は起こりえます。
それが顕著に出た例が、先だっての「東京都医療従事者向けワクチン予約サイト」へのアクセス殺到による、接続不安定事例です。
東京都福祉保健局では、4月26日午前9時に都内の医療従事者を対象として、新型コロナワクチン接種の予約を専用サイトで受付開始しました。
しかし、開始直後からアクセスが集中し、「アクセスしているのにつながらない」などの苦情がTwitterなどで騒がれることに。
これに対して同局では、「当初の想定を超えるアクセスがあった」と答弁し、受付システムそのものにはトラブル発生などはなく、その後アクセスが落ち着き次第円滑に予約できるようになるとしていました。
では、どうしてこのようなことが起こったのでしょう。
今回の東京都福祉保健局が利用した専用サイトは、サイボウズ(東京都中央区他)が提供する業務アプリ作成サービス「kintone(キントーン)」で開発したもので、アクセスもサイボウズが提供するクラウドサーバで処理していました。
「kintone」はコーディングをせず、必要な要素をドラッグ&ドロップで組み合わせるだけで、簡単に業務用システムが作成できるクラウド基盤サービスです。
日経コンピュータが2020年9月に行った顧客満足度調査では、2年連続第1位を獲得した実績もあるすぐれたサービスが「kintone」ですが、今回はそのサービスというよりはサーバ準備の想定が甘かったというのが原因でしょう。
東京都福祉保健局では今回の予約サイト開発を外部ベンダーに委託しており、「kintone」の利用も同委託先が決めたといいます。
つまり、東京都福祉保健局、外部ベンダー、サイボウズという3者がこのプロジェクトに関わったわけですが、どこかの時点で予約受付開始時に想定されるアクセス数の予測値が、明らかに実情より少なすぎたということです。
この例に見られるように、どれだけすぐれたシステムやサービスを使ったところで、それを最大限に活かす運用には正確な分析が不可欠なのはいうまでもありません。
今回は一時の混乱だけで事なきを得ましたが、重大な局面でアクセス不備やサーバダウンなどの状況に陥れば、大切なビジネスチャンスを逃すだけでなく、取り返しのつかない損失を被るとも考えられるのです。
クラウドシステムを導入する時にでも、その利便性に目を向けると同時に、「想定外」を極力排除する分析力などの人的パワーが求められるのは間違いありません。
自社に便利なクラウドシステムを導入する場合でも、システム開発を実際する場合でも、すべてを外部ベンダーに任せきりにすることなく起こりうる事態を正確に「想定」することが必要です。
- プロジェクトの進捗管理や要件通りに開発・構築作業が進行しているか
- リリース(公開)前のテストや準備が円滑に進んでいるか
- 想定されるニーズはどの程度のものか
など
こうした諸条件を自社とベンダー双方で冷静な目を持って確認しあい、自身のものであるという意識の上での運用を心がけたいものです。