日本において女性がより一層社会で活躍するには、DXの推進が大きなカギとなります。
「女性とDX」と題してお送りする本特集の前編では、女性を取り巻く日本の現状と課題について解説してまいりました。
後編となる本記事では、その課題を乗り越えて、女性の活躍を後押しする「社会・企業・家庭」という3つの分野にまつわるDX施策をご紹介します。
企業のDXや人事担当者の方は、前編と合わせて参考にしていただき、「女性も働きやすい環境の整備」に取り組むことで企業の力を高める一助としてください。
目次
日本における女性の社会進出を後押しする3つのDX
日本社会で全ての女性が思う存分活躍するためには、3つの分野のDXを推進させ、環境を整えることが必須条件です。
- 社会のDX
- 企業のDX
- 家庭のDX
この3分野のDXをバランスよく推進させることで、これまでのように「仕事か家庭か」という理不尽なニ択を迫られることなく、女性が活躍できる環境を作ることが可能になります。
それぞれの施策について、現在進められている具体例を取り上げながらご紹介していきましょう。
社会のDX
社会のDXとは、女性が社会で活躍するうえで求められる法制度の整備や、それを実現するための仕組みのデジタル化や運用を指します。
社会的なDX推進の取り組みとして、考えられる施策とその具体例は次のとおりです。
行政による後押し
国や地方自治体など、行政が率先して女性活躍を推進することは、女性が仕事や家庭でそれぞれの能力を発揮することを後押しし、企業の取り組みを援助することにも繋がります。
一企業、一個人では対応が難しいことでも、行政が率先して制度改革やデジタル化に取り組むことで、社会構造の抜本的な改革に繋がっていくでしょう。
例えば、栃木県の小山市役所では、女性活躍のために管理職の増員とDX推進に取り組んでいます。
DX推進としては、個人情報を取り扱う業務を除く資料作成などの業務をテレワークで実施したり、オンラインで開催される国の会議や学会に出席する際もリモートワークを認めたりといった、いくつかの取り組みを行うことで、これまでは必ず役所で行う必要があった行政の仕事をどこでも仕事ができる体制へと移行しています。
テレワーク等のDX推進が加速したことで、多くの女性が抱える育児や親の介護といった家庭の問題とバランスを取りながら勤務しやすくなりました。
小山市役所は、これまでも他の役所と比較して女性管理職人材が多くいましたが、家庭の問題で女性管理職の離職率が増加したコロナ禍においても、女性管理職人材の維持を果たしています。
こうした事例からも分かるように、高度なセキュリティ対策などが求められる市役所などであっても、DX推進を行うことで多様な生活スタイルにあった働き方を実現することができるのです。
行政自らが率先して女性活躍やそれを後押しするDX推進を行なうことは、民間企業が取り組む際のロールモデルを示すという意味でも非常に重要なことです。
女性活躍推進法による取り組み
女性がどれだけ社会の重要なポジションで働きたいと思っても、企業や行政の仕組みがそれを受け入れる体制を持っていなければ、その実現は困難です。
こうした状況を改善するためには、前編でご紹介した男女共同参加社会基本法のように、国が法令などで企業や個人に対して仕組みを「義務付ける」ことが必要な場合もあるでしょう。
国として理念や権利、義務を明確にすることにより、これまでの歴史の中で蓄積されてきた制度的差別や偏見を根本から転換できる可能性があります。
DXを推進するためには時に企業理念そのものから変革を求められる場合がありますが、こうした構造的差別を根本から解消しようとする取り組みは、いわば「国」という組織の理念を考え直す行為です。
国の理念が変わったり、今まで曖昧であった部分が明確化されれば、当然ながらその影響はこれまでの社会で主流だったビジネスモデルの変革にも繋がるでしょう。
例えば、女性活躍を推進するための法律「女性活躍推進法」では、労働者数が101人以上の事業主に対して、女性活躍のための行動計画を策定・公表するよう義務付けています。
国として「女性活躍を推進する」という理念が明確に打ち出され、そのためのステップが示されることにより、各企業は女性活躍のためのプランを検討しなければなりません。
こうした取り組みが積み重なることで、日本全体としての女性活躍における関心・取り組みを高められることが期待されるのです。
表彰・認証制度
これまでの社会構造を変革し、女性が活躍できる社会を実現するためには、法令などの義務化による後押しも必要ですが、やはり企業自らが率先して女性の管理職を増やすなど女性活躍推進の意識を持ち、企業理念を含めた自社のあり方を変えていこうとする姿勢が何より求められます。
こうした動きを拡大していくためには、表彰や認証制度などを制定し、企業が率先して自社の制度改革を進めるように促すことも、行政が行うべき女性活躍を後押しする施策の一環といってよいでしょう。
例えば、以下に紹介するような表彰や認証制度などの仕組みは、企業の自主的な取り組みを後押しすることが期待できます。
- えるぼし認定:女性活躍推進法に基づき、女性活躍のための行動計画を策定・公表した事業主のうち、厚生労働省に申請を行った優良な事業者は、厚生労働大臣が認定を与える。
- くるみん認定:次世代育成支援対策推進法に基づき、常時雇用する労働者が101人以上の事業者については、労働者の仕事と子育てに関する「一般事業主行動計画」を策定し、都道府県の労働局へ届出することを義務化。予め定めた行動計画の目標を達成したなどの一定基準を満たした事業者へ厚生労働大臣が認定を与える。
- なでしこ銘柄:経済産業省と東京証券取引所が共同で実施し、上場企業のうち女性活躍推進に優れた上場企業を認証する。多くの場合、テレワークの導入やオンライン会議の実施といった施策を進めることで、女性の活躍の場を整え、自社の業務効率化やビジネスモデルの変革に取り組んでいることが認定条件となる。
中でも、「なでしこ銘柄」はDX推進により女性が働きやすい環境作りを進めていることが認定条件になっており、デジタル技術などを用いて社会をDXすることにより、女性の活躍を広げていくという方針がよりわかりやすく示されています。
社会のDXは、女性が活躍する場を作るということに限らず、日本がDX先進国になっていくために不可欠な取り組みです。
その流れの中に、国や地方自治体が「女性活躍」を一つの重要な目標として提示して様々な施策を講じていけば、社会のDXの推進に伴って、女性がそれぞれの能力を活かして活躍できる社会の実現への歩みも進んでいくと考えられます。
企業のDX
女性活躍における企業のDX推進とは、各企業がDXにより社内における制度や業務の運用の見直しなどを行うことで、女性が働きやすい職場環境を整えていくことを指しています。
企業で取り組むことが可能な女性活躍に向けた施策としては、次のようなものが考えられるでしょう。
コーポレートガバナンス・コードによる取り組み
東京証券取引所(東証)では、上場企業に対して実効的なコーポレートガバナンスの実現に資する主要な原則をまとめた、「コーポレートガバナンス・コード」を定めています。
その中では、「女性・外国人・中途採用者の管理職への登用等の多様性の確保の考え方、目標、状況」を公表すべきとされており、女性管理職登用に関する情報開示が求められています。
また、もし実施しないものがあれば、その理由を説明することが求められるなど、上場企業であるための義務として女性管理職の登用が示されているのです。
現時点においては、こうした仕組みは上場企業のみを対象に導入されていますが、社会のスタンダードになっていく可能性が高いでしょう。
そのため、中小企業においても、ガバナンス・コードで定められた原則を念頭に、可能な範囲から取り組みを開始していくことが重要です。
定められたガバナンス・コードに取り組むことは、「外からの押し付け」「義務」などとマイナスに受け止めてしまいがちかもしれません。
しかし、多様な視点を持つ人材が働きやすい環境であることは、企業にとってもメリットがあります。
こうした変革にいち早く取り組むことは、企業の中長期的な成長を考えても重要な施策です。
テレワーク推進
現在、働きながら子育てをする多くの女性が直面する課題として、急な子供の体調不良などのアクシデントに見舞われて出社ができなくなることが挙げられます。
そんな時に、いつでもどこでも勤務可能なテレワークの環境があれば、子どもの面倒を見ながら自宅で仕事を行なうことも可能になります。
テレワークの導入は女性のみならず、全社員の働きやすさにもつながるため、会社の業務効率化にも繋がるのです。
業務の可視化と効率化
テレワークを導入していても子どもの体調不良などが発生した時には、どうしても急に休んだり早退する必要が生じる場合があります。
こうしたケースにおいて、スムーズにチーム内で仕事を引き継ぐことができないと、「子育て中の女性には大切な仕事は任せられない」という旧態依然な考え方を改善していくことはできません。
しかし、いくら同僚が代わりに仕事をしようとしても、業務の可視化ができていなければ対応することは難しいでしょう。
こうした突発的なトラブルに対応するためには、業務管理ツールを導入するなどして、日頃から担当業務の可視化と業務効率化を実現させておく必要があります。
テレワークの導入と業務の可視化は、女性が活躍する場を広げるだけでなく、近年の多様化する働き方に対する企業の業務モデルとしても、社会的に求められる重要な施策なのです。
家庭のDX
家庭のDXとは、働く女性自身が生活の中で利用できる、様々な施策のことを指しています。
子育てや介護中であっても仕事を続けたいと考える女性やその家族が、様々なDX施策を積極的に家庭に取り入れたり、サービスを利用したりすることで、日々の家事などを効率化したり、負担を軽減したりすることができます。
家庭が積極的に新しいDX施策を活用していけば、家庭向けのDXはさらに広がっていくでしょう。
こうしたツールやサービスを上手に利用することで、これまで家事のために取られていた時間を最小化し、働く時間を確保することに繋がっていくはずです。
子育て支援DXの利用
学校や託児施設、病院、役所などで始まっている様々なDX施策を積極的に利活用していくことは、働きながら子育てをする家族にとって有益な家庭のDXの一例です。
例えば、子どもの体調不良時や予防接種の際などに利用することが多い医療機関も、DX推進に取り組んでいます。
受診予約システムを利用すれば予め予約が取れますし、問診を事前に済ませることが可能です。
こうしたシステムを利用すれば、医療機関で長時間待たずして受診することもできますので、仕事への影響は最低限に抑えることができるでしょう。
また、学校やPTA活動においても、家庭に配布する連絡書類などを従来の紙からメールやアプリを利用したシステム配信などが始まっています。
保護者が記入しなければならない書類などもオンラインで回答できる仕組みが整えられれば、通勤時間などを有効活用できるようになるでしょう。
少しずつではありますが、こうした取り組みは確実に広がっています。
自分自身や家族の負担を軽減できるDX施策にアンテナを張って利活用していくことが、子育て中の女性の社会進出には欠かせません。
AI家電
近年、洗濯機やロボット掃除機、エアコン、調理機器など、AIが搭載された家電機器が数多く販売されています。
これらの家電機器は、外出先からスマホアプリなどで操作をすることも可能で、家事の効率化に貢献してくれます。
また、自宅に不在時にはスマートフォンと連動させた監視カメラを利用するなどすれば、防犯と子どもの安全確認が同時に行えるでしょう。
仕事や育児などで忙しくても家事を自動化したり、安全確保のためのDX施策を利用することで、労力削減を図ると同時に仕事へ向き合う時間を確保することができるのです。
テイクアウト&デリバリー、ECサイト定期便
ひと昔前までは、出前といえば電話をかけて料理を注文する形式が主流でしたが、近年では、テイクアウトやデリバリー専門のサービス、ECサイトを通じた食料の定期便サービスが普及しており、利用者も多く存在します。
こうした流通網のDXは、人々の生活を便利にするだけでなく、女性の社会進出を後押ししてくれる重要な選択肢となるはずです。
また、女性の活躍の場が増えていけば、このようなサービスの需要も益々増加していくと予想されますので、選択肢が広がりさらに利用しやすくなっていくことでしょう。
このような流通網のDX推進によるサービスの利用拡大は、日本全体の雇用拡大の施策としても期待ができます。
まとめ:女性の活躍には3つのDX施策のバランスがカギ
日本における女性の社会進出の現状と、活躍するために解決しなければならない課題について解説し、それを解決するカギとなる社会・企業・家庭における3つのDXについて解説しました。
日本で女性の社会活躍が進んでいない現状は、日本がDX後進国に甘んじていることと無関係ではありません。
女性が活き活きと仕事に取り組める人生を送るためには、社会・企業・家庭それぞれの場におけるDX推進が必須です。
しかし、国だけが躍起になって「女性活躍」の目標を掲げても、企業だけが社内の仕組みを変えても、あるいは働きたい女性だけが声を上げても、真に女性が活躍する場の整備には繋がらないでしょう。
3つのDX施策はすべてがバランス良く成立することで、はじめて効果を発揮するのです。
「女性の活躍」を考える上で重要なのは、これが単に「女性のため」だけの施策ではないという視点を持つことでしょう。
子育てや介護など、これまで女性の役割とされてきた「家庭」のために発揮できなかった女性の能力が「社会」に還元されるようになれば、企業や日本全体にとっても有益です。
また、多様な働き方が可能な状況を実現することは、これまで子育てや介護などの家庭の事情、障がい、ジェンダーやセクシュアリティなど様々な理由により「都市部にあるオフィスへの通勤」や「毎日同じ時間の労働」が難しかった人たちが、活躍できる状況を作り出せるということです。
こうした旧態依然な労働モデルから零れ落ちてしまったがために、発揮されなかった才能や能力を活かせる社会を作るための一歩が「女性活躍」なのではないでしょうか。
前後編2回の連載を改めてご一読いただき、貴社においても現状の課題を把握した上で、まずはできる所からDX推進による仕組みづくりに取り組んでみてください。