「すべての人の、『お金のプラットフォーム』になる。」をビジョンに掲げ、企業から個人まですべての人のお金に関する課題に、あらゆるソリューションを提供している、株式会社マネーフォワード(本社:東京都港区/以下:同社)。同社の執行役員・経理本部本部長である松岡俊氏をお迎えして、経理のDX(デジタルトランスフォーメーション:以下/DX)にまつわるお話をお伺いする本企画。
前回の記事では、松岡氏が英国勤務時代に取り組まれたDXの経験を踏まえて、日本と欧米の違い、そして日本の経理がDXする際の課題と心構えについてお話を伺いました。
後編となる本記事では、経理のDXを成功させるための秘訣と具体的な成功事例をご紹介頂きます。
さらには、松岡氏の考える今後の経理あり方とはどのようなものなのかもお伺いしていきます。
経理のDXを促進するサポートを行う企業として、日本のトップランナーであるマネーフォワード社。同社でまさに経理とDXのプロフェッショナルとして、社内の経理部門のDXを進めてきた松岡氏のお話は、今後経理部門のDXを進めていきたいと考える企業様にとって、参考となるはずです。
前編と合わせてご一読いただき、ぜひとも貴社のDX推進にご活用ください。
目次
経理のDXに必要なスキルは「問題解決スキル」
DXportal®でも繰り返しお伝えしてきたように、日本は欧米諸国と比較して、DX推進において大きく遅れを取っています。
前回の記事では、松岡氏のインタビューをもとに、日本において経理のDXが進まない要因を3つご紹介しました。
そうした日本企業が抱える課題を理解した上で、それらを乗り越えてDXを推進していくためには、何をすれば良いのでしょうか。
日本だけでなく、DX先進国での勤務経験もある松岡氏が、その豊富な経験の中で感じた「DXを推進する上で必要なスキル」についてお伺いしてみました。
(松岡氏)
経理のDXを推進するうえで必要な能力は「問題解決スキル」です。
問題解決スキルとは、何が問題なのか本質を捉え、原因を適切に深堀りし、解決のための方法を効果的に実行し、効果を検証していく能力のことを指します。
システムの導入がDXと捉えられがちではありますが、業務課題を解決することが目標であって、システムはそのためのツールに過ぎないと考えています。
適用するソリューションも、自社で起きている問題の本質を捉えたうえで、解決にあったシステムを選ぶことが大切です。
他者が導入して成功したシステムだとしても、自社に合うとは限りません。
問題の本質とはずれたシステムを安易に導入したことにより、かえって別の問題が発生してしまう場合があります。
自社にとって効果的なシステムなのか、見定めて判断する能力も必要でしょう。
また、システムごとに強み・弱みが異なりますので、十分に比較検討の上、選択をすることも重要です。
DX推進にBPOを導入したマネーフォワードの成功事例
松岡氏は同社の経理本部 本部長に就いてから、経理部門のDX推進に尽力してきたわけですが、その過程で自身の「問題解決スキル」を活かして、大きな成果を残してきました。
では、実際に松岡氏は、どのような戦略で同社のDXを推し進めてきたのでしょう。
具体的な事例とともにお伺いしました。
(松岡氏)
DX推進の成功事例として、10営業日掛かっていた「財務会計の締め」及び「部門別の予算・実績対比まで含めた管理会計の締め」を4営業日まで短縮できたというものがあります。
この時の成功の秘訣は、最初に徹底してガントチャート等で現状を見える化し、どこが締め時間短縮に向けてのボトルネックなのか、滞留原因を明確にしたうえで、1つひとつ問題解決につながるソリューションを適用していくことで問題解決していったことです。
その時はまさに「問題解決スキル」を活かすことができました。
改善に回せるリソースには限りがあります。
よって全ての論点を満遍なく同時に解決していくのは難しく、優先度をつけて問題を解決していくことが重要だと感じています。
スモールスタートを繰り返したことによって小さな成功体験が積み重なり、最終的には月次決算日程の短縮につなげることができました。
システム導入以外にも問題解決をする手段はあります。
例えば、業務を見直して廃止できるものがあれば思い切って廃止してしまうこと。他のプロセスと統合してより効率的に実施するといったことも考えられます。
また、経理人材の配置という観点でBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング/以下:BPO)を導入することも考えられます。
BPOとは、自社で行っていたノンコア業務を外部に任せる方法を指しています。
生産性を大きく阻害するノンコア業務を外部に委託することで、自社の社員はコア業務に専念することができる体制を作りました。
BPOにより生まれたリソースを、コア業務に振り分けることの重要性について、さらに具体的なお話を伺ってみましょう。
(松岡氏)
BPOを導入する以前は個人の立替経費精算を、経理メンバー2名体制で3営業日までに処理していました。
この方法だと、まずは立替経費の処理時間が必要なため、売上の金額的により重要性の高い論点に十分な人員を割り振ることができていませんでした。
そのため、締め作業に多くの時間と労力がかかっていました。
また、BPO導入前は経費精算のルールが曖昧で、属人的な処理や人によって認識のズレがありました。
これは例えば、経費の申請者が決められた期限までに申請を行わなかった場合などにおいて「少し遅れちゃったけど頼むよ」と言われてしまった場合、その人との関係性を鑑みると断りづらいというような状況が発生する状況です。
こうした申請者との気を遣うやり取りは、ただでさえ膨大な単純作業に追われる経理担当者にとって、大きなメンタルの負荷を与えていたのです。
しかし、BPOを導入することにより、同時に今までは担当の頭の中だけにあったチェックポイントが文書化・明文化されました。
それによって、前述の「特例扱い」のようなことは起こり得なくなり、経理担当者の心理的負担と物理的負担の両方が軽減され、生産性の向上に大きな役割を担ってくれました。
このように、システム以外のプロセス改善でも問題を解決できることがあります。あくまで、業務改善が目的であってシステム導入すること自体が目的にならないようにすることが重要です。