社員の能力向上やマインドの醸成、企業理解の促進などに欠かせない社員教育。
多くの企業が、毎年何らかのテーマを掲げた社員教育を行なってきたのではないでしょうか。ところが、近年ではコロナ禍の影響により従来の対面形式での社員教育の実施が困難になりました。
しかし、対面形式による実施が困難になろうと、社員教育を疎かにすることは企業にとって得策ではありません。そこで注目したいのが、DX(デジタルトランスフォーメーション/以下:DX)による非対面型の社員教育の取り組みです。
今回は、DX推進の一環として、オンライン上で社員教育を実施する方法や課題、具体的な事例について解説します。
本記事を通じて、オンラインでの効果的な社員教育の実施方法について理解を深め、貴社の人事戦略の一環としてぜひ取り入れてみてください。
目次
変化を余儀なくされる社員教育の形
社員教育には、主に新入社員や中途入社社員を対象とした入社時の研修、業務能力向上やマインド形成に関する社内研修などがあります。
従来であればこれらの社員教育を実施する場合は、対象者を集めた「集合研修」形式で実施するのが一般的でした。
しかし、近年のコロナ禍の影響で感染症対策として対面研修の実施が困難になったため、企業は「新しい社員教育の形」へ変化を余儀なくされたのです。
パーソナル総合研究所が2021年7月5日に公表した調査結果(調査対象企業969社)によると、2020年の1年間でオンライン集合研修を増やした企業は75.0%であったという結果が出ています。
従業員数が100名以上300名未満の中小企業でも61.0%がオンライン集合研修を実施していることから、オンライン集合研修は研修対象者が多い大手企業だけではなく、研修の規模が比較的小さい企業であっても実施の必要に迫られたことがわかります。
コロナ禍に関わらず加速したテレワーク
社員教育のオンライン化が進んだ背景には、コロナ禍があることは間違いありません。
一方、コロナ禍の影響だけでなく以前より政府主導で進められてきた「テレワークの導入」による働き方改革も、研修のオンライン化を後押しした要因の一つです。
経済産業省はかねてから「DX推進のためにはテレワークの導入が欠かせない」と訴えていました。それを受けて日本中で多くの企業がテレワークの導入を進めており、それがコロナ禍で一気に広まったといえます。
整備されたテレワークのシステムがあればオンラインで社員教育を行なうことは飛躍的に容易になります。オンラインで研修を行う企業が増加した背景には、コロナ禍による外圧に加えて、利便性の高いオンラインツールを活用して研修を行える環境を整えられた企業が増加した影響もあるのです。
オンライン社員教育の導入を検討中の企業においては、研修の中身などについて議論を始める前にまずはテレワークの環境整備から始め、そのうえで社員教育のオンライン化を行なう必要があるでしょう。
いま求められている社員教育のDXとは
オンライン社員研修は、場所の制約を取り払い非対面で行なう事が出来るためコロナ禍での社員教育手段としてはまさに最適でした。
オンライン化のメリットは感染症対策として有効なだけでなく、動画による研修やeラーニング、Webテスト等のツールを利活用することによる研修業務の効率化を行いながら、社員の知識向上に繋がる研修を実施することが可能になるなど多岐にわたります。
以下、DX推進策における社員教育のデジタル化のポイントについて解説します。
オンラインの活用
非対面型の社員教育を最大限に効果的なものにするためには、全ての工程においてオンラインであることのメリットを有効活用しなければなりません。
例えば、ライブ形式でオンライン研修を行う場合においてはチャットツールや録画の併用などが有効です。
チャットツールを導入すれば講義の流れを遮ることなく質問を受け付けることができます。また、録画した研修動画を受講者に配布すれば必要に応じて後日視聴が可能になったりと、オンラインツールを利用することによってこれまでにはない形の研修を実施できるようになるのです。
社員教育のDX推進において最も大切なことは、単に「これまで実施してきた集合研修形式の社員教育をそのままオンライン化する」と考えるのではなく、「従来実施してきた社員教育における各工程を分解した上で、オンラインツールの特徴を活かして再構築する」という考え方です。
オンライン研修のメリット・デメリット
社員教育のDXを進めるためには、オンライン研修のメリット・デメリットを理解することも大切です。
メリット
- 時間や場所を選ばずに社員教育が実施できる
- チャットなどオンラインツールの強みを生かすことで、これまでの対面研修では実現できなかったスムーズで効率的な進行が可能
- システム上での受講管理が可能となるため、受講者が多数の場合でも企業側のコスト削減に繋がる
デメリット
- 講師・受講者共に研修全体の雰囲気が掴みにくい
- 双方の「現場の熱」が伝わりづらくモチベーションの維持が難しい
- 実技の研修は行いづらい
オンライン研修の成果を引き出すeラーニング
eラーニングとは、社員にオンラインで研修コンテンツを受講させるためのツールです。
eラーニングを導入すれば、受講者のレベルに合わせた教育や理解度確認テストの実施など、オンライン研修の成果を最大限に発揮することができます。
また、受講者の管理や未受講者への受講促進連絡を一括操作で行なえるなど、受講対象者が多い場合でも管理者側のコストを最小限に抑えることが可能です。
社員教育DX推進における検討項目
社員教育のDX推進を行なうにあたって検討すべき項目には、次のようなものがあります。
各企業の規模や行いたい研修内容に合わせて、比較検討を行うことが重要です。
サービスの導入形式
社員教育に関するサービスの導入形式には、オンプレミス型とクラウド型の2つがあり、それぞれ次のようなメリット・デメリットがあります。
どちらかの方が優れているというものではないので、各企業の求めるDX推進策と照らし合わせた上で、どちらの方法が自社に適しているかを検討すると良いでしょう。
オンプレミス型
自社内のインターネット環境上にシステムを構築し利用する形式です。
既存の自社システムとの連携が容易で、システム構築の自由度が高いというメリットがある反面、自社で全ての管理・運用を行なわなければならず費用が高額になりがちです。また、障害発生時には基本的に全て企業側で対応しなければならない点にも留意が必要です。
クラウド型
ベンダー等が提供するサービスを利用する形式です。
ベンダー側で既にサービス構築が行なわれていることから、月額利用料以外の費用が発生せず、障害発生時の対応もベンダーが行なうため、運用コストがあまりかかりません。
社内に専門のエンジニア等が在籍していない中小企業が導入する形式としては非常に優れたメリットがある反面、既存の自社システムとの連携など、構築の自由度は制限されてしまいます。
費用
DXを効率よく進めていくためには、まずはデジタル化したい業務をすべてリストアップし、そのために必要なツールを導入した際の費用の全体像を把握する事が最初のステップです。
費用の総額をしっかりと把握した上で、各ツールの導入によってどの程度の成果が予想されるのかを慎重に見極めて、費用対効果を算出します。
予算的に全ての機能を同時に導入することが難しい場合には、まずは一部機能に限って導入し段階的に機能を拡充していくのも良いでしょう。また、教育対象が大人数の場合には、ボリュームディスカウントを利用する等、いくつかのコスト削減策を併せて検討するのもおすすめです。
教材作成
従来の研修内容をそのままオンラインで実施するだけでは、十分な成果を得ることは困難です。オンラインツールの特性を踏まえた教材を作成することが望まれます。
社員教育のコンテンツの作成に当たっては、そもそも適切な教材を社内で作成可能かを検討してください。
コンテンツ作成が可能な場合には、eラーニング用教材やテスト作成等を簡単に行なえる機能を兼ね備えた操作性の良いサービスを利用することがポイントです。
また、自社によるコンテンツ作成が難しい場合には、サービスを選ぶ際に「ベンダー側が基本フォーマットを用意している」など「効率良くコンテンツ作成が行なえるサービスであるか」を判断基準の1つにすると良いでしょう。
ネットワーク負荷を考慮した研修実施分散化
オンライン研修の実施において注意すべき点として挙げられるのがネットワークの負荷です。特に、対象人数が多い研修の際、全員参加で研修を実施してしまうとネットワークに過度な負荷がかかり、回線そのものがダウンしてしまうことも懸念されます。どれだけ効果的な研修メニューを用意したところで、これでは本末転倒です。
ネットワーク負荷を考慮し、懸念がある場合はあらかじめ研修対象者をグルーピングして研修実施日程や時間を分散する、あるいはリアルタイムの研修と動画視聴による研修を併用するなどの対策も考慮すると良いでしょう。