【ケースで見るDX推進プロセス】IT経営は意識改革から始まる

【ケースで見るDX推進プロセス】IT経営は意識改革から始まる

中小企業の経営者や、IT担当者などが、自社にDX(デジタルトランスフォーメーション)を導入したいと考えた場合でも、なかなか社内の人間にその主旨を理解してもらえず、孤軍奮闘するというケースも少なくないでしょう。

今回は、そんな孤軍奮闘するIT担当者のケースと例に取り、企業にDX(デジタルトランスフォーメーション)を導入する、推進プロセスについて解説したいと思います。

ズバリ、現代のIT経営は、そんなDX(デジタルトランスフォーメーション)に対する社内の意識改革から取り組まなければならないのです。

それは果てしなき茨の道にも思えます。

しかし、その先にこそ新しい価値の創造が待っており、そこからしかたどり着けない未来があるのだと信じて、ぜひじっくりと取り組んでください。

IT経営とは情報の取り扱い

IT経営とは情報の取り扱い

IT経営とひと口に言っても、その捉え方は企業ごとにさまざまです。

それはベンダー企業の担当者に聞いたとしても、ひとことで言い表すことは難しいかもしれません。

しかし、どのような言い方をしたとしても、企業(組織)の経営に情報や情報技術を活かすという本質そのものは変わりません。

よく勘違いされることもありますが、IT経営とは「デジタル技術を使って経営を行う」ことではなく、「戦略に基づいたIT活用による経営変革を行う」ことであり、あくまでも「経営に情報(データ)を活用することで経営変革を実現する」ということです。

それを推進するために、DX(デジタルトランスフォーメーション)を導入するのであって、この部分の理解無くしてDX推進はあり得ないということを、まず前提条件として覚えておいてください。

孤独なDX推進プロセスの例

孤独なDX推進プロセスの例

しかしそうはいっても、そんなことを全社一丸となって行える企業というのは、実はそう多くはありません。

ここでは中小企業が、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するにあたっての、プロセスというものを見ていきましょう。

最初は1人の戦いから始まる

中小企業の経営者、もしくはIT担当者が、自社のDX(デジタルトランスフォーメーション)化が必要だと気づいたとします。

しかし、それを推進しようとアクションを起こしたとしても、社内スタッフの協力を取り付けることは簡単ではありません。

最初はたった1人で始めなければならないケースも少なくはないでしょう。

デジタルファーストへの意識改革

アナログからデジタル、デジタルからDX(デジタルトランスフォーメーション)へのプロセスは、本来たった1人で行えるプロジェクトではありませんし、全社を上げて取り組むべき課題です。

すでに、ある部分はDX(デジタルトランスフォーメーション)が導入され、トップダウンで全社的プロジェクトが発足できる大企業ならともかく、デジタル技術を一部に取り入れただけの中小企業であればなおさらです。

そこで、「なぜDX(デジタルトランスフォーメーション)が必要なのか」を理解させる必要があります。

つまり

  • DX(デジタルトランスフォーメーション)で仕事の効率が良くなり、残業が減る
  • DX(デジタルトランスフォーメーション)で業務フローが改善され、リスクやコストが軽減する
  • DX(デジタルトランスフォーメーション)で新しい価値が創造され、給料が上がる

などの、具体的なメリットを提示しなければなりません。

デジタルが便利なことは分かっていても、まだまだアナログから脱却できない企業体質、社内意識を、DX(デジタルトランスフォーメーション)へとシフトする。

これがまさにデジタルファーストへの意識改革で、担当者がもっとも気を配るべき案件です。

DXプロジェクトの設計図を描く

DXプロジェクトの設計図を描く

企業業務のDX(デジタルトランスフォーメーション)とは言っても、なにも最初から大きなことに取り組む必要はありません。

  • 文書データをデジタル化する
  • 発注を電話やFAXから、PCやスマホアプリからでも簡単にできるようにする
  • 業務フローをクラウド管理して、離れた場所にいても確認できるようにする

などなど、一見DX(デジタルトランスフォーメーション)とはとても言えないような、小さな案件をこなしていくことこそが、社内DX(デジタルフォーメーション)の大きな第一歩です。

そのためには、未来予想図としてのDX(デジタルトランスフォーメーション)設計図を描くことが大切で、プロジェクト初期段階においての山場と言えるでしょう。

DX(デジタルトランスフォーメーション)推進プロセスの設計図を描くポイントは、次の通りです。

業務上の課題の洗い出し

まずは、業務上の課題をピックアップするところから始めると良いでしょう。

これは、必ずしもDX(デジタルトランスフォーメーション)に関わることでなくても構いません。

社内スタッフにアンケートを取ってみるのも良いでしょう。

それこそ

  • お茶くみやコピー取りなど雑用が負担になる
  • 周囲の雰囲気的に定時に帰るのが心苦しい
  • たまった経費精算をまとめるのが面倒くさい

といった、一見DX(デジタルトランスフォーメーション)とはなんら関わりがなく見える、いわば愚痴のような問題点も、すべて吸い上げます。

こうして洗い出した問題点の中から、デジタル化できる業務をピックアップしていきます。

そうすれば先に挙げたように、ペーパーレス化の取り組みから、発注業務の効率化、さらにはクラウドシステムの有効活用など、デジタル化できる課題が見えてくるでしょう。

こうすることで経営上の問題点も同時に洗い出せますので、より戦略的なIT経営の足がかりをつかむことができます

ただし、業務上の課題を見つけることはたしかに重要ですが、取り組みの優先順位を付けることも同様に重要です(このことに関しては、また別の機会に解説します)。

情報(データ)の流れを可視化する

DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、企業(組織)の経営に情報や情報技術を活かすことだと先述しました。

そのために次に行うべきことは、情報の流れを可視化することです。

可視化することで、デジタル化したい課題に優先順位をつけることができ、それを順番に書き出していきます。

この時に大事なのが、「ビジネスで活用できそうなデータはどこに含まれるか」を考えることです。

企業経営に関わる情報が、どこからどう流れ、どうやって業務の効率化や営業活動に活かされているのか。

これをできる限り可視化することによって、DX(デジタルトランスフォーメーション)の効果を誰もが視覚的に理解できるようになります。

ここまでできればDX(デジタルトランスフォーメーション)の設計図としては、ひとまず申し分のないものができたと言えるでしょう。

生産性をあげる業務システム改善を提案

生産性をあげる業務システム改善を提案

続いてできあがった設計図を基に、生産性をあげるための業務システムの改善案を提出します。

これは、売上をあげ収入を増やす「攻めの改善」でも、業務フローの見直しによるコストやロスの削減といった「守りの改善」でもどちらでも構いません。

これらすべてを合わせたものがDX(デジタルトランスフォーメーション)ですので、どこから取り組んでも目指すところさえぶれなければ良いのです。

この段階で大事なのは、自社にとってもっとも優先度から高いことから手を付けることで、さらに言うのであれば、小さなことでも誰でもが効果を想像しやすいものから始めるようにします。

業務がどれだけ効率化されたかを数値化する

こうした業務システムの改善を行ったら、どんなに些細な案件であったとしても、できる限り正確に効果を測定し、数値として把握できるようにします。

IT戦略においてすべての企業活動は、こうしたデータ(情報)を判断基準として行われるべきで、従来型の「経営者の勘」だけに頼った企業経営は、未来へ続く長い企業繁栄のためにはふさわしくありません。

誰もが納得するデータ(情報)を活かすことこそが、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進の根幹なのです。

成功体験を積み重ねる

デジタル化したことによって生まれた成果を、どんな些細なことでも構わないので、1つひとつ積み重ねれば、次第にDX(デジタルトランスフォーメーション)という無形なものに対する社内の意識も変わってくるでしょう。

DX(デジタルトランスフォーメーション)推進に向ける孤独な戦いを制するためには、こうした日々の小さな成功体験の積み重ねこそが大事なのです。

チームを拡大する

チームを拡大する

こうして小さな成功体験を積み重ねることで、社内にもDX(デジタルトランスフォーメーション)への理解が少しずつ広まっていくでしょう。

中には積極的に協力体制を取ってくれるスタッフも現れるはずです。

この段階で初めて社内でDX(デジタルトランスフォーメーション)の正式なプロジェクトが発足したと言えます。

企業体質自体がDX(デジタルトランスフォーメーション)による新しい価値の創造へと、舵を切った瞬間です。

まとめ

今回は中小企業の経営者やIT担当者が、孤独な戦いを繰り広げるケースを例にとって、DX(デジタルトランスフォーメーション)を社内で推進するためのプロセスについて説明してまいりました。

しかしご承知のように、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進プロセスというのは、企業の数だけあるといっても過言ではありません。

そのためここに挙げたのはあくまで1つの例に過ぎないでしょう。

とはいえ、いずれの場合でも重要なのは、「情報の流れをできる限り可視化し、新しい成果を生み出すことをやり続ける」ということには変わりありません。

さらにDXを推進する上では、経産省のDXレポートでも述べられている通り、「成熟度を測定する」ことがもっとも重要です(このことに関してはまた改めて別の記事で解説します)。

そこさえぶれなければ、DX(デジタルトランスフォーメーション)の導入もスムーズに行えるでしょう。

必要があれば、社外スタッフの客観的な目線などの導入も視野に入れながら、自社にもっとも最適なDX(デジタルトランスフォーメーション)推進プロセスを描き出す必要性を感じていただいて、未来へ向けたファーストステップを踏み出してください。

SNSシェア

この記事の執筆者

中小企業診断士 / 法政大学経営大学院特任講師

福田 大真

DXに関する研究、論文の発表などを行う。 デジタルトランスフォーメーション(DX)の第一人者。 趣味は酵母の発酵についての話を肴に美味しいお酒を飲むこと。

中小企業診断士 / 法政大学経営大学院特任講師

福田 大真

DXに関する研究、論文の発表などを行う。 デジタルトランスフォーメーション(DX)の第一人者。 趣味は酵母の発酵についての話を肴に美味しいお酒を飲むこと。

前後の記事

全ての記事を見る

カテゴリーから記事を探す

ちゃちゃっとボットはこちら