【ムーンショット型研究開発制度③】企業のDXで環境問題の解決へ【DX×SDGs】

【ムーンショット型研究開発制度③】企業のDXで環境問題の解決へ【DX×SDGs】

日本では「持続可能な開発目標」と呼ばれ、近年は一般にも広くその名が知れ渡ってきた「SDGs(Sustainable Development Goals)は、今後企業がサステナブルなビジネスを続けていくためには避けて通ることのできない課題です。

内閣府が掲げる【ムーンショット型研究開発制度】に着目して、それにDX(デジタルトランスフォーメーション/以下:DX)がどのように関わっているのかを取り上げてきた本連載。その第3回となる本記事は環境問題への対策として、SDGsを取り上げます。

企業のブランディングを考える上でも、またDXで新しい価値を生み出していくための施策を考える上でも、社会や環境への配慮抜きに考えることは、現代社会では許されません。

本記事を参考に、「DX×SDGs」で企業がどのように環境問題に対して関わっていけるのかを一考する手がかりとしてください。

日本政府が目指す未来|環境編

日本政府が目指す未来|環境編

内閣府が主導するムーンショット型開発制度では、日本社会が抱える諸問題を解決するために、具体的に9つの目標(ムーンショット目標)が設定されています。

その9つの目標は、大別すると「社会・環境・経済」という、人間の生活に欠かせない3つの領域に分類できます。

今回取り上げる「環境」問題といえば、誰もが国連が定めるSDGs(持続可能な開発目標)を思い出すのではないでしょうか。

そこで、まずは改めて「SDGsとはなにか」というところからご説明していきます。

持続可能な開発目標=SDGs

SDGsとは「Sustainable Development Goals」の略で、日本語では「持続可能な開発目標」と訳されます。

2015年の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された、17のゴールと169の具体的ターゲットから構成された「2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す」世界中の国々が取り組む国際的な目標です。

その理念は、「地球上の誰1人取り残さず(leave no one behind)に未来をつくる」ことを誓っています。

SDGsは先進国・発展途上国の区別なく、世界中の国が協力して取り組むべき課題であり、もちろん、日本も国際社会の一員として積極的に取り組む義務を負っているのは言うまでもなく、今まさに、2030年に向けて世界中が前に進んでいる最中なのです。(参考:SDGsとは/外務省

【SDGs17のゴール】

  1. 貧困をなくそう
  2. 飢餓をゼロに
  3. すべての人に健康と副詞を
  4. 質の高い教育をみんなに
  5. ジェンダー平等を実現しよう
  6. 安全な水とトイレを実現しよう
  7. エネルギーをみんなに。そしてクリーンに
  8. 働きがいも経済成長も
  9. 産業と技術革新の基盤を作ろう
  10. 人や国の不平等をなくそう
  11. すみ続けられるまちづくりを
  12. つくる責任、つかう責任
  13. 気候変動に具体的な対策を
  14. 海の豊かさを守ろう
  15. 陸の豊かさも守ろう
  16. 平和と公正をすべての人に
  17. パートナーシップで目標を達成しよう

地球環境の再生

SDGsの17のゴールは多岐にわたりますが、その中心にあるのはやはり「環境問題」です。

人類が「文明」を築いて以降、その営みは少しづつ地球環境を蝕んできました。

特に、18世紀中盤から19世紀の産業革命(石炭利用によるエネルギー革命)以降、そのペースは加速度的に早まっています。

現在の我々の生活やビジネスが成り立っているのは、文明の発展のおかげに他なりませんが、豊かな生活のために地球環境に少しずつ負荷をかけてきた「ツケ」が、世界中の砂漠化による飢餓地帯の拡大や水不足、あるいは気候変動による自然災害を巻き起こしてきたのです。

こうした現状の認識から、人類の発展と引き換えに傷ついてきた地球環境を、今度は人類の力でなんとか再生させ、豊かな地球を取り戻そうという動きそのものが、SDGsのゴールであり、理念です。

持続可能な企業としての責任

持続可能な企業としての責任

現在、世界中の国々がSDGsという目標を掲げ、地球環境の再生に取り組んでいますが、それは国や世界をまたにかけたグローバル企業のみが行なえば良いものではありません。

地球に住まう1人の人間として、できることから取り組んでいけば、やがてそれは大きな波となり環境問題解決への大きなアクションとなるはずです。

では、日本でビジネスを行う企業は、どのようなアクションを取っていけば良いのでしょうか。

産業革命以降、地球環境の汚染が急速に加速したように、企業の経済活動と環境への負荷は、ある意味トレードオフの関係にあると言っても差し支えないでしょう。

とはいえ、だからといって「仕方がないことだ」と環境への負荷を無視して商売を続けることは、これからの時代の企業としてはふさわしくありません。

人々の環境問題への意識が高まっていけば、今後、こうした企業は市場から淘汰されてしまうでしょう。

一方で、経済活動を続けながらも、地球環境再生にも取り組むと公言することは、企業としてのブランディングにもなりますし、何よりそれが地球という大きなフィールドで活動する企業としての大きな責任でもあります。

また、何よりも企業としてこれからの未来でビジネスを続けていくために必要な取り組みでもあるのです。

当然ながら、ビジネスを興す際に市場の先行きが不透明では、安心してビジネスを行うことなどできません。

近年は、災害などの緊急事態に直面した場合に被害を最小限に留めるBCP(事業継続計画)を準備する企業も増えてきましたが、そもそも地球という「土台」がいつまで持つか分からないような状態では、BCPなどいくら準備しても無意味になってしまいます。

現代は、企業が本当の意味で「持続可能な状態」になるためには、利益を生み出すビジネスと同時に、従業員や顧客、関係企業など周囲の人だけでなく、その先にある社会、そして地球環境まで考えなければ成り立たない不安定な時代になっているのです。

ムーンショット目標4

ムーンショット目標4

これまでの連載でも解説した通り、ムーンショット型研究開発は「人々の幸福」の実現を目指して掲げられた、「社会・環境・経済」という3つの領域に分けられた9つの目標です。

その中で「環境」は「地球環境を回復させながら都市文明を発展させる」とされ、主に地球温暖化や海洋プラスチック問題、資源の枯渇や環境保全と食料生産の両立などを課題としています。

これはまさにSDGsの求める環境問題とリンクしたもので、内閣府から発せられた「国を挙げて、企業のSDGsを後押しする」という政府の意思表示でもあるのでしょう。

特にムーンショット目標4は「2050年までに、地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現」と設定されており、より積極的なメッセージを読み取ることができます。

以下、ムーンショット目標4に込められた、地球環境再生に対する日本政府のメッセージと、企業がDX推進によって貢献できることなどを解説していきます。

ムーンショット目標4の狙い

【ムーンショット目標4に関連するエリアとビジョン】

  • Area :地球環境を回復させながら都市文明を発展させる
  • Vision :「資源の完全循環」、「資源要求の劇的削減」
引用:ムーンショット目標4 2050年までに、地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現/内閣府

地球環境の再生における喫緊の課題は、温室効果ガスの削減です。

現状でも、プラネタリーバウンダリー(Planetary Boundaries:人間社会が発展と繁栄を続けられるための地球の限界値。これを超えると人間が依存する自然資源に対して回復不可能な変化が引き起こされる)を考えた時に、窒素等の量がすでに限界値を超えたハイリスクな状態にあると考えられています。

また、海洋プラスチックごみ問題は海の生態系に影響を与えており、食物連鎖の流れから、最終的には海の環境汚染が人体にも影響を及ぼすと懸念されています。

排出された際に地球環境に悪影響を及ぼす物質の排出を削減する努力に加えて、より根本的な解決策として、排出される物質を循環できる仕組みを構築していくというのが、ムーンショット目標4の狙いです。

そしてこの目標の達成に向けて、「クールアース&クリーンアース」と名付けられた「地球温暖化問題の解決」「環境汚染問題の解決」をDXによって解決するべく、日本政府や各企業が取り組みを始めているのです。

地球環境を回復させながら都市文明を発展させる

18世紀後半、イギリスで起きた紡績機と蒸気機関の発明に代表される第一次産業革命。その後、19世紀後半に起こった重工業の機械化が実現した第二次産業革命。

これらはどちらも、石炭・石油という化石燃料の燃焼によるエネルギーが元となっており、それらの使用量の増加に伴い、急速に二酸化炭素を始めとする温室効果ガスが大量に発生することとなりました。

特に第二次産業革命時は、自動車や航空機、船などの大量生産が可能となった結果、新しい「移動手段」の発明と普及に伴って、ヒトやモノの移動が活発になり、その結果として環境へのダメージが増加しました。

つまり、産業革命によって、新たな技術が生み出され、生活が豊かになることと引き換えに、地球環境は悪化していったのです。

産業革命

しかし、技術革新が必ずしも地球環境に悪影響を及ぼすわけではありません。

20世紀半ばから後半にかけて起こった第三次産業革命では、産業用ロボットの開発で人間の単純作業が自動化され、さらにはインターネットの普及が拡大しました。

そして、第四次産業革命と呼ばれる現代は、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)を始めとするデジタルテクノロジーの拡充やリモートワークが普及し、ヒトは物理的な移動を伴わずに、世界中と繋がれるようになっています。

つまり、新たなテクノロジーによって、人間の移動を減少させることができる環境が作られたということです。

その結果、移動に伴う温室効果ガス排出が抑えられると期待されています。

これらはまさに、DXがもたらした価値です。

第三次産業革命

もちろん、産業ロボットやインターネットには電気が必要であり、人の移動を削減できるテクノロジーがあるとはいえ、まだまだ完全に化石燃料が不要になるわけではありません。

ですが、デジタルテクノロジーやリモートワークを積極的に取り入れることは、SDGsへの取り組みとして重要な一歩です。

日本国内でも、製造を生業とする企業では、SDGsの目標12にあるように「つくる責任、つかう責任」というCSR(Corporate Social Responsibility/企業の社会的責任)の観点から、SDGsに対する意識が高い企業も多いでしょう。

しかし、それ以外の企業でも、当然のように環境問題に貢献できる事はあるはずです。

例えば、これまで紙のDMで行ってきた企業の宣伝を、アプリの活用や顧客データを利用してピンポイントにWEBで通知することでも、「資源を無駄にしない」ということに繋がります。

DXを用いて自社の業務を効率化し、さらにその先の新たな価値を目指す時は、そうしたCSRを踏まえた施策を考えることが重要であり、こうした取り組みの積み重ねがより持続可能な企業活動の実現へと繋がっていくのです。

目指す社会像

「温室効果ガスや環境汚染物質を削減する新たな資源循環の実現により、人間の生産や消費活動を継続しつつ、現在進行している地球温暖化問題と環境汚染問題を解決し、地球環境を再生する。」

これが、内閣府のムーンショット目標4に記されたムーンショットが目指す社会です。

温室効果ガスの削減や産業廃棄物のリサイクルによって地球環境へのダメージを減らし、さらに再生していく事ができれば、SDGsの目標達成とムーンショット目標を同時に達成することができるでしょう。

さらには、同じく内閣府が経済発展と社会的課題の解決を両立する<Society 5.0>を目指すことを発表した「第5期科学技術基本計画」の中では、ムーンショット目標4よりも、さらに積極的な施策が打ち出されています。

それによると、ビッグデータを踏まえたAIやロボットの進化や、サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させることにより、「必要なモノやサービスを、必要な人に、必要なときに、必要なだけ」提供する「人間中心の社会」を目指すことが掲げられています。

こうした社会の実現こそが、経済発展と社会的課題の解決を両立させ、SDGsの理念に繋がっていくことは間違いありません。

それは、まさにDXが目指している姿でもあり、DXで生まれ変わった企業がデジタル産業化することによって社会に貢献できる部分でもあるのではないでしょうか。

まとめ

【ムーンショット型研究開発制度】とDXの関わりを解説する連載企画の第3回となる今回は、「DX×SDGs」というテーマで、国連が定めたSDGsを取り上げ、中でも地球の環境問題に対して企業はどのようにDXで貢献すべきなのかを考察してきました。

デジタル技術とデータを活用して、企業の業務を効率化し、そこから新たな価値を生み出していくのがDXです。

しかし、より積極的にサステナブルな企業となるためには、SX(サステナブルトランスフォーメーション)の視点を取り入れるべきであり、それにはDXを推進して社会へ貢献することがなによりも重要となります。

そして、CSRも含めた企業としての明確な意思を表明していくことは、企業が成長していくと同時に、SDGs達成へ向けたアクションともなるでしょう。

企業が社会、そして地球の一員としての責任を果たすことは、今後は企業のブランディング上も重要なカギとなります。

DX推進施策を策定する場合には、ぜひともSDGsへの貢献も含めたビジョンを考えてみてください。

次回は、本連載の最終回として、貴社のビジネスとも直結するであろう「経済」編をお届けします。

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この記事の執筆者

株式会社MU 代表取締役社長

山田 元樹

社名である「MU」の由来は、「Minority(少数)」+「United(団結)」という意味。企業のDX推進・支援をエンジニア + 経営視点で行う。 最近の趣味は音楽観賞と、ビジネスモデルの研究。 2021年1月より経営診断軍師システムをローンチ

株式会社MU 代表取締役社長

山田 元樹

社名である「MU」の由来は、「Minority(少数)」+「United(団結)」という意味。企業のDX推進・支援をエンジニア + 経営視点で行う。 最近の趣味は音楽観賞と、ビジネスモデルの研究。 2021年1月より経営診断軍師システムをローンチ

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