企業がビジネスをDX(デジタルトランスフォーメーション/以下:DX)するにあたっては、様々なITテクノロジーの導入が必要です。
中でも、当DXportal®でも何度か取り上げてきた「IoT(Internet of Things/モノのインターネット」は、中小企業が未来への一歩を踏み出すための重要な鍵となります。
IoT技術はビジネス運営の方法を根本から変革する力を持っており、企業の成長と進化に大きく貢献する技術です。
そこでこの記事では、IoTが中小企業にどのような革新的な可能性をもたらすのか、データを活用した意思決定の強化から、顧客体験の質の向上まで、IoTがもたらす幅広いメリットを、前後編にわたって解説してまいります。
前編の今回は、IoTの基礎知識とその実装の手順について、次回後編では導入時の注意点とその評価方法について解説します。
業務の効率化だけでなく、企業に様々なメリットをもたらすIoT技術について、この機会に改めて学んでください。
目次
IoTの基本
「IoT(Internet of Things/モノのインターネット」とは、デバイスなどの物理的な「モノ」をインターネットに接続することで通信機能を持たせ、データを収集および分析できるようにする仕組みを指しています。
その仕組みを作り、モノとインターネットが連動した状態になることが「IoT化」です。
IoTの活用は、企業においては運営の効率化、コスト削減、顧客体験の向上など、多くの面でメリットをもたらします。
IoTの基本概念
IoTは、センサーや機器をインターネットに接続し、実世界のデータをデジタル情報として収集します。そして、収集されたデータを分析したうえで、ビジネスの意思決定やプロセス改善のために使用する仕組みです。
それによって実現できることは主に次の3つに分けられます。
- コントロール:離れた場所にあるモノを遠隔操作・制御する
- モニタリング:離れた場所にあるモノの状態を遠隔から監視する
- シンクロ:離れた場所にあるモノ同士で任意のデータを送受信する
IoT実装する際のポイント
IoT技術を導入する際には、セキュリティ対策やプライバシーの保護、さらにはコストと投資収益率の評価など様々なポイントを抑えることが重要です。
正しい計画と戦略を立てることで、中小企業はIoTの利点を最大限に活用することができます。
詳しくは後編で解説しますが、まずはIoTの基礎をしっかり整理したうえで、注意点を踏まえて計画を策定しなければなりません。
IoTがもたらす価値
正しい計画と戦略に基づくIoT技術の活用は、中小企業にとって多大な利益と成長の機会をもたらします。ここでは、IoTがもたらす価値の一例をご紹介します。
リアルタイムのデータ分析
IoTデバイスが収集するリアルタイムデータは、市場動向や顧客行動の変化を即座に捉えることを可能にします。
これにより、中小企業はマーケティング戦略や製品開発を、状況に合わせてスムーズに調整することができます。刻一刻と変わるマーケットの変化を収集・分析し、ビジネスに活かしていくためにはIoTデバイスは不可欠なツールです。
こうしたリアルタイムデータに基づく、データ駆動型のアプローチは、ビジネスの敏捷性を高め、迅速な対応やイノベーションを促進します。
リモート資産管理
IoT技術を利用することで、例えば事務所にいながらにして倉庫の在庫の確認や補充などが可能になります。これは、過剰在庫や欠品を可能な限り防ぐことに繋がるでしょう。
また、生産設備や施設の状態をリアルタイムで遠隔監視することで、予防保守や迅速なトラブル対応の実現にも寄与します。
効率化とコスト削減
パソコン上で繰り返し行われる業務プロセスを自動化することで、業務効率は大幅に向上できます。
また、業務プロセスの自動化は、その作業に割いていた人的資源をより重要な業務に割り当てることにも繋がります。
こうした取り組みは業務の効率化と、人的リソースの効率的な活用、コストの削減に繋がるでしょう。
さらに、IoTデバイスをエネルギー消費の監視・管理に利用すれば、ビジネスにかかるオペレーションコスト削減の効果も期待できます。
顧客体験の改善
IoTデータを活用して顧客の好みや行動パターンを分析すれば、個々の顧客に合わせてパーソナルにカスタマイズしたサービスの提供が可能です。これは、顧客エンゲージメントの強化に大いに繋がるでしょう。
例えば、ホテル業界で一度宿泊した顧客であれば、客室の照明や温度、あるいは音楽の設定やルームサービスの積極的なセールスなどを自動的に調整することも、IoTソリューションを導入することで実現できるのです。
こうしたIoTを介したインタラクティブな顧客体験の提供により、顧客ロイヤリティを高め、リピート購入や口コミの促進に繋がる効果も期待できます。
新しいビジネス機会の創出
IoTデータを活用して未開拓市場のニーズを特定し、新しいビジネス機会を探ることで、新規市場の開拓も期待できます。
工場での製造装置の稼働状況を把握し、サプライチェーンへの部材発注を最適に制御したり、製造装置に取りつけたセンサーによって装置の故障を事前に予測し向上の稼働率を高めることは可能ですが、こうしたソリューションを同業他社に対してシステムとして販売することで、新しいビジネス機会が創出されるのです。
新製品やサービスの開発はIoT技術によって加速され、新しい製品やサービスのイノベーションを可能にします。結果的に、市場での差別化を図ることにも繋がるでしょう。
セキュリティと安全性の強化
IoTデバイスを用いたセキュリティ監視システムは、企業の物理的なセキュリティを強化します。
例えば、適切にセキュリティ対策を施したIoTであれば、紙書類などを人が管理する場合と比べて、データ漏洩のリスクを最小限に抑えることも可能です。これは、企業の信頼性を高めることにも繋がるでしょう。
IoT実装による成功の秘訣
上記のような価値をもたらすIoT技術は、中小企業がビジネスの効率化、顧客体験の向上、新しい市場の開拓などを達成するための強力なツールとして広く採用されています。
ここでは、業界ごとのIoT実装例と成功の秘訣を紹介します。
製造業におけるIoT
製造業における最も代表的なIoT実装例としては、IoTデバイスを用いて機械のパフォーマンスを監視し、予防保守を行うことがあげられます。
例えば、機器の稼働状況をリアルタイムで追跡し、故障が起こる前にメンテナンスを行うことで、ダウンタイムを減少させ、生産効率を大幅に向上させることが可能となるのです。
これは、製造現場の設備や機器にIoTセンサーやカメラなどを搭載し、収集したデータをネットワークで取り込み、温度・湿度・振動・圧力などのデータを収集するセンサー、あるいはカメラやその他のシステムを統合することで、異常時にはアラートを鳴らしたり、不良品の数を自動計測し、一定ラインを越えると担当部署に点検支持を行ったりといったプログラムが考えられます。
小売業におけるIoT
小売業では、在庫管理や顧客行動の分析にIoTを活用する事例が多く見られます。
例えば、スマートセンサーとRFIDタグ(情報が書き込まれたICやRFタグなど)を使用して在庫を自動追跡すると、在庫管理の手間がなくなり、常に適切な在庫水準を保つことが可能です。
また、店舗内の顧客行動を店内カメラとAIを組み合わせて分析することで、顧客の動線を「見える化」することができます。
こうしたデータは、マーケティング戦略や店舗レイアウトの最適化に役立てることができるでしょう。
農業におけるIoT
農業分野では、IoT技術を使って作物の健康状態や土壌の状況を監視する取り組みが行われています。
例えば、センサーからのデータを活用して、その時の作物の状態に合わせて、水や肥料の適切な使用量を決定し、収穫量を最大化しつつリソースを効率化することが可能です。
益々高齢化が進み、作業の効率化が求められる農業において、IoT技術とAI、ドローン技術などの最新テクノロジーを組み合わせてアグリテックを実現することができれば、後継者不足に悩まされる日本の農業であっても大きな成長が期待できます。
IoTプロジェクトの計画と実装のステップ
IoTプロジェクトの計画と実装には複雑な手順が必要となりますが、ここではその基本となる大まかな流れを紹介します。
これらのステップに従うことで、中小企業はIoT技術を効果的に導入し、ビジネスの効率化と競争力の向上を実現することができます。
ベストプラクティスを参考にしたうえで、自社の実情に合わせたカスタマイズを行うことが、IoT実装を成功へと導く第一歩となるでしょう。
ステップ1:明確な目標の設定
IoTプロジェクトの目的と目標を明確に定義します。
この段階で、期待される成果とビジネスへの影響をしっかりと「数値」で理解し、誰にでも分かるように「見える化」しておくことが重要です。
ステップ2:適切な技術の選定
プロジェクトの目的に合ったIoTデバイスやセンサーを選定します。
- デバイスの種類
- 性能
- コスト
- 互換性
これらの要素を考慮して、最適なハードウェアを選びます。
ステップ3:ソフトウェアとの統合
IoTデバイスを統合するためのソフトウェアプラットフォームを選定し、既存のITシステムとの互換性を確認します。
そのうえで、データ収集、分析、管理のためのソフトウェアソリューションを検討します。
ステップ4:ネットワークと接続性
IoTデバイスの接続性とネットワークの安定性を確保します。
- Wi-Fi
- Bluetooth
- セルラーネットワーク
など、適切な通信プロトコルはケースバイケースで異なります。
自社のコストや環境に合わせて、ベストな選択肢を選ばなければ、効果的なIoT運用は望むべくもありません。
ステップ5:セキュリティ対策
IoTデバイスとデータのセキュリティ対策を計画します。
セキュリティ対策にあたっては、データの暗号化、アクセス管理、セキュリティアップデートの確実な実施が必要です。
ステップ6:従業員のトレーニング
IoT技術の導入に伴い、従業員に対して適切なトレーニングを提供します。
これには、新しい技術の使用方法、データ分析のスキル、セキュリティ対策などの要素が含まれています。関係者が適切にその使用方法を理解しているだけでなく、「なぜIoTを導入するのか」といった「意義」や「メリット」も理解しておくことは重要なポイントです。
そのためにも、従業員のトレーニングには十分な時間を割くようにし、そのための費用面・日程面のコストもあらかじめ見積もっておくようにしましょう。
ステップ7:テストプロジェクトの実施
システムが組み上がったら、まずは小規模なテストプロジェクトを実施して、実際の運用環境でのデバイスのパフォーマンスやシステムの安定性を評価します。
この時重要なポイントは、テストとはいえ本番を想定した実践的な運用をおこなってみることです。
ステップ8:フィードバックと改善
テストプロジェクトから得られたフィードバックをもとに、システムの改善や最適化を行います。
これには、実際のデータから得られたフィードバックの他に、実際に作業にあたった従業員などからの使用感に関するフィードバックなども含まれます。
これらをもとに、改善点があれば即座に改善し、場合によっては一部システムを置き換えるなどの対策を取る必要もあるでしょう。
ステップ9:本格的な展開
以上の手順を踏まえて、IoTプロジェクトを本格的に展開します。
ただし、実際に展開したあとも継続的なモニタリングとメンテナンスは欠かすことなく行い、必要に応じて改善や修正を繰り返すことで、プロジェクトの成功を確実にすることが重要です。
まとめ~中小企業の成功に向けたIoTの力
IoT技術は、中小企業がDX推進に取り組む重要な鍵です。
IoT技術を取り入れることにより、中小企業においても様々なメリットを享受することができるでしょう。
- 運営・業務の効率化
- 顧客体験の向上
- 新しいビジネス機会の発見
IoTを通じてリアルタイムデータの収集と分析が可能になることで、企業はこれらの様々な価値を生み出すことができます。市場の変化に迅速に対応し、顧客の要望に合わせたサービスを提供することは、持続可能な企業を運営するためにも必須の戦略でしょう。
いまだIoT技術の実装に二の足を踏んでいる企業でも、この機会にぜひ取り組みを検討してみてください。
次回、後編ではセキュリティとプライバシーへの配慮を行いながら、適切にIoTを導入することで、中小企業がより強固な市場競争力を築くための戦略ついて考えてまいります。ご期待ください。