目次
「DXレポート」の予言から見るみずほシステムエラーの元凶
DXに携わる企業にとっては既に馴染み深い名前となった、経産省が発表したDXレポートの中で、現在のみずほ銀行とみずほFGが抱える問題について、ほぼ予言とも言える警鐘が鳴らされています。
もちろん、企業名を名指ししているわけではありませんが、DXレポートで語られる「2025年の崖」問題は、まさに現在のみずほが直面している問題そのものです。
みずほを襲った「2025年の崖問題」
DXレポートでは、これまでの日本のシステム開発の問題点が表面化し、多くの企業において破綻が起きると予測されていました。
そのリミットが2025年とされ、これがいわゆる「2025年の崖」問題です。
その要因は大きく分けると3つあります。
- 煩雑化するレガシーシステム
- 経営層と社員の考えのギャップ
- ベンダーに任せきりのシステム開発
前章で紹介した金融庁業務改善命令4つの指摘から、現在のみずほ銀行及びみずほFGが抱える問題は、まさにDXレポートにおいて日本企業が「2025年の崖」で直面するとされていた問題点がそのまま見て取れます。
日本型システム構築の歪み
日本企業のIT・システム構築の歴史を振り返ると、IBMや日立製作所、富士通、NECといったハードウェアメーカーが、自社の製品を売るための付随サービスとして発展させてきたと言えます。
それまでアナログで行われてきた業務をコンピュータで行えるように作り上げたシステムであり、一見すると現在のDX推進と同じ目的に沿って作られたように見えるシステムです。
しかし、その実態は「メーカーが製品を売り込む顧客企業に合わせて個別最適化(パーソナライズ)して作り上げたシステム」でした。
つまり、ITベンダーが主体となり作り上げたカスタマイズされすぎたシステム構築は、汎用性を持たず、仮に故障した場合などでも他者が介入することが困難なシステムです。
更に、改修につぐ改修を重ねたシステムは継ぎ接ぎだらけとなり、保守・点検も含めて企業のシステム部門とベンダーにしか中身の分からない複雑怪奇なモノとなってしまったのです。
さらに、みずほ銀行・みずほFGの場合は企業の吸収・合併を繰り返した結果、システムもビジネスも容易には変革できない状態を作り出してしまいました。
そのような状況下で開発されたMINORIも、日本IBM、日立製作所、富士通、NTTデータという大手4社が開発したシステムを統合・発展させたシステムとなってしまったため、「新たに開発されたシステム」を謳いながらもその根幹には、「2025年の崖」で指摘された日本の悪しきレガシーシステム(老朽化・複雑化・ブラックボックス化した既存システム)が残ってしまったのです。
レガシーシステムを刷新できない組織構造
2018年公開のDXレポートで、「2025年の崖」問題の主原因として指摘されていた日本企業のレガシーシステムですが、その後2020年に更新された「DXレポート2 中間とりまとめ(以下:DXレポート2)」においては、「レガシーシステムの刷新について、本質的ではない解釈を生んでしまった」と記載されています。
同レポートにおいて、経産省は「現時点で競争優位性が確保されていればこれ以上のDXは不要である」と言った考えが広がってしまったと分析し、レガシーシステムの刷新について、より踏み込んだ解説を行っています。
経産省によると、レガシーなシステムを刷新するというのは、単にシステムを高度化するのではなく、「事業環境の変化へ迅速に適応する能力を身につけると同時に、その中で企業文化(固定観念)を変革(レガシー企業文化からの脱却)すること(引用:経産省DXレポート2 本文)」です。
つまり、レガシーシステムの刷新自体が目的なわけではなく、レガシーシステムの刷新を基にした企業体質や組織構造の変革、さらには変わりゆく時代に合わせて変化するビジネスモデルを構築する事が求められているのです。
しかし、みずほの場合はDX推進策として鳴り物入りで導入したMINORIの根幹システムで、COBOLという今では新規開発でほとんど使われないプログラム言語で開発された資産(業務アプリケーション)が使われている点。
更に、そもそものシステム開発が大手4社の共同開発システムである点など、まさにレガシーシステムを引きずった問題点が目に付きます。
それに加えて、システム稼働後に運用・保守のシステム要員を7割も削減するなど体制の問題もありました。
このような現状を生み出した経営姿勢からは、本来は企業文化の変革のための手段であるはずの「レガシーシステムの刷新」を自己目的化していただけでなく、そのための現実的な施策はベンダーや現場に丸投げするという組織構造が見て取れます。
トップの理解と現場力
「個別最適化」を目指して作られてきた日本型基幹システムは、作った人間(企業)にしか扱えないにもかかわず、今や当時の制作者や担当者が現場を離れてしまったため、ブラックボックス化しているのが現状です。
そんなレガシー化したシステムを刷新するには、DXに対するトップの理解と、現場任せにしないリーダーシップと、本当にスキルを持った現場社員の力が求められます。
みずほ銀行・みずほFGが導入したMINORIは、今から作り直すにはあまりに巨大ではありますが、それでいて誰かがリードして根本的な課題を取り除かない限り、頻発するトラブルに対症療法的な措置をするしか無いという状態です。
金融という国民の生活に直結する業界での問題であるため、みずほ銀行とみずほFGだけには任せておけないと金融庁が立ち上がったわけですが、それでも根本的な解決の糸口は当分見つかりそうにありません。
まとめ
出口の見えないみずほ銀行及びみずほFGを巡る一連の騒動ですが、こうした事象はすべての企業にとって対岸の火事ではありません。
企業のDX推進とは、経産省も警鐘を鳴らすようにレガシーシステムの刷新を自己目的化するのではなく、根本的な企業の在り方から考え直す必要性を経営陣が理解し、ベンダーや現場任せでないリーダーシップを取っていく事が求められます。
みずほ銀行やみずほFGのような巨大企業では難しいことでも、小回りの利く中小企業でならば実現できるはずです。
みずほ・みずほFGの事例を巨大な金融企業だけの問題だと思わず、反面教師として、そこから得られる学びをぜひとも自社のDX推進戦略の一助としてください。