長年に亘り受け継がれている技術や技が用いられた美術、工芸品というものは、人が直接見て、触れて愉しめるのが醍醐味です。
しかし今、直接的な訴求により人々に受け入れられてきた伝統工芸の世界は、売上の減少や後継者不足など様々な要因からその存続が危ぶまれています。
国からの補助金による支援を受けながらもその流れを止めるには至らず、このままでは本当にレガシー産業化してしまいかねません。
そこで今回は伝統工芸の現在の課題と、それを解決するカギとなるDX(デジタルトランスフォーメーション/以下:DX)の導入について解説します。
さらに、実際にDXを用いて先進的な挑戦を続ける伝統工芸の事例をご紹介しますので、参考にしてみてください。
伝統工芸に限らず、現在レガシー産業化しつつある多くの業界にとってのヒントが、そこには隠されているはずです。
目次
レガシー産業化する伝統工芸業界
(一財)伝統的工芸品産業振興協会の調査結果のとおり、伝統工芸品の生産額は1983年の5,410億円をピークに、特に1990年以降は右肩下がりとなり、これに伴い従業者数も1979年を境に下降の一途をたどっています。
これらは人口構造の変化や賃金の伸び悩みといった取り巻く環境の変化、さらには大規模小売店の拡大やファストファッション、ファニチャーなどの業態が成長を続ける中で、伝統工芸が市場の変化に適応できず需要減少に繋がったことが原因です。
市場は常に変化しており、それに伴い人々のニーズも変化していきます。
このまま何も対策を講じなければ、伝統工芸の継承は叶わないものとなるでしょう。
生き残りの鍵はデジタル技術との融合
伝統工芸が市場の変化に適応できなかった背景には、以下のような要因が考えられます。
- 伝統技術が体系化されておらず、後継者への継承が困難かつ後継者も少ない
- 国産原材料の枯渇・高騰により工芸品の価格自体も庶民が手を出しにくい価格となっている
- 伝統工芸の提供方法が直接的な形式のみに依存している
- 国や自治体の補助に守られている環境下の中、作り手側の革新と挑戦意識が低下している
伝統技術の継承を例に挙げれば、従来は匠の背中を見て学ぶ方法が一般的でしたが、それは非常に感覚的であり言語化・体系化されたものではありません。
それゆえに、後継者側も感覚的にそれを捉えざるを得ず、効率的とは言えない状況でした。
こうした問題を解決するためには、ノウハウとして伝えられるよう伝統技術をデータ化したり、伝統工芸そのものを若い世代を中心とした世間へ伝えるためにインターネットを利用したりと、デジタル技術を活用したDX化が求められます。
【伝統工芸に導入するDX化の一例】
- 3Dモーションキャプチャーによって手の動きなどを数値化し、伝統技術をノウハウ化する
- EC(Electronic Commerce:電子商取引、通販/以下EC)サイトによってインターネット上でも伝統工芸に関するモノやサービスの商売が成立する仕組みを構築させる
- ユーザーがより親しみを持てるよう、製作過程等アプリを用いLIVE配信する
- 工芸品のサブスクリプションサービス(定期購買)を展開する
上記の例のように伝統工芸とデジタル技術とを融合させることが伝統工芸継承の要です。
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