目次
医療DXの課題
医療DXは医療サービスの質の向上や効率化に大きな可能性を秘めていますが、その実現には克服すべき重要な課題が存在します。
本章では、医療DXを推進する上で特に注意を払うべき3つの主要な課題について解説します。
セキュリティ対策
医療情報は極めて機微な個人情報であり、高度なセキュリティ対策が必要不可欠です。しかし、現状には課題も残されています。例えば、2022年10月に大阪府立病院機構でランサムウェア攻撃により電子カルテが使用不能になる事件が発生しました。。
セキュリティの課題に対応するため、厚生労働省は以下のような取り組みを行っています。
- 医療機関向けのサイバーセキュリティ対策研修の実施
- 医療分野におけるサイバーセキュリティに関する情報共有体制(ISAC)の構築
- 診療録管理体制加算の要件に、非常時に備えた医療情報システムのバックアップ体制の確保を追加
プライバシー保護
医療情報の共有・活用を進める一方で、患者のプライバシーを適切に保護することも重要な課題です。
全国医療情報プラットフォームの構築にあたっては、以下の点に特に注意を払う必要があるでしょう。
- 患者が自身の情報をコントロールできる仕組みの整備
- 情報へのアクセス権限の厳格な管理
これらの措置により、患者の個人情報を守りつつ、必要な医療情報の共有・活用を実現することが求められています。
システム導入・運用コスト
医療DXの推進には、システムの導入や運用に多額のコストがかかります。特に中小規模の医療機関にとっては、この財政的負担が大きな障壁となる可能性があります。
政府は以下のような支援策を検討していますが、さらなる充実が求められています。
- 補助金制度の拡充
- クラウドベースの標準的な電子カルテシステムの開発・提供
今後は、医療機関の規模や特性に応じたきめ細かな支援策を展開し、全ての医療機関がDXの恩恵を受けられる環境を整備することが重要です。
医療DX今後の展望
医療DXは着実に進展しており、今後さらなる発展が期待されています。
本章では、医療DXの未来を形作る3つの重要な取り組みについて見ていきます。これらが実現すれば、医療サービスの質と効率性が大きく向上するでしょう。
診療報酬改定DX
診療報酬の改定作業を効率化し、医療機関やシステムベンダーの負担を軽減するため、「診療報酬改定DX」の取り組みが進められています。
この取り組みによって含まれる、具体的な施策は以下の通りです。
- 各ベンダー共通で利用できる「共通算定モジュール」の開発
- 診療報酬改定の施行時期の見直し
これらの施策により、診療報酬改定に伴う作業負荷が軽減され、医療機関がより患者ケアに注力できる環境が整備されることが期待されます。
AI・ビッグデータの活用
全国医療情報プラットフォームに蓄積される膨大な医療データは、AI技術と組み合わせることで、医療の質を飛躍的に向上させる可能性を秘めています。
具体的な活用例は以下の通りです。
- 新たな医療技術の開発
- より効果的な治療法の確立
- AIによる画像診断支援
- 個人のゲノム情報に基づくオーダーメイド医療の実現
これらの技術革新により、より精密で個別化された医療サービスの提供が可能になると考えられています。
PHRの推進
患者自身が自らの健康・医療情報を管理し、活用するPHR(Personal Health Record)の取り組みも進められています。この取り組みに含まれる要素は以下の通りです。
- マイナポータルを通じた自身の健康・医療情報の閲覧
- 民間のPHRサービスとの連携
PHRの推進により、個人の健康管理や疾病予防の取り組みが促進されることが期待されるでしょう。
自身の健康データを常時把握し、適切な健康管理を行うことで、国民全体の健康増進につながる可能性があります。
まとめ~医療DXが拓く、患者中心の未来の医療
健康保険証のデジタル化を皮切りに、日本の医療システムは大きな変革の時期を迎えています。
マイナ保険証への一本化では様々な課題が指摘されているものの、全国医療情報プラットフォームの構築や電子カルテ情報の標準化が進めば、患者中心の継続的かつ一貫した医療サービスの提供が可能になるでしょう。
また、蓄積された医療データの分析により、より効果的な健康増進策や疾病予防策の立案が可能となり、国民の健康寿命の延伸にもつながることが期待されます。
さらに、医療費の適正化や医療資源の効率的な配分にも寄与し、持続可能な医療保険制度の実現に貢献するでしょう。
一方で、セキュリティやプライバシー保護、コスト面での課題も存在します。これらの課題に適切に対応しながら、医療DXを着実に推進していくことが求められます。
医療DXは、単なる技術革新ではありません。それは、患者、医療提供者、保険者、そして社会全体が一体となって、より良い医療システムを創造していく過程です。
私たち一人ひとりが医療DXの意義を理解し、積極的に関与していくことが、未来の医療保険制度を形作る鍵となるのです。