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3つ目のDX:ブロードバンドでエンタメの提供方法を『成長させる』
オンラインによるDVDレンタル店として発展してきたNetflixですが、ステージ3のDXでは「DVDレンタル」というビジネスモデルそのものを捨て去る決断をしました。
それがストリーミングサービスの提供であり、VODというビジネスモデルの確立です。
Netflixの成功の影響もあり、他社も店舗型でのレンタルサービスだけでなく、オンラインでの発送サービスをスタートしていきました。
当時、圧倒的な店舗数を誇っていたBlockbusterはオンラインとリアル店舗という2つの軸を持ち、Netflixの最大のライバルでした。
オンラインレンタルのみのNetflixでは、借りたDVDを返却する際には郵送の手間が発生してしまうため、そこにユーザーが多少の不便を感じていたのは間違いありません。
それに対してブロックバスターでは、オンラインで借りたDVDでも店舗で返却ができるという利便性に加えて、返却時に無料でボーナスレンタルができる「トータルアクセス」を開始していました。
このBlockbusterの戦略は大ヒットし、同社のオンライン需要が急拡大。2006年には新規契約者数でNetflixを逆転したのです。
豊富な実店舗の網を武器に、オンラインと実店舗を掛け合わせたビジネスモデルを誇るBlockbuster。売上と利益の大部分は店舗ベースであったこともあり、「店舗を持っていることこそが強みだ」と判断したBlockbusterは、既存の店舗ビジネスの強化策を打ち出します。
これに対してNetflixは、2007年にストリーミングサービスを無料で追加し、新たなビジネスモデルを確立するDXへと駒を進めました。
Netflixがストリーミングサービスへと舵を切った背景には、当時のインターネット技術の向上があります。
それまでは送信するデータ量がごく限られていたインターネット通信も、ブロードバンドの普及で大容量のデータを高速でやり取りすることが可能となったのです。
こうした時代背景が、結果的にNetflixとBlockbusterの命運を分ける事になりました。
ブロードバンドという新時代のインターネットを得て、Netflixの事業はオンラインでのレンタル習慣を大きく拡大させた一方、Blockbusterの店舗ビジネスの強化策は時代の流れと逆行する形となり、業績は悪化。
とうとう2010年9月23日には、破産申請を行なうまでになってしまうのです。
ちなみに、こうした両社の動きを見て、Amazon.comも2011年にプライム会員向けオンラインストリーミングサービスの提供を発表しています。
更にはHuluがストリーミングサービスのベータ版を開始するといったように、Netflixを追随する企業が現れてきました。
このことからもわかるように、時代の流れがNetflixのビジネスモデルへと大きく傾いていったのです。
その後、スマートフォンの急速な普及もあり、本格的なVODというビジネスモデルを確立したNetflixは、「エンタテイメントで世界中を1つにする」という壮大な夢の実現に向かって、大きな成長を遂げたのです。
4つ目のDX:オリジナルコンテンツで新規ビジネスを『創出する』
VODというビジネスモデルで世界中を席巻するに至ったNetflix。2013年にストリーミングの契約者は米国だけでも2,700万人を超えました。
同年、満を持して初のオリジナルコンテンツ『ハウス・オブ・カード』の配信を開始します。
そして、この作品が大ヒットにより、契約者数は1年間で3割以上も増加する事となりました。
これをきっかけにオリジナルコンテンツ制作に力を入れていくNetflixですが、そこにはそれまでのコンテンツ制作会社とは違う、新しいビジネスモデルを創出するアイデアがあふれています。
その最たるものが、作品制作にビックデータを活用したデータアナリティクスを取り入れている事でしょう。
Netflixでは収集した膨大なデータを基に、ユーザーの趣味趣向から現在のトレンドまでを分析する事が出来ます。
ストリーミングという視聴方法なら「誰が、何を、いつ、どこで、どのようにコンテンツを探しているか」、更には「どのシーン、どの人物」がよく観られており、どのシーンを早送りやスキップをしたか等、ありとあらゆる情報を収集・分析が出来るのです。
これにより、ユーザーセグメントごとの趣味趣向を分析し、多くのユーザーが求める役者や監督(作風)を選別する事が可能となりました。
先述の『ハウス・オブ・カード』の監督を務めたデヴィッド・フィンチャーと主演のケヴィン・スペイシーの2人も「実はビッグデータ分析の結果選んだ」という発表が後になされています。
このように、Netflixは実際のコンテンツ制作にビッグデータ・アナリティクスを落とし込んでいるのです。
それまではプロデューサーの感覚や、スポンサー企業の意向といったモノが判断基準となっていた映像制作の世界を、Netflixは大きく変えました。
オリジナルコンテンツの制作という分野に進出したNetflixは、それまで培ったDXの集大成として、真のDXの目的とも言える「新しいビジネスチャンスの創出」を叶えているのです。
Netflixが狙う5つ目のDXとは
従業員数わずか30名という、一介のオンラインビデオレンタル店から始まったNetflixですが、今やその存在を世界中に知れ渡らせる巨大な企業へと変貌しました。
その躍進の影には、常に時代の流れと未来を読み切った、DXストーリーがあったのは間違いありません。
とはいえ、これでNetflixの挑戦が終わった訳ではないでしょう。
例えば、コンテンツ制作の現場一つをとっても、2017年からは視聴者の選択や反応によってストーリーが分岐する、RPG(ロールプレイングゲーム/以下:RPG)のような「インタラクティブドラマ」の制作を開始しています。
こうしたデジタルだからこそ実現できる、新時代のエンタテイメントコンテンツを創ることは、Netflixの本領です。
RPGのような要素を持つ、マルチエンディングのコンテンツは、既存の映画やドラマだけでなく、ゲーム業界とも競合していく事にもなるでしょう。
ゲーム業界と競い合う中で、Netflixがこれまでにない新しいコンテンツを生み出してくることはもはや既定路線といっても過言ではないかもしれません。
更には、現在急速に浸透しているメタバース等も、Netflixの進出領域として計画されているはずです。
近い将来、メタバース上でNetflixの最新作が世界同時限定公開される等と言うのも、夢物語では無いでしょう。
Netflixが狙う次なるDX戦略。
それがどのようなモノか、現時点で我々にできることは推測の域をでませんが、更にユーザーを楽しませる要素を盛り込んだ、新しい『何か』を生み出してくれるのは間違い無いでしょう。
エンタテイメントで世界中を1つにするというNetflixの野望は、まだまだ終わりそうにありません。