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伝統工芸を蘇らせるDX事例
伝統工芸の継承には、技術継承や新規顧客開拓といった課題があります。
この課題解決に向けて実際にDXを導入を行っている事例をご紹介いたします。
デジタルで伝統工芸を蘇らせるギルド集団|空の目
日本の伝統工芸品「博多織」を継承し続け、創業から123年の歴史を持つ「OKANO」の織元が、2019年に設立した企業「空の目株式会社」。
同社では伝統工芸のブランド・インキュベーション事業や、プラットフォーム事業を手がけることで「伝統工芸の活性化」を目指しています。
空の目を運営するのは体験を重視するミレニアル世代(1980年~95年生まれで2020年に25歳から40歳を迎える世代)のスタッフ達。
彼らが今後の消費行動を支えるZ世代(1996年~2015年生まれのデジタルネイティブな世代で、実用性を求める傾向が強い)へ向けて伝統工芸を広めるべく、着物や焼き物などの伝統工芸品を日用品化するために、商品の在り方を変化させるといった取り組みを行っているのです。
例えば、従来は着物の帯の役目として存在していた博多織を、ネクタイや食器に活用するといったことや、Z世代でも伝統工芸品を手に取りやすいように、デザインも良く手頃なお土産を作り出すことなどが挙げられます。
その他、空の目が行っている支援は以下のような内容です。
- 伝統工芸を世に伝えるインターネットプラットフォームとして空の目自体を機能させ、職人がモノづくりに集中できる環境を提供する
- 海外を含めた様々なブランドとのコラボレーションをインキュベーションする
- ECに豊富な知見を持つ人材をメンバーに引き入れ、伝統工芸の認知拡大にインターネットを最大限活用する
日本工芸のデジタル化こそ伝統工芸、ひいては日本再興の可能性があると考える空の目では、DXによる伝統工芸の新たな価値創造を目指し、こうした様々な取り組みを続けています。
作り手の思いや商品背景を伝える新感覚サービス|CRAFT STORE
作り手の想いと消費者をつなぐECサイト「CRAFT STORE」を手がける、ニューワールド株式会社。
同社では「日本のブランドを世界No.1にする」をビジョンに掲げ、CRAFT STOREの運営やクラウドファンディング実施のサポートを通じて、陶器や漆器といった伝統工芸品の作り手支援を行っています。
CRAFT STOREは、商品が生まれた背景や製作過程を文章・画像・動画で紹介しており、1つの製品にかけられた手間と時間、そして作り手の想いを伝える事を目的として作られたサイトです。
このような、サービスや商品のブランディングストーリーを構築して集客を図る方法を「ストーリーコマース」といいます。
新型コロナウイルス感染拡大に伴い、顧客が陶器等に直接手を触れて購入することが困難になったことや、結婚式の需要が大幅に減少し引き出物としての注文が減少したことにより、十分な売上を立てることが困難となった2020年。
その中でもストーリーコマースを取り入れたCRAFT STOREでは、家で過ごす時間を充実させたいと考える顧客層からの注文が増加しました。
このような取り組みは、伝統工芸品の提供が直接的なアプローチ以外にも可能であることを示し、作り手に対しても新たな気付きを与えました。
作り手の想いやバックストーリーを伝えるには、インターネットほど最適な舞台はありません。
その良さを最大限活かしたECサイト作りこそ、CRAFT STOREが目指す新時代の伝統工芸販売チャネルなのです。
作り手とファンを繋げるライブコマースアプリ|ENU(エヌ)
株式会社ワントゥーテンが運営するのは、日本各地の有形無形の価値を生み出す伝統工芸の作り手と、それを応援したいファンとがつながることができるサービス「ENU」です。
同社では、伝統工芸職人の4割が廃業危機に直面しているといった現状を踏まえ、伝統工芸の作り手や発表の場を失っているアーティストを支援する新たなSNSとして生み出されました。
ENUはファンコミュニティ機能、サブスクリプション機能、ライブコマース機能、ストア機能などを通じて、ファンが作り手の創作活動を応援し、モノを購入することができる新感覚のサービスです。
ENUの機能のうちライブコマース機能とは、ライブ配信を通じて作り手がファンへ商品に対する想いや価値などを伝え、ファンはリアルタイムで作り手との交流を行いながら商品を購入することができます。
ファンはENUを通じて伝統工芸が出来上がる過程を知り、作り手と交流することができるため、単にモノやサービスを購入するだけでなく、そこには新たな付加価値が加わるのです。
DXトレンドの1つとして挙げられる「モバイル」を伝統工芸普及のために利用した事例として注目に値するENUですが、このようなサービスがあることによって作り手も製作意欲が沸くため、結果として伝統工芸の継承に繋がって行くことが期待されます。
まとめ
伝統工芸がレガシー産業化している原因は下記の通りです。
- 伝統技術が体系化されておらず、後継者への継承が困難かつ後継者も少ない
- 伝統工芸の提供方法が直接的な形式のみに依存している
- 国や自治体の補助に守られている環境下の中、作り手側の革新と挑戦意識が低下している
これらの課題解決のために、実際にDXを導入している事例について解説いたしました。
伝統工芸を後世へ継承させていくためには、技術を体系立てて整理することや、多くの顧客層に製品に触れてもらえるよう、商流を開拓・拡充させていくことが重要です。
それにあたってはデジタルツール導入による伝統技術の体系化や、ECサイト活用等のDX化は必要不可欠となります。
このように伝統工芸とDXという一見相容れないもの同士が掛け合わさることで、伝統工芸の良さを残しながらも、新たな価値の創出が可能です。
しかし、伝統工芸がレガシー産業から進化するカギはDXそのものではなく、現状に甘んじることなく変化を恐れず挑戦するといった、係る人々自身の意識改革が最も大切なのではないでしょうか。