DX(デジタルトランスフォーメーション/以下:DX)は一朝一夕に実現できるものではないため、特に予算やリソースが限られている中小企業においては、身近なところから改善・改革をはじめるのが得策です。
中でも、今やビジネスパーソンであれば誰もが手にしているスマートフォンなどのモバイル端末と、クラウドサーバを組み合わせた業務効率化から手を付けることをおすすめします。
前後編の2回に分けて、中小企業でも取り組みやすいモバイルとクラウドを有効活用した業務効率化について解説する本企画。DX推進におけるメリットと成功の秘訣を解説した前編に続き、後編ではより具体的なアクションプランに結び付けられるように、ツールの活用方法7選を紹介します。
限られたリソースの中であっても、DXを進めていきたいと考えている中小企業の経営者様・担当者様は、ぜひ最後までご一読ください。
目次
モバイル×クラウドの業務効率化ツール活用法7選
クラウドとモバイルを活用して業務効率化ができる業務は多岐にわたり、どの業務を効率化したいかによってツールの導入・活用方法は大きく異なります。
モバイル×クラウドで効率化が期待できる代表的な業務を取り上げ、それに最適なツールの種類をいくつか紹介しますので、自社の解決したい課題に合わせてご参考にしてください。
顧客管理(CRM)
顧客管理(CRM/Customer Relationship Management)とは、企業が顧客との関係を強化し、顧客満足度を向上させるための経営戦略で、顧客情報の収集・分析、顧客サポートの改善、顧客とのコミュニケーション改善など多くの業務が含まれます。
近年、モバイルとクラウド技術の発展により、企業は顧客管理にこれらの技術(CRMツール)を活用することができるようになりました。
CRMツールを利用した業務効率化の施策としては、次のようなものが考えられます。
顧客情報の収集・分析を自動化
顧客がスマートフォンやタブレットを通じてサービスを利用する場合、企業側はその利用履歴やデバイス情報、位置情報などを収集することができます。
また、クラウド上に蓄積された膨大なデータを分析することで、顧客の嗜好や傾向を把握し、ターゲティング広告や商品開発に活用することも可能です。
CRMツールは、このようなマーケティング戦略のために必要なデータの収集・分析を自動化できます。
サポート改善
顧客満足度の向上のためには、サポート体制の整備が欠かせません。
チャットボットやFAQを提供すれば、顧客の問い合わせ対応時間を短縮したり、クラウド上に蓄積された顧客情報を活用して、より的確なサポートを提供したりすることにより、顧客サポートの質を大幅に改善することができます。
また、SNSやメールなどを活用して、顧客とのリアルタイムなコミュニケーションを実現することで、顧客の声に耳を傾け、フィードバックを受けて改善を行うことも可能です。
人が行うには限界のあるカスタマーサポートに、デジタルツールを取り入れることで、顧客満足度の向上が期待できます。
名刺活用の自動化
名刺管理は、営業活動において欠かせない業務です。
名刺管理に特化したツールを利用すれば、スマートフォンのカメラで名刺を撮影するだけで、名刺に記載された情報を自動で登録することができます。
ツールの機能を活用すれば、名刺を検索したり、交換した時期ごとに並び替えたりすることも容易になるので、必要な情報を簡単に見つけることができるようになるでしょう。
さらには、自分が名刺交換した相手の情報をすぐにチームメンバーと共有できるため、直接名刺交換をしていないメンバーであっても、重要なお客様とのコミュニケーションをスムーズに進めることができるようになるなど、チーム内の連携やプロジェクトの運営を円滑にする効果も期待できます。
このように、名刺情報をCRMツールに連携することで、営業活動を効率化することもできるのです。
ドキュメント管理
クラウドとモバイルを活用すれば、社内で共有する文書や資料をクラウド上にアップロードし、管理することができます。
クラウド上に保存されたドキュメントは、いつでもどこでもモバイル端末からアクセス可能なだけでなく、複数人での同時編集が可能となるため、営業チーム内での情報・戦略の共有や開発チームでの進捗管理など、あらゆる業務における効率化に寄与してくれるでしょう。
ドキュメントのバージョン管理も自動的に行われるため、1度導入すればほとんど運用に関する手間が必要ないのも魅力です。
OCRを活用したスキャン・データ入力自動化
OCR(光学文字認識)を活用することで、書類や名刺などの紙媒体の文字情報をスキャンし、自動でデータ化することができます。
スキャンした書類はクラウド上に保存されるため保管場所が不要になるだけでなく、文字認識されたデータは自動的に抽出・整理されるため、検索したり、再利用することも容易になります。
データ入力を手作業で行う際に発生していた入力ミスや時間のロスを防ぎ、業務の圧倒的な効率化に繋がるでしょう。
機密情報の安全な共有
機密情報を扱うドキュメントの場合、外部からのアクセスを制限する必要がありますが、このセキュリティ対策を社内で構築するのは容易ではありません。
しかし、ドキュメント管理ツールを利用すれば、アクセス制限を設定した上で機密情報を共有したり、クラウドストレージに保存する前に暗号化したりすることが簡単にできるため、利便性を維持しながら、情報漏えいのリスクを低減することができます。
プロジェクト管理
プロジェクト管理は、ビジネスの中でもっとも重要な業務の1つです。
クラウドとモバイルを活用することで、プロジェクトの進捗管理やタスクの割り当てが簡単になります。
以下、いくつかの要素に分けて、プロジェクト管理ツールのメリットをより詳しく見ていきましょう。
タスク管理
プロジェクト管理ツールでは、プロジェクトに関連するタスクをリストアップし、個人、あるいはチームで実行するタスクの予定を把握することができます。
チームメンバーは、タスクの進捗状況を随時更新したり、新しいタスクを追加したりといった作業を、モバイル端末を使用してクラウド上で簡単に行うことができます。
また、メンバー同士の共有も簡単で、手軽にリマインドもできるため、タスク管理における人為的なミスも起こりにくくなるでしょう。
スケジュール管理
プロジェクト管理ツールには、スケジュール管理機能が備わっています。
スケジュールは、カレンダー形式やガントチャート(工程管理表)形式で明確に可視化することができ、チームメンバーはモバイル端末からスケジュールの確認や更新を行うことが可能です。
多くのツールでは、それぞれが入力したタスク情報がそのままスケジュールにもリンクされ、分かりやすく可視化された情報としてクラウド上に保存されます。
そのため、それぞれのタスクやスケジュールが一元管理され、チームメンバーがいつでもどこでもスケジュールと進捗状況を確認することができるのです。
コラボレーション
チームメンバー間でタスクやファイルを共有するための機能(コラボレーション機能)を利用すれば、プロジェクトに関わるチームメンバーはモバイル端末から、ファイルのアップロードやダウンロード、コメントの投稿などが可能になります。
これまでは少なくともPCが使用できる環境でないと行えなかった業務が、手のひらサイズのモバイル端末で行えることで、どこからでも手軽にチームメンバーと協働できるようになるでしょう。
プロジェクト管理にこうしたツールを使うことで、個人個人が各々のタスクを理解するだけでなく、メンバー同士で互いの進捗を確認し合い、フォローし合うことが可能となります。
また、必要に応じてツールを利用したブレーンストーミングなどの機会を設けるなど、機能を活用すればチームの力を最大限に発揮することができるのです。
在庫管理
物流や製造業において欠かせない在庫管理業務は、クラウドとモバイルを活用することで最も利便性を実感できる業務です。
在庫管理は重要な業務の1つですが、手作業での管理ではヒューマンエラーが起こる可能性が高く、また、効率的な在庫管理が難しい場合も少なくありません。
しかし、モバイルとクラウドを組み合わせた在庫管理ツールを活用することで、在庫の状況や入出庫履歴などをリアルタイムで把握することができるようになります。
入力ミスや計算ミスなどの不安がなくなり、在庫管理業務のほとんどを自動化できるため大幅な業務効率化が図れるのです。
在庫情報の一元管理
クラウド上で在庫情報を管理することで、複数の拠点の在庫情報を一元的に管理できます。
それら全てにモバイル端末からもアクセス可能な状況が整備できていれば、現場での在庫確認や入出庫管理が今までよりも格段によりスムーズに行えるということは想像に難くないでしょう。
また、バーコードリーダーと組み合わせた在庫管理ツールを活用することで、在庫の入出庫時にバーコードを読み込むだけで在庫情報を自動的に更新できるようになるなど、在庫管理ツールの活用方法は多岐にわたります。
在庫管理ツールを導入すれば、手作業での在庫管理に比べて作業時間を大幅に短縮でき、正確性も高まることは間違いありません。
自動アラート機能
在庫管理ツールには、在庫が一定数以下になった場合に自動的にアラートを送信することができるリマインダー機能が搭載されていることもあります。
これにより、「うっかりミス」による在庫不足や、生産停止や販売不可の商品の注文を新たに受け付けてしまうなどのリスクを軽減することができるでしょう。
リモートワークのコミュニケーション
リモートワークにおいては、物理的な距離を乗り越えて、組織として活動できるようなコミュニケーションが重要です。
とはいえ、相手の状況が見えにくい環境下では、気軽な声掛けは困難です。
こうした問題も、クラウドとモバイルを活用することで、メッセージのやりとりやビデオ会議などが簡単に行えることにより、大幅に改善することができます。
特に働き方が多様化し、リモートワークが増える現代では、従業員同士のコミュニケーションやタスクの共有を円滑に行うために、クラウドとモバイルを組み合わせたツールの活用が不可欠なのです。
具体的なツールとしては、以下のようなものがあります。
チャットシステム
リモートワークでは、当然ながらオフィスに通勤している時のような直接的なコミュニケーションを行うことはできません。
プロジェクトを共有しているメンバー同士のコミュニケーションを促進するためには、チャットツールの導入は必要不可欠です。
例えば、SlackやMicrosoft Teamsに代表されるチャットツールを活用することで、モバイルを利用して、手軽でリアルタイムなコミュニケーションが可能になります。
また、チャットルームを分けることで、プロジェクトごとに関係するメンバーだけを集めたコミュニケーションを行うこともできるため、適切な情報共有が可能になります。
オンライン会議
オンライン会議ツールを活用することで、顔を見ながら会議やディスカッションを行うことができます。
相手の表情がわからないことによるすれ違いなどを避け、オンラインであっても実際に顔を合わせているかのようなコミュニケーションが取れるのは、オンライン会議ツールの大きな魅力です。
例えば、ZoomやMicrosoft Teamsなどのオンライン会議ツールを使用することで、従業員同士が遠隔地にいても、スムーズなコミュニケーションがとれるでしょう。
また、こうしたツールを利用する場合、必然的に「無駄な会話を省こう」という意識が働くため、時間効率の良いスリム化された会議に繋がったという事例も数多く報告されています。
ファイル共有
リモートワークでは、スムーズなファイルの共有ができるかが重要な要素になります。
メールでファイルを送信する方法もありますが、ファイルのサイズが大きかったり、複数の人が編集する場合には非効率的です。
こうした問題は、クラウド上でファイルを共有できるツールを使用することで解決します。
チームメンバーに必要なファイルを全てクラウド上に置いておくことで、メンバーは自分のデバイスからいつでもファイルにアクセスでき、編集やコメントの追加も容易に行えるのです。
顧客との接点拡大
DXを進める上では顧客のニーズや意見を理解することが重要ですが、モバイルとクラウドを活用することは、このために欠かせない「企業と顧客との接点」を生み出すことにも繋がります。
顧客ニーズを把握し、顧客満足度を向上させることで、DXによる価値創出は大きく進むでしょう。
モバイルアプリの開発・提供
モバイルを活用して顧客との接点を生み出す方法としては、モバイルアプリケーションの提供が考えられます。
モバイルアプリケーションを提供することで、顧客はいつでもどこでも企業と接触することができますし、企業も顧客との接触を容易にすることができ、顧客のニーズをより把握しやすくなるでしょう。
ECサイトなどのモバイルアプリ化や、動画配信サービスのモバイル最適化などの施策は、その最たる活用例です。
さらに、モバイルアプリケーションを通じて、企業は顧客に対して各種情報やサービスを提供することができ、顧客との関係を強化することにも繋がります。
コミュニティツールの活用
モバイルとクラウドを組み合わせて顧客との接点を生み出す方法としては、コミュニケーションツールの提供も考えられます。
企業は、顧客とのコミュニケーションを容易にするために、メールやチャット、ビデオ会議などのツールを提供することができ、これにより顧客とのコミュニケーションが円滑になり、顧客との関係を強化することができるでしょう。
例えば、不動産会社がスマホアプリを活用して物件の内見をオンライン化した施策や、アパレル業界がオンライン接客を取り入れて販路を拡大した施策などは、企業がモバイルとクラウドを組み合わせて顧客とのコミュニケーションを強化した好例です。
この2例は、どちらもコロナ禍が生み出した苦肉の策ではあったかもしれませんが、「対面営業を苦痛に思う」顧客のニーズとも合致し、新たな需要を生み出しました。
また、それに合わせて、企業としてスマートフォンでの利用が多いSNSを運用することも、ブランド力の強化を含めた顧客とのコミュニケーション強化に役立ちます。
ビジネス分析
改めて確認すると、DXとは「デジタル技術とデータを活用し、既存のモノやコトを変革させ、新たな価値創出で人々の生活をより良くする」ことであるため、ビジネスを効率化させるためにもデータの収集や分析は必須条件です。
クラウドとモバイルを組み合わせたビジネス分析としては、次のような活用法が考えられます。
リアルタイムでのデータ収集・分析
クラウドを活用することで、膨大な量のデータをリアルタイムに収集することができます。
さらに、モバイルを活用すれば、その情報にどこからでもアクセスできるようになるのです。
自動で収集されるデータを、いつでもどこでも分析が可能な体制を構築できれば、ビジネスの状況を常に把握し、迅速な対応がとれるようになります。
自動化されたデータ処理
上記にも関連して、クラウドを活用することの強みは、データ処理を自動化できるという点にもあります。
例えば、クラウド上で収集されたデータを自動的に分析しレポートを作成したり、モバイル端末で特定のデータが収集された場合にアラート機能を設定しておいたりと、その活用方法は様々です。
データ収集を自動化することで、データ処理の効率化を図り、多様な業務に活用していけるでしょう。
データの可視化
クラウド上でデータを管理することは、データの可視化が容易になるということでもあります。
ツールを使えば、様々なデータをわかりやすく整理することができるのです。
例えば、グラフやチャートなどのビジュアル化されたデータを活用することで、ビジネス状況の把握や分析がより分かりやすくなります。
また、視角的にわかりやすい形にすることで、プロジェクトメンバー外のステークホルダーなどにも伝わりやすい情報提供を行うことができるのです。
まとめ~中小企業のDXはモバイルとクラウドの活用で勝つ!
身近なところからDXによる変革を進められるモバイルとクラウドを組み合わせた施策は、中小企業にとって大きな可能性を秘めています。
モバイル端末からクラウド上のデータやサービスにアクセスすることで、業務プロセスの効率化やコスト削減を実現することは、多くの中小企業において再現が可能であり、汎用性の高いDXモデルなのです。
ただし、本企画の前編で取り上げたように、モバイルとクラウドを組み合わせた業務効率化の施策には、注意点やリスクも存在します。
DX推進に携わるチームメンバーは、これらの問題に対応するための知識や技術を身につけておかなければなりません。
今回紹介した業務効率化ツールの活用方法においても、ただ闇雲に導入すれば良いというわけではなく、実現したいこと、解決したい課題に合わせて企業ごとにカスタマイズして導入すべきものです。
モバイルとクラウドを組み合わせたDX推進は、今後もますます普及し、多くの企業がそれを活用して業務効率化を実現していくことが期待されているわけですが、裏を返すと同様の戦略をとるライバル企業が多いということでもあります。
また、ツールの運用自体においても、技術の進化やセキュリティの脅威などにより、本企画では取り上げていない新たな可能性や課題が生じていくこともあるでしょう。
モバイルとクラウドを組み合わせたDX推進は、業務の効率化を高めるための重要な戦略の1つではありますが、それだけで競合他社に対する優位性を確保できるわけではありません。
業務の効率化をきっかけに、そこから顧客に対する明確な価値提供を行ってはじめて、DXが目指すビジネスモデルの変革や新たな企業価値の創出に繋がります。
中小企業の経営者様におかれましては、今後ますます注目が高まっていくと予想されるこの領域に積極的に取り組み、ビジネスの成長を加速させる足がかりとしていただくことを強くおすすめします。
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