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デジタル庁によるマイナンバーカードDX政策
マイナンバーカードが普及しない理由にはもう1つ、縦割り行政の問題があります。各省庁や地方自治体などと連携できていなかった事が原因です。
現時点では、各省庁が保有している様々なデータは政府全体で共有されておらず、それぞれの省庁が管理しており、この縦割りが行政内での連携の阻害要因となっています。
この問題を解決するために、政府はデジタル化を一気にやり遂げるための組織として、内閣府直轄のデジタル庁を発足させました。
デジタル庁は従来の縦割り行政を打開するための組織として設置され、国民にとって本当に必要な行政のDX推進を目的としています。
2021年12月24日にはデジタル庁が「デジタル社会の実現に向けた重点計画」を発表し、具体的な施策を国会に報告しました。
その中の1つとしてマイナンバーカードの普及についても言及されています。
マイナンバーカードについては、設計の在り方を根本から見直すとして、従来の縦割り設計ではなく、地方公共団体・民間を通じた設計の将来像を整理し、令和7年(2025 年)を当面の実装ターゲットとして具体的な検討に入っています。
ここでは、デジタル庁が発表した施策の中から、デジタル社会の実現に向けたマイナンバーカードの普及による「7つのDX施策」のうち代表的な5つを取り上げ、それによって国民の生活がどのように変化するのかそれぞれ簡単に解説します。
健康保険証としての利用の推進
従来の健康保険証は就職や転職、引越しをして居住地域が変わった場合など、その都度切り替えの手続きをする必要があり、不便だと指摘されてきました。
しかし、マイナンバーカードに健康保険証の機能を持たせることにより、以下のメリットがあると考えられます。
- 薬剤情報等の共有化によって、初診の医療機関においても、より良い医療や診察を受けられる。
- 就職や転職、引越しなどした場合でも、マイナンバーカードが保険証として永続的に利用出来る。
- 医療機関の煩雑な事務処理コストおよび効率化が期待できる
政府と医療機関等が連携することにより、国民としてはより良い医療を受けられ、医療現場としてもコスト削減につながり持続的な医療体制を構築出来るのです。
政府は、2022年度中に全ての医療機関等での導入を目指しています。
運転免許証との一体化の実現
現行の制度では、免許証については、結婚や引っ越しなどの際に市区町村で行う諸手続きとは別に、警察署に届けが必要な場合があり、国民の負担が大きなものになっていました。これもまさに、縦割り行政の弊害の1つです。
しかし、今後は、運転免許証とマイナンバーカードを一体化させることにより、住所変更などと一緒にワンストップで免許の手続きも行えるようになる予定です。
さらには、運転免許証の更新時における講習なども、マイナンバーカードを読み取るスマートフォンやICカードリーダーを利用すればオンラインで受講でき(2025年頃実装予定)、煩わしかった免許証手続きの負担が軽減されることになります。
在留カードとの一体化の実現
現状の在留カードの仕組みでは、カードの偽造による外国人の不法就労などが一部で発生しており、雇用する企業にとっても不法就労の助長罪に問われるリスクがあります。
マイナンバーカードと在留カードを一体化することは、それにより出入国管理の強化が図れるだけでなく、中長期在留外国人にとっても役所での煩雑な手続きが減るなどのメリットがあると言われています。
政府は、2025年の一体化に向けて、具体的なシステム整備を行うための法案提出を2022年〜2023年に行う予定です。
スマートフォンへの機能搭載を実現
利便性を高めるためとはいえ、高度な個人情報を含むことになるマイナンバーカード。当然、持ち歩くことによる盗難や紛失のリスクが心配になります。
その不安を解消するのが、スマートフォンにマイナンバーカードの機能を搭載することによって、ポータル性と実用性を向上する施策です。
さらには、単にスマートフォンを利用した電子証明書の機能だけでなく、現在のマイナンバーカードでネックとなっている、パスワード入力などの券面入力補助機能など優れたUI/UXの実装を目指しています。
機能搭載が実現できれば、スマートフォンひとつで行政手続きが出来ることから、公的認証サービスの更なる利用と普及が期待されるでしょう。
国外継続利用の実現
現在のマイナンバーカードは住民票を基礎とした制度のため、国外に転居した際に住民票が削除されると、同時にマイナンバーカードも利用できなくなってしまいます。
その不便を解消するために、国外に転居してもマイナンバーカードを継続利用でき、かつ行政手続きもオンラインで可能とする施策が検討されています。
施策が実現すれば、転居手続きがオンラインで申請出来るだけではなく、国外からも国政選挙の投票も出来るようになるなど、国内外での活動に対して選択肢の自由度が増すでしょう。
取組事例|マイナンバーカードによるDX化が進んでいる地方自治体
全国的に普及が進まない中、独自にマイナンバーカードの普及と利便性を向上させる取組みを行っている自治体があります。
本章では2つの自治体を例に、積極的なDXに取り組んでいる事例をご紹介しますので、参考にしてみてください。
新潟県三条市
新潟県三条市ではマイナンバーカードの利便性に期待して、全国で初めて独自のサービスを提供しています。
導入されているサービスには以下のようなものがあります。
- 選挙の投票入場受付
- 避難所の入退所受付
- 職員の出退勤管理
選挙の投票入場や避難所の入退所の受付をマイナンバーカードで行うことで、瞬時に受付対応が出来るようになり、市民の待ち時間が軽減されました。
従来の手作業からデータ自動処理になったことにより、作業量が軽減されただけでなく、ミスの可能性も減り、職員側の負担の軽減にも繋がっています。
また、職員の出退勤管理もマイナンバーで対応することで、労務や健康も含めた管理を可能としました。
さらに三条市では独自のサービスだけではなく、市のすべての電子申請手続きを国が運営する「ぴったりサービス」に一元化し手続きを拡大させるなど、DX推進に向けた柔軟かつ積極的な対応を進めています。
三条市のように市民の生活が少しでも良くなるよう、地域に合わせた独自のサービスを提供する姿勢はDXを推進するうえで大切ではないでしょうか。
宮崎県都城市
マイナンバーカード普及率78%と全国一位の記録を誇る宮崎県都城市では、マイナンバーカード取得の阻害要因を分析して、独自施策を活用した補助を行っています。
国民がマイナンバーカードに抱いている不安や、申請の手間に対して市民に寄り添いながらタブレットを活用し、普及を促進しました。
さらに都城市は自治体単体の取組みでは限界があることに着目し、官民連携のもと市民の生活に密着したキャンペーンを行ったことが功を奏しています。
一例として普及率が低い20代、30代にターゲットを絞り、地元銀行と連携しマイナンバーカード子育て応援ローンとして、金利を下げる取組を実施し普及率拡大に繋がりました。
都城市はDX推進のお手本となるような、官民の垣根を超えて利用者に寄り添った施策を実行しています。
まとめ
マイナンバーカードによるDX推進を事例に、政府の思惑と国民のホンネ、そして本来あるべきDXとの向き合い方について解説しました。
デジタル社会の実現に向けては、デジタル化を推進する(マイナンバーカードを普及させる)事自体が目的であってはなりません。
そういった意味で現状のマイナンバーカードは、「国民生活を便利にする」と謳っておきながら、政府の思惑ばかりが先行し、「真に国民のためになるマンナンバーカード」とはなっていないというのが実情ではないでしょうか。
利用者である国民のため国、地方公共団体、民間事業者が連携・協力しながらDXを推進していくことが重要です。
そのためにはデジタル庁がリーダーシップをとり、机上の空論ではなく利用者が実際に便利になるサービスを真剣に考え、取り組んでいく必要があります。
貴社においても「誰のためのDXなのか」を見失うことなく、ユーザーや現場の声に寄り添いながらDXを推進してください。