【マイナンバートラブル】国の対応不足と自治体が抱えるデジタル人材不足

【マイナンバートラブル】国の対応不足と自治体が抱えるデジタル人材不足

マイナンバーカードは2023年9月末時点で、保有枚数が9600万枚に達しました。これは、日本の総人口1億2500万人の72.6%を占め(参考:マイナンバーカードの交付・保有枚数等について)ます。

しかし、マイナンバーに関連するトラブルが相次いで発生した影響で、国民の間で政府に対する不安や不信が募っています。

これを受けて政府は、「マイナンバー情報総点検本部」を2023年6月に設置し、同年11月までにマイナンバー情報の総点検を行うことを決定しました。

マイナンバー情報総点検本部は、関係する府省と連携し、マイナポータルで閲覧可能な29項目約80の情報を対象に総点検を行いました。

総点検の過程で浮き彫りになったのは、国の対応不足と地方自治体のデジタル化の遅れです。

マイナンバーは国民の理解と地方自治体の受け入れ態勢が不十分な中で、国民管理を優先したDX(デジタルトランスフォーメーション/以下:DX)を推進しようとした、国の失策とは言えるのではないでしょうか。

そこでこの記事では、マイナンバーに関わるトラブルの原因や課題、そして政府が考える今後の方針や対応について考察していきます。

事例で見るマイナンバートラブルの原因

事例で見るマイナンバートラブルの原因

実際に発生したマイナンバートラブルは、以下の6つに分類されます。

  • 別人や抹消済みの証明書が発行される
  • マイナ保険証に別人の情報が登録されていた
  • 公金受取口座で本人ではない口座が登録されていた
  • マイナポイントが別人に付与された
  • マイナポータルで別人の年金記録が閲覧できた
  • 同姓同名の別人にカードを交付された

これらのトラブルに対して、政府やデジタル庁は責任を追及されていますが、大半のケースでヒューマンエラーが原因であるとし、「システムそのものの問題ではない」と主張しています。

しかし、DXの視点から見れば、プロジェクトを進める上でこれだけのヒューマンエラーが多発していること自体が問題です。

こうしたミスを防ぐことができるシステムになっていなかったことこそが、政府側の考えの甘さや事前の検討不足が明らかになったと言えるのではないでしょうか。

政府はマイナンバーカードに関する一連のトラブルを受けて、総点検を行い、その中間報告を2023年8月8日に公表しています。

総点検では、マイナンバーカードの情報が正確にひも付けられているかを確認する作業が行われており、調査によればカードと一体化した保険証に他人の情報が誤って登録されたケースが新たに1,069件確認され、これまでの累計は8,441件に増加した(参考:マイナンバー制度及びマイナンバーカードに関する政策パッケージについてP4)とのことです。

また、公務員の年金を運営する「共済組合」では118件のマイナンバーと年金情報のひも付けに誤りがあり、障害者手帳とのひも付け作業を行う「自治体」では50件以上ものケースで適切に処理が行われていなかったことも確認され、様々な機関でのミスが発覚しました。

実際のトラブルがどのようにして起こったのか、本章では具体的な事例を2つ見ていきます。

事例1:データを手作業で「コピペ」して「行」がずれる

宮崎県の障がい福祉課で、知的障害者向けの療育手帳情報を誤って他人のマイナンバーにひも付けるミスが2,336件発生しました。

このミスの原因は、データの「コピペ(コピー&ペースト)」作業中に「行」がずれ、情報が次々と誤った組み合わせでひも付けられたことにあります。

「コピペ」は、カーソルなどで範囲を指定した情報を一気に貼り付けできる機能として便利である一方、誤った操作をしないように慎重な作業とチェックが必要です。

膨大なデータをコピペしていくというやり方自体が問題ですが、もし手作業で行わざるを得ない場合は、作業ミスが発生する前提でオペレーションを組む必要があります。

しかし、宮崎県ではこの作業を1人の職員が行っており、特別なチェック体制も構築していませんでした。

県は「去年6月からマイナンバーとの連携が療育手帳でも始まったが、自動的に転記できるようなシステムの導入が間に合わなかった。今回の反省を踏まえて、より自動化し、人の手がかからない形で進めていくことが必要だと思っている」とコメントしています。さらに、「再発防止のために複数の職員によるチェック体制を設けることを検討する」としました。

加えて、「1人の職員がこの作業を担当することになっていたので、組織としてマイナンバー事務取り扱いの認識不足があった。今後は少なくとも5人くらいのメンバーで分担してチェックしていこうと思っている」ともコメントしました。

事例2:保険証の仮のデータを登録したが削除しなかった

千葉市では医療費の自己負担割合のデータが、誤ったまま登録されてしまうトラブルが発生しました。

これは、市の職員がデータ登録の際に、仮の数字「2割」を入力後、正しい数値の「3割」を上書き保存しましたが、上書き前の「2割」のデータを削除する作業を怠ったため、誤ったデータが反映されてしまったのです。

ミスの根本的な原因は、市職員がシステムの詳細を把握していなかったことによるものです。

国民健康保険課は、「千葉市と同様のシステムを導入している他の地域でもミスが発生している可能性がある」と指摘しています。

実際に市の調査では、他の職員も同様のミスをしていることが数件見つかりました。

さらに、千葉市内の診療所の担当者からは「保険証を信じるべきか、マイナ保険証(マイナンバーカードを健康保険証として利用したもの)を信じるべきかわからない」と困惑した報告が多数上がっています。

これまでの保険証とマイナ保険証が混在している現在、その切替がうまくいっていないのもこうしたトラブルが起きる原因にもなっているのでしょう。

千葉市健康保険課は「資料確認や作業手順の遵守を徹底し、再発防止に努めたい」とコメントしました。

マイナンバートラブルの本質的な課題

マイナンバートラブルの本質的な課題

マイナンバーシステムにおける様々なトラブルを解決し、再発防止を図るためには体制の根本的な見直しが必要です。

本章ではマイナンバートラブルの背景にある本質的な課題と、それに伴う国と地方自治体の問題点について深掘りしていきます。

国の現場任せ主義と現場の危機感欠如

マイナンバートラブルの背景には、「国の現場任せ主義」と「現場の危機感の欠如」があります。

結果、国を挙げて取り組んでいるプロジェクトにも関わらず、明確なガイドラインが存在せずトラブルが多発してしまったのです。

国は自治体の実態を正確に把握せずに登録作業を現場に任せっきりにし、必要な環境の整備を怠ってきました。つまり、国が地方自治体に対して事実上丸投げしていたことが大きな問題となりました。

一方で、地方自治体は国から明確な指示がないとしても、国民1人ひとりの大切な個人データを扱う以上、そこでミスが発生しないように自らチェック体制を整える必要もあったと言えるでしょう。

この点について、個人情報という重要な情報の管理に関する意識と体制に関する、現場の危機感が欠如していたことも、このようなトラブルを生み出してしまったもう1つの要因と言えるのです。

マイナンバーの管理・運営はデジタル化が遅れている

マイナンバーカードの管理と運営において、デジタル化が遅れているという問題も明らかになりました。

そもそも、マイナンバーカードを作成する意義自体が国民の中で疑問視されていることも、マイナンバーカードの利用が進まない要因となっているのは間違いありません。

とはいえ、マイナンバーカードの普及・利用が進まないことを「国民の理解」のせいにすることはできないでしょう。国民が安心して利用できる仕組みを作るためには、ヒューマンエラーを起こさないような管理・運営のデジタル化が不可欠です。

しかし、その前提であるデータ管理の基盤がそもそもデジタルで適切に管理されていないという深刻な問題が存在しているのです。

このデジタル化の遅れは、古いシステムの運用や、デジタル技術への投資不足、そしてデジタル人材の不足など、多岐にわたる要因に起因しています。

特に、データ入力や管理作業を手作業で行っているケースが多く、これがヒューマンエラーを引き起こしやすくしているのは間違いありません。

また、異なるシステム間でのデータ連携が不十分であるため、情報が一元管理されず、データの整合性を保つことが難しい状況にあるというのも問題です。

これらの問題を解決するためには、デジタル技術への投資を積極的に行い、古いシステムのアップデートや刷新を進める必要があるでしょう。

デジタル化の遅れを解消し、マイナンバーシステムをより安全で効率的なものにするためには、これらの課題に対して迅速かつ適切に対応することが求められています。

デジタル人材不足によるトラブルの誘発

マイナンバートラブルの背後には、デジタル人材の不足が深刻な影響を及ぼしています。

今回のトラブルの多くは、手作業によるヒューマンエラーが原因であり、デジタルリテラシーに長けた人材がいれば、これらのミスを未然に防ぐ仕組みを構築できていたはずです。

デジタル人材の不足は、単に技術的なスキルが足りないという問題だけでなく、デジタル化の重要性を理解し、それを推進するための意識がある人材の欠如も含まれます。

デジタル技術の進化は速く、それに適応していくためには、常に最新の知識を学び続ける必要がありますが、現状は環境が整っていないため、慢性的なデジタル人員が不足しているのです。

この問題を解決するためには、デジタルスキルを持った人材の育成と確保が急務であり、それには教育機関や企業、政府が協力して、デジタル教育の充実を図る必要があるでしょう。

また、既存の担当者に対しても継続的な研修を提供し、デジタルスキルを向上させることが重要です。

デジタル人材の不足を解消し、マイナンバーシステムを安全かつ効率的に運用するためには、デジタルスキルを持った人材を育成し、適切な位置に配置する仕組みづくりが不可欠です。

これにより、デジタル化の推進が加速し、トラブルの発生を防ぐことができるでしょう。

政府の対応と今後の方針

政府の対応と今後の方針

「マイナンバー情報総点検本部」は今回のトラブルに対する調査を経て、以下3つの方針を打ち立てています。

  • ガイドラインの策定
  • 点検支援ツールの開発
  • 財政支援

ガイドラインの策定

これまでは、マイナンバーの登録方法に統一的なガイドラインが存在しなかったことも、ヒューマンエラーが続出する原因になっていました。

これを受け、再発防止策の一環として、政府は自治体のマイナンバーカードへのひも付けを実施する機関に向けて、横断的なガイドラインを新たに策定しました。

このガイドラインでは、正確なマイナンバー登録を行うための具体的な手順や原則が明記されており、申請時のマイナンバー取得の原則化や、住基ネット照会時の基本情報の使用などが示されるようになったのです。

また、本人確認の手段や、複数の者が該当した際の本人特定方法についても言及されており、入力間違いの発見とその対策についても触れられています。

具体的には各制度の申請時にマイナンバーの取得を原則とすること、住基ネット照会を行う際には原則基本4情報(氏名・生年月日・性別・住所)で照会を行うことなどが記載されています。

これにより、マイナンバー登録事務の正確性が向上し、トラブルの防止に寄与することが期待されるのです。

点検支援ツールの開発

デジタル庁は、個別データの点検作業を効率化するために、点検支援ツールを開発しました。

このツールは、自治体が行うマイナンバーの照合作業を省力化することを目的としており、一部の自治体の協力のもとで実現したものです。

提供されたツールを利用することで、自治体は業務システムから抽出したデータと住基ネットから抽出したデータを簡単に照合することができます。その結果として、データの一致・不一致を明確に確認することが可能です。

このプロセスにより、データの誤りや別人へのひも付けの可能性を迅速に特定し、訂正作業を効率的に進めることができます。

点検支援ツールは、データ間の微妙な違いを調整し、正確な照合を可能にする機能を備えており、マイナンバー管理と運用の正確性を向上させる重要な役割を果たすと期待されています。

財政支援

政府は、マイナンバーカードに関するトラブルを解決するために、自治体がデータの確認作業を進める中で、必要となるシステム改修に対して財政支援を行う方針を決めました。

これにより、自治体の財政負担が軽減されることが期待されます。

特に、取り扱うデータ件数が多い都道府県は既存の業務システムからの抽出作業が多くなるため、システムの抜本的な改修が必要となります。こうした点を踏まえて、システム改修費の国費での補助や特別交付税措置が検討されているのです。

また、障害者手帳に関する事務やその他の事務を行う自治体に対しても、一律に点検を実施することが決定されましたが、自治体の対応コストなど財政負担に十分配慮するために、システム改修の支援を講じる予定です。

この財政支援により、自治体はより効率的にマイナンバーカードの問題解決に取り組むことができるようになると期待されています。

まとめ〜マイナンバートラブルを教訓にDXを推進させよう!

マイナンバーカードの普及が進む中で発生したトラブルは、日本のDX推進の現状と潜在的な課題を浮き彫りにしました。

すでに9,600万枚が発行され、人口の72.5%をカバーする巨大なシステムの運用において、国と自治体の連携不足や手作業に依存する環境では、うまくいくはずのこともうまくいかなくなってしまうでしょう。

DXは、本来ユーザーの利便性を第一に考えられるべきものであり、提供側の事情はいわば二の次です。

経済産業省などを中心に国内企業にDXを推し進めておきながら、国の施策であるマイナンバーシステムでは、デジタル化の基本すら守られていないという状況は、残念ながら、あまりにもお粗末だと言わざるを得ません。

政府の目指すマイナンバーカードの迅速な普及よりも、国民のプライバシーとセキュリティを守ることが最優先されるべきであり、それがおろそかにされた結果が今回のトラブルを引き起こしたとも考えられます。

マイナンバーの普及や自治体のDX推進を止めるわけにはいきませんが、その過程でユーザーである国民の信頼を失ってしまっては本末転倒でしょう。

これは国や自治体に限らず、企業においても起こり得る事象であり、DXの推進を考えるうえにおいては重要な教訓です。

マイナンバーという特殊なケースではあるかもしれませんが、こうしたトラブルを貴社においても自分ごとと捉え、DXの推進に活かしてみてください。

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DXportal®編集部

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