米ツイッター社イーロン・マスク氏の買収を受け入れ|SNS検閲と言論の自由

米ツイッター社が25日に、世界的な資産家イーロン・マスク氏の買収案を受け入れたと発表しました。

売却価格は440億ドル(約5兆6,300億円)相当とされ、これによりマスク氏によるツイッター社の買収劇に一旦の終止符が打たれた形となります。

この買収により、世界一の大富豪(米誌フォーブスが2022年4月5日発表の世界長者番付による)マスク氏が、世界で最も影響力の強いSNSの1つを手に入れたこととなり、これからツイッターがどう変わっていくかなど、新たな関心を集めることとなりました。

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マスク氏のツイッター社に対する不満

そもそもマスク氏とツイッター社の関わりは、2019年に遡ります。

当時ツイッター社のCEOを務めていたジャック・ドーシー氏がツイッター社の株主と揉めた際、マスク氏が彼を擁護するツイートを投稿したのがそのきっかけです。

ドーシー氏を気に入っていたマスク氏ですが、2021年11月にドーシー氏はCEOを退任。ツイッター社のトップが彼が好意を持つ人物でなくなった事を契機に、マスク氏はツイッター社に対して極めて攻撃的な姿勢を表すようになりました。

実際に、マスク氏はツイッター社に対して批判的なツイートを数多く投稿するようになります。

象徴的なツイートは次の4つです。

2021年12月2日/新CEOアグラワル氏がドーシー氏を川に落としたと見られるコラージュ

同3月25日/「言論の自由は民主主義に欠かせない。ツイッターはこの原則を忠実に守っていると思うか?」というアンケートを投稿。200万人以上が投票し、約7割が「No」と回答

翌26日/「ツイッターは公共の意見交換の場なのに、言論の自由の原則に従わなければ、民主主義を根幹から揺るがす。何をすべきだろうか?」というツイート

同4月5日/「ツイッターに編集機能は欲しい?」というアンケートを実施。440万人の投票が集まり、7割以上の人が「Yes」と回答

こうした一連のツイートは、マスク氏のツイッター社に対する不満を表しています。

昨年1月には、米国議事堂の襲撃事件をきっかけに、政治的に過激なツイートを繰り返した第45代米国大統領のドナルド・トランプ氏のアカウントが、「暴力行為をさらに扇動する恐れがある」として永久凍結され、ツイッター上での発言を禁じられるという出来事がありました。

マスク氏は「ツイッター上で声を奪われている人がいる」とこの件を示唆する発信を行い、「ツイッター社が自分たちの判断で公共のプラットフォーム(SNS)となっている場から、特定の人物を追い出しても良いのか?」と問いかけています。

マスク氏はツイッター社の買収目的について、「ツイッターを言論の自由の拠点に変えるため」と発言しており、これまでのツイッター社の問題は「検閲」にあるとしていました。

ツイッター社買収劇の経緯

こうした経緯から、ツイッター社買収へと声をあげていたマスク氏ですが、その買収劇は2022年に入ってから急速に加速しました。

2022年1月31日から徐々にツイッター社の株式を購入し始め、3月14日までに5%の株を確保することとなったマスク氏は、4月4日に米国証券取引所(SEC)に大量保有報告書を提出しました。

持ち株比率が5%になった時点でSECに対して報告する義務が生じるために行われた行為ですが、これが公開された事で、マスク氏がツイッター株を大量購入している事が判明し、世界中が大騒ぎになったのです。

その後、9.1%もの株式の保有に成功したマスク氏は、ツイッター社の筆頭株主となりました。

この段階に至ってツイッター社側は、「マスク氏が14.9%以上の株式を購入しない事」を条件に同氏を取締役に指名したのですが、マスク氏はそれをあっさりと受け流します。

その上で、改めてツイッター株を100%購入すると宣言し、敵対的買収を仕掛けることを表明したため、世界中の注目を集める世紀の買収劇へと発展したのです。

そして今回、440億ドル(約5兆6,300億円)というハイテク業界でも例を見ない、過去最高額の買収が合意に至るという結末を迎えました。

SNS検閲と言論の自由

2016年にセールスフォース・ドットコム社とウォルト・ディズニー社がツイッター社買収を本格的に検討した際、ツイッター上では女性やマイノリティに対するいじめや嫌がらせが多すぎることが問題視され、その媒体を引き受けるのは得策ではないと判断。買収を撤回したという事がありました。

こうした状況も鑑み、米ツイッター社は、プラットフォーム上で健全な議論が促進されるよう取り組み、マイノリティを攻撃する手段などにならないよう配慮した様々な施策を実施してきました。

それが、先のトランプ氏のアカウント停止にも見られる、ツイッター社としての投稿(ツイート)の「検閲」です。

一方、4月14日のインタビューでマスク氏は「疑わしい場合は発言させよ、存在させよ」、更には「私の意見ではグレーゾーンのツイートは存在させていい」とまで語っており、「検閲」に対しては批判的な立場です。

マスク氏は言論の自由が民主主義の基盤であるとし、ツイッターは未来を議論できる「デジタルな街の広場(digital town square)」であると表現しており、その考え自体はツイッター社が現在行っている、「SNSをいじめの無い健全なコミュニケーション・プラットフォームとしたい」という施策とは、一見する限りは相反してはいないように思われます。

しかし、現状のツイッター社の施策に大きな不満を抱えているからこそ、マスク氏は前代未聞の買収に乗り出したのです。時に過激で個人を攻撃するような発言も目立つマスク氏がツイッター社を手中に収めた事で、今後ツイッター社はどのような方向へ変わっていくのでしょう。

確かに、一企業が意のままに言論統制を行うような「検閲」であれば、それは行き過ぎと言わざるを得ません。しかし、日本でもたびたび問題となるようなSNSをきっかけとして人の尊厳が奪われるような出来事は無くなるべきです。

「SNS検閲と言論の自由」という結論の出ない大きなテーマに対して、マスク氏とツイッター社がどのような回答を見出すのか。

これからの展開に大いに注目したいと思います。

参考:THE WALL STREET JOURNAL、ITmediaビジネスONLiNE

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