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テスラ・モーターズの体現するDX
マスク氏が手がける事業として最も有名なのは、何といってもテスラ社のEV(Electric Vehicle:電気自動車/以下:EV)事業です。
時価総額でも約1.2兆ドル(約137兆円)と世界の自動車メーカーではぶっちぎりのトップをひた走って(2位トヨタの4倍、3位フォルクスワーゲンブループの10倍)います。
テスラ社の創業当時からのテーマは「テクノロジー企業の側面を持つ自動車製造企業」。
その中核となるのは「バッテリー」「ソフトウェア」「独自のモーター」です。
これらの開発にあたってマスク氏が取った行動は、従来の業界常識に捕われないイノベーションを起こし続けるテスラ社の根幹を支えています
既存技術を使って新しい価値を生み出す
EV開発において、従来の自動車会社は大きくて高性能な専用バッテリーを独自開発しようと苦心してきました。
しかしテスラ社では、ノートPCに用いられているリチウムイオン電池を利用しています。
リチウムイオン電池は自動車専用に開発された各社のバッテリーから比べれば、遥かに性能は劣るものです。
その代わり既に大量に実用化され性能も保証されたものであることは確か。
テスラ社ではこのリチウム電池を約7,000個もパッケージ化して、あたかも1個の大きなバッテリーとして扱い、車体下部にバッテリーを敷き詰める基本設計を生み出しました。
このアイデア自体はテスラの共同経営者だったマーチン・エバーハード氏が生み出したアイデアですが、マスク氏はこれを製品化に結びつけテスラ社のEVを世に送り出しています。
巨額の元手があるからといってすべて最新テクノロジーを開発するのではなく、必要があれば既存のテクノロジーも有効活用して開発のコストを抑えスピードを上げる。
こうした柔軟な開発思考こそ、DXによって企業価値を高めるためには必要な考え方です。
DXトレンドを取り入れたソフトウェア開発
マスク氏は新時代の車の心臓部は「動力」ではなく、「コンピュータ」だと考えています。
テスラ社の電気自動車にはタッチパネル式のタブレットが運転席に備え付けられ、まるでスマホと同じように「OTA(Over the Air:無線通信)」でEVとつながり、車載コンピュータのOSを操作できるようになっています。
また、世界中のテスラEVから走行データを収集。常にソフトウェアのアップデートにより車自体が進化していくという、DXでも重要なデータアナリティクスとモバイルを取り入れた独自の技術で業界をリードしました。
現在は限定的にしか実現していないオートパイロットシステムですが、ソフトウェアのアップデートを繰り返し完全自動運転化を見越したハードウェア開発もなされています。
今後の自動車産業が目指すべきCASE*全体をリードする、先進的システムです。
その開発姿勢も保守的な自動車業界では考えられないベストエフォート型を採用。
リコールを恐れ緻密な性能実験を繰り返す業界の常識(ギャランティ型)からすれば信じられない、最低限の安全確認ができた段階で少量台数から販売を開始し、不具合が出れば原因を解明し改善するという、ベストエフォート型の開発手法でPDCAを猛スピードで回しました。
*Connected(コネクティッド)、Autonomous/Automated(自動化)、Shared(シェアリング)、Electric(電動化)といった、これからの自動車産業の動向を象徴する4つのキーワードの頭文字を取った言葉。
DXに求められるマスク氏マインド
自動車業界の革命児であり、時代の寵児でもあるイーロン・マスク氏。
彼のこれまでの経歴を簡単に紹介しながら、テスラ社が行うDXについて解説しました。
- 使えるモノは古い既存の技術であれ取り入れ、コスト削減と開発スピードを最大限に上げる。
- とりあえずやってみて検証・改善を繰り返し、開発と実証を同時進行で行う。
こうしたDXに必要なマインドは、すべてマスク氏の行うテスラ社の開発思想に詰まっています。
目的を達成するために障害となる物があるのであれば、社会構造ですら変えるという意思に加え、細部を見る「アリの目」と全体を俯瞰する「鷹の目」両方を併せ持つマスク氏の思考こそ、中小企業がDXを成功させるために必要なマインドです。
何よりも、経営トップが失敗する覚悟を持つこと。
これこそがDXを成功へ導く重要な条件です。
「たかが失敗だ。失敗なくしてイノベーションは起こせない」
マスク氏が常日頃から口にするこの言葉の意味を噛み締め、覚悟を持ったDX推進への舵取りをどうか意識してみてください。