24日、欧州連合(EU)が、巨大IT(情報技術)企業に対して包括規制をかけるデジタル市場法案に合意しました。
今年の1月20日に合意が発表された、違法コンテンツの取締や広告表示ルールの厳格化に主眼をおいた【デジタルサービス法案】に続く、EUの大きなデジタル規制となります。
これにより、GAFAMを始めとする米国の巨大IT企業の世界戦略に、大きな影を落とすことになるのは間違いありません。
デジタル市場法案の概要
今回EUが合意した法案は、EU企業のデジタル分野での競争力強化を目的に、社会経済に大きな影響力を持つプラットフォーマーを「ゲートキーパー」と位置づけ、彼らの独占的なビジネスを牽制する大幅な法規制です。
【ゲートキーパーとは】
時価総額750億ユーロ(約10兆円)以上、もしくはEU内の年間売上高が75億ユーロ以上の企業で、EUで月間4,500万人のユーザーを抱える、といった条件を満たす企業。
Google、Amazon、Facebook(現Meta)、Apple、Microsoftといったいわゆる米GAFAMに加え、中国のIT企業アリババ、オランダのホテル予約大手企業ブッキング・ドットコムなども対象になる見通し。
主な規制は次の通り。
- ゲートキーパーが自らのプラットフォーム内で自社のサービス、あるいは商品をライバル企業より優遇する事を禁止する
- 特定のサービスで収集した個人情報を別のサービスで利用するのを禁止する
この規制に違反すれば、世界の売上高の最大10%(2回目以降は20%)の罰金を科せられる可能性があるとしています。
企業側の見解
2020年7月には、【プライバシー・シールド(EUから米国へ個人情報の移転を合法的に行なうルール/米・EUが16年に締結)】を無効化するという判断を、EUの最高裁判所にあたる欧州司法裁判所が下していました。
それに続く【デジタルサービス法案】と、今回の【デジタル市場法案】の合意は、現代のデジタル市場で巨大な権力を誇るIT企業にとって、「逆風」という言葉では言い表せないほど強いEU側の締め付けであり、規制の対象となる企業は頭を悩ませているはずです。
GAFAMの一角であるMetaは、2022年2月3日に公表した21年度の年次報告書の中で、このままEUの規制が厳しくなり、データ移転で新規、若しくは既存の枠組みに依拠できなくなれば「FacebookやInstagramを含む当社の重要なプロダクトとサービスの複数を欧州で提供できなくなる」だろうと説明しています。(原文:Meta Threatens Europe Exit for Facebook, Instagram on Data Rulesより抜粋)
また、Zホールディングス傘下のヤフーは、2月1日に英国と欧州経済地域(EEA)での大半のサービス提供を取りやめる発表をしています。
ヤフー側は「コストの観点で、欧州の法令遵守を徹底するのが難しくなったため」と説明していますが、これにより4月6日以降、EU圏の多くの国や地域で検索サイト【Yahoo!ジャパン】と【Yahoo!ニュース】が閲覧・利用できなくなります。
今回のEUの合意発表を受けて、更に他のゲートキーパーからもサービス提供の中止や縮小などが発表される可能性は大いにあり、今後の展開から目が離せません。
いきなり、ゲートキーパーに指定されたすべての企業、すべてのサービスが欧州市場から撤退するとは考えにくいものの、このままでは現在のEUの人々の生活を支える多くのサービスが提供停止、あるいは、規制に伴うコスト増加や売上減少によるサービス料金の値上げなどが相次いで行われる懸念は現実のものとなりつつあります。
EUによる巨大IT企業への規制強化は対岸の火事ではありません。
例えば、日本でも広く利用されているサービスを提供している企業が、欧州市場での大幅な売り上げ減少を補う形でサービス料金を値上げするなど、我々の生活にも少なからず影響を及ぼす可能性は大いにあります。
今後、また新たな動きがありましたら、DXportar®でもいち早く皆さまに情報をお届けします。