最新のハイブリッドクラウド戦略

最新のハイブリッドクラウド戦略では、DXの加速を目的とした新技術の導入が進んでいます。DX先進国の企業などでは、ハイブリッドクラウドの利点を最大限に引き出し、DXの推進を効果的に進めている企業が少なくありません。
本章では、最新のハイブリッドクラウド戦略について解説します。
クラウドネイティブアプリケーションの導入
DXを進める上で、クラウドネイティブアプリケーションという新しいタイプのアプリが注目されています。
従来のアプリは、パソコンなどの特定の機器の中だけで動作するように作られていました。そのため、導入や更新に時間や手間がかかり、柔軟性に欠けるという課題がありました。
一方、クラウドネイティブアプリは、インターネット上のクラウド環境で動作するように設計されています。そのため、従来のアプリに比べて、導入や更新が容易で、柔軟性や拡張性にも優れています。
クラウドネイティブアプリは、複数の小さなプログラムを組み合わせるマイクロサービスという設計手法や、アプリを動かすために必要な環境をパッケージ化するコンテナ技術を使って作られることが多く、これにより、開発者はアプリを迅速に導入し、頻繁に更新することができるのです。
この設計アプローチにより、企業は変化の激しい市場に迅速に対応し、DXを支援するための新しいサービスやアプリケーションを柔軟に展開できるようになります。
AIとビッグデータの統合
ハイブリッドクラウド環境では、AIとビッグデータの統合がますます進んでいます。この統合により、企業は膨大なデータセットをリアルタイムで処理し、迅速かつ的確なインサイトを得ることが可能になります。
AIが、クラウドに保存されたビッグデータを分析し、パターンを見つけ出して予測を行うことで、意思決定の質を向上させるのです。
ハイブリッドクラウド環境でのAIとビッグデータの統合は、企業にとって高度な分析能力と柔軟な対応力を提供し、DXを大きく加速させる重要な要素となっています。
エッジコンピューティングとの連携
エッジコンピューティングとは、データ処理を中央のクラウドではなく、データ生成の近く、つまり「エッジ(端)」で行う技術です。
この技術を用いると、データをローカルで処理できるため、クラウドとの送受信にかかる遅延がなくなり、瞬時にデータ分析が可能になります。データの送受信にかかるタイムロスを最小化することで、ミリ単位での迅速な対応が求められるようなトラブル発生時などの際に、ノータイムで即座に対応できるようになるのです。
例えば、自動運転車では、車載センサーから得られた大量のデータをリアルタイムで処理する必要があり、このような場合に、エッジコンピューティングを活用することで、遅延なくデータを処理し、安全な自動運転を実現することができます。
また、エッジコンピューティングは、ハイブリッドクラウドと組み合わせることで、より強固なセキュリティ対策とコストの最適化を実現できます。
具体的には、全てのデータを中央のクラウドに送信するのではなく、エッジで処理することで、クラウドへのデータ送信量を減らすことができます。これにより、万が一、クラウドがサイバー攻撃を受けた場合でも、エッジで処理されたデータは保護されるため、情報漏えいのリスクを低減できるのです。
さらに、コストの最適化については、データをエッジで処理することで、クラウドに送信するデータ量を減らすことができます。これにより、クラウドの利用料金を削減できるだけでなく、エッジデバイスにデータ処理を分散させることで、クラウドの負荷を軽減し、システム全体のパフォーマンスを向上させることも可能です。
さらに、エッジコンピューティングは、ハイブリッドクラウドの柔軟性をさらに高めることができます。
例えば、通常時はエッジデバイスでデータを処理し、必要に応じてクラウドにデータを送信することで、システム全体の負荷を調整できるなど、エッジコンピューティングとハイブリッドクラウドは、相互に補完し合うことで、より高度なDXを実現できるのです。
ハイブリッドクラウドの実践例

本章では、ハイブリッドクラウドを効果的に活用している企業について、2つの実践例を紹介します。
製造業|シーメンスのハイブリッドクラウド活用による生産効率向上
ドイツの電機メーカー「シーメンス」は、ハイブリッドクラウドを活用して、生産効率を大幅に向上させています。
シーメンスは、オンプレミスのプライベートクラウドでセキュアにデータを管理しつつ、パブリッククラウドのスケーラビリティを利用して、IoTデバイスからのデータをリアルタイムで分析しています。
これにより、異常検知や予知保全のプロセスが効率化され、ダウンタイム(機械や設備の停止時間)の短縮と生産ラインの最適化が実現しました。
シーメンスのハイブリッドクラウド戦略は、データセキュリティを維持しながら、柔軟なリソース配分を可能にし、競争力の高い製造環境を提供する実践例です。
金融業|ゴールドマン・サックスのハイブリッドクラウド活用によるデータ分析
アメリカの大手投資銀行「ゴールドマン・サックス」は、ハイブリッドクラウドを利用して、金融データのリアルタイム分析を行っています。
ゴールドマン・サックスは、機密性の高い取引データをプライベートクラウドで保護しつつ、パブリッククラウドの計算能力を活用して大量の市場データを迅速に処理しました。
このアプローチにより、マーケットの変動に即応した意思決定が可能となり、リスク管理の精度が向上したのです。
ハイブリッドクラウドを活用することで、セキュリティと柔軟性の両立を図り、ゴールドマン・サックスは金融市場におけるリーダーシップを維持しています。
まとめ~DXとハイブリッドクラウドの未来
ハイブリッドクラウドは、DXを推進するための最も重要かつ柔軟なインフラの一つです。今後、企業にとってますます不可欠な存在になっていくでしょう。
パブリッククラウドの拡張性とプライベートクラウドのセキュリティを組み合わせられることは、ビジネスの競争力を高めるうえで大きな魅力です。オンプレミス環境で蓄積したデータを試算として有効活用しつつ、最新のAIなどとの相性が良いクラウドのメリットを生かしていくことができれば、DXを一気に加速させることができます。
ハイブリッドクラウド戦略を導入したうえで、最新の技術トレンドを取り入れながら柔軟に戦略を見直すことが、DXの成功の鍵となるでしょう。