経産省がDXレポート、DXレポートの中でも警鐘を鳴らす、2025年の崖を乗り越え、激化するデジタル社会の中でも企業経営を安定・成長させるためには、今やDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進は企業義務とも言えるものです。
とはいえ、その導入にはどこから手を付けたら良いのか分からない、という企業も多いでしょう。
私も、中小企業診断士という肩書きもあって、DX推進を経営改善を同時に相談されることもよくあります。
その際にお答えするのは、「DX導入のヒントは、すべて決算書にある」ということです。
この記事では、会社経営を行う上では切っても切り離せない決算書から、読み取るべき5つの経営分析ポイントを改めて解説し、さらにそこから見えてくるDX導入のヒントの読み取り方を解説します。
決算書が読めない経営者どころか、社員ですら失格だと言われる時代ですが、さらにますます加速するデジタル社会の中では、それは必須のスキルとも言えますので、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進にからめて、この機会によく理解しておいてください。
目次
DX施策のヒントとなる経営分析5ポイント
収益性
会社決算書でまず重要なポイントが、「会社が儲かっているか」を表す、「収益性」の分析です。
収益性の分析を行うための指標はいくつか存在しますが、ここでは中でも会社利益の根本である、売上高総利益率について紹介します。
【売上高総利益率】
企業がどれだけ稼ぐ力があるかを指標化したのが「売上高総利益率」です。
これは損益計算書の売上高に対して、売上総利益の比率のことで次の計算式で表します。
売上高総利益率=売上総利益/売上高×100
売上総利益はすべての利益の源泉となりますので、これが多くないことには、営業利益も大きくはならないという理屈です。
この数値がどれだけあればよいのかは、業種・業態によっても変わりますので、ここでの言及は避けます。
しかし、この売上高総利益率に例年と比べて大きな変動がある場合は、コストアップか売上ダウンといった、明確な原因があるはずですので、早急に対処が必要ということが分かります。
生産性
企業において大切なものは、一般に「ヒト・モノ・カネ」と称されます。
生産性の分析とは、これらの会社資産の経営への投入が、どれだけの成果をあげたかを計る指標です。
これは、1人あたりの売上高を見ると判断がしやすいでしょう。
1人あたりの売上高=売上高/全従業員数
といった計算式から導き出される数値が、高ければ高いほど、その企業の生産性は高いということが言えます。
ただしこの際の注意点としては、同様の数値を売上総利益の面でも計る必要がある、ということです。
いかに1人あたりの売上高が増えても、1人当たりの売上総利益が伸びていない場合は、原価や生産コストなどに、大きな問題点を抱えていると類推できるわけです。
安全性
安全性の分析とは、「会社がつぶれずに営業を続けていけるかを計る」ということで、長・短期の支払い能力などをチェックすることで導き出せ、いわゆる「信用分析」と同等のものです。
その分析は多くの側面から検討することが必要ですが、ここでは2つの指標をご紹介します。
自己資本比率
貸借対照表から読み取ることが出来るのが、自己資本比率です。
自己資本比率=純資産/総資本(=負債+総資産)×100
といった計算式から導き出せる自己資本比率が低ければ、業務規模に対して借入金などの負債が多いということですので、長期に渡って経営を安定させるためにも、改善のための努力が必要になります。
流動比率
同じく賃借対照表から読み取れる数値で、次の計算式で表されます。
流動比率=流動資産/流動負債×100
これは、売掛金や貸付金、有価証券など短期間に現金化される資産の額から導き出される数値で、流動比率を見ることにより、その会社にどれほどの資金的余裕があるのかを可視化することができます。
できれば150%以上の数値は欲しく、200%以上あれば一般に優良企業と呼んで良いでしょう。
成長性
成長性を分析するためには、売上高の伸びを見るだけでは正確な判断は出来ません。
売上高の伸びに加えて、営業利益や経常利益などの利益との関連性を計る必要があり、そのための指標は次のとおりです。
売上高伸び率
売上高伸び率=(当期売上高ー前期売上高)/前期売上高
売上高が伸びているということは、つまるところ「保有する商品やサービスが、市場にどれだけ評価されているか」を計る数値に他なりません。
ユーザーファーストの視点を貫く企業であるためには、もっとも重視したい指標の1つと言えるでしょう。
営業利益伸び率
営業利益伸び率=(当期営業利益ー前期営業利益)/前期営業利益
営業利益とは企業が稼ぐ力を表す数値ですので、この値が伸びているということは、その企業が売上管理・コスト管理の両面で、順調に成長しているということを表しているとも言えます。
経常利益伸び率
経常利益伸び率=(当期経常利益ー前期経常利益)/前期経常利益
経常利益とは、営業利益に受取利息や支払利息など、営業外損益を加味したもので、企業本来の持っている力を表し、経常利益が伸びているということは、その力があるということです。
効率性
投下資本を効率よく活用し、売上へと結びつけることができているか。
これを導き出すのが効率性の分析で、総資本回転率という数値から計ることができます。
総資本回転率=売上高(損益計算書)/総資本(賃借対照表)
といった計算式から得られた数値は、投下資本と売上が効率よく回っているかを計るために役立てられ、この回転率が高ければ高いほど、企業の成長率が高いということにもつながっていると言えるでしょう。
5つの指標から見えるDX施策のヒント
DX(デジタルトランスフォーメーション)の導入・推進というのは、どこから最初に手を付ければ良い、というものではなく、複数のプロセスを同時並行的に進めていくことが、もっとも理想的な形です。
しかしそうはいっても、すべてを同時進行するというのは、予算も限られる中小の企業においては、現実的で無いのも事実でしょう。
とはいえ、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進自体は、今後その企業が生き残っていくためにも、急務で取り組まなければならない問題です。
そのため、こうした決算書から読み取れる、その企業なりの問題点を1つひとつピックアップし、それに対処するための設計図を描くことが、中小企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)対策としては、現実的な方法と言えるでしょう。
それぞれの問題点から見える、DX導入のヒントは以下のとおりです。
【収益性】収支バランス数値化の共有
収支のバランスを計るというのは、企業経営においては何よりも欠かせない経営指針です。
これまでの企業では、この数値を知ることが出来るのは、経営陣や一部の役職者でしかなかったのが現状でしょう。
しかも、わざわざ引っ張り出さなければアクセスできないところに、データがしまい込まれているという企業も少なくありませんでした。
こうした数値をすぐにアクセス可能なように可視化し、全社で共有できるようにすることは、DX(デジタルトランスフォーメーション)導入の第一歩ともなるでしょう。
データのクラウド化など、身近な所から取り組むことが出来るDX(デジタルトランスフォーメーション)施策が、ここにあたります。
【生産性】業務効率化の重要性
生産性の向上を監理するには、人件費や原価に対するロスの計算など、コストカットを体系づけて行うことが必要です。
これらは、RPA(Robotic Process Automation=作業を自動化出来るソフトウェアロボット)などの導入によって、大きく加速させることができます。
このことは、給与計算や勤怠管理のデジタル化や、発注システムの自動化など、身近なところからのデジタライゼーションでも、DX(デジタルトランスフォーメーション)へ向けた道筋は、十分に作り出せるという証左にほかなりません。
なお、RPA導入の詳細に関しては、また別の機会に詳しくご説明したいと思います。
【安全性】危機に対する備え
資本比率を管理するということ自体は、実際のところデジタル化の力を借りずとも、さほど難しいことではありません。
むしろ、このパートに関しては、「安全性を担保する=信用を積み重ねる」というところにフォーカスして解説したいと思います。
これからの企業経営において、DX(デジタルトランスフォーメーション)が必要不可欠であることは当然として、そのプロセスを推進しているということを周囲にアピールすることも、同様に大切です。
企業経営にとって切り離せない、金融機関との付き合いはもとより、株主や一般ユーザーに対しても、こうしたDX(デジタルトランスフォーメーション)の波に乗れていることをアピールすることは、企業の信用を積み重ねる上では欠かせません。
それによって、今後の取引自体も円滑に進むことはもとより、現在政府主導で進められている、IT導入支援事業者のための各種補助金制度*などの利用にもつながりますので、信用を積み重ねるという観点からも、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進への取り組みは強化する必要があるのです。
また、顧客データを扱うサイトなどのセキュリティ対策などをしっかりと行い、データ流出などのトラブルが起きないよう、事前対策を行うことも、信用を積み重ねる上では欠かせないDX(デジタルトランスフォーメーション)の一環とも言えるでしょう。
【成長性】将来へ向けた投資
特に成長を求めるわけでもなく、現状維持で商売が進んでいけばいい。
そんなふうに考えている経営者も、いないではないでしょう。
しかし多くのケースでは、企業として成長をしていかない限り、その企業の未来はありません。
売上高や利益の伸び率とは、その企業が保有する商品やサービスが、どれだけ市場に評価されているかを判断する指標である以上、たとえ現状維持を望んだとしても、この観点を抜きにした企業経営は成り立たないのです。
ユーザーにとって使いやすいアプリによるオーダーシステムや、公式サイトの整備といった、今では当たり前となったIT戦略から、ビッグデータの取り扱いまで、DX(デジタルトランスフォーメーション)で取り組むべき課題は山のようにあります。
こうしたことを1つひとつ整理し、「ユーザーがアクセスしやすく、利用しやすい」環境を整えることが、将来へ向けた投資となり、生産性を向上させる原動力となるのです。
【効率性】業務フローの改善
投下した資本をいかに効率よく回し、利益へとつなげていけるかということは、つまるところ、いかにして業務上のロスを軽減できるかということに他なりません。
これには、社内業務の流れを精査し、問題点を1つひとつピックアップして、業務フローを改善していくことが求められます。
総資本回転率に問題が見られる企業では、さまざまな業務フローの改善点を、ツール導入による業務の効率化や、コスト削減、働き方改革の推進などのデジタライゼーションによって、推進していく必要があります。
まとめ~決算書を見ればDX施策のポイントが分かる
この記事では、決算書から読み取る5つの経営分析ポイント
- 収益性
- 生産性
- 安全性
- 成長性
- 効率性
について、改めて解説するとともに、そこから導き出されるDX(デジタルトランスフォーメーション)推進のためのヒントを、それぞれに解説してまいりました。
しかし、実際のDX推進プロセスは、企業ごとにさまざまな形で進められ、1つの正解を提示することはできません。
こうした事例なども参考にしながら、5つの指標から見えてくるDX(デジタルトランスフォーメーション)導入のポイントを、1つひとつ精査して、必要な推進プロセスを設計することが大切なのです。
決算書のこれらの数字の中で、自社のもっとも弱い部分から取り組むことが、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進の第一歩です。
しかし、DX(デジタルトランスフォーメーション)として取り組まなければならないプロセスは、ここに紹介したものだけとは限りません。
企業として新しい価値を創造していくためには、さらに複雑なプロセスを含めた設計図を描いていかなければならないのです。
自社にそれを推進できる人材がいない場合には、外部コンサルやベンダーなどの力を借りてでも、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進を加速させることが、これからの企業経営には欠かせない視点となるでしょう。
ぜひとも自社の決算書を目の前に、そこから得られるIT戦略を、今一度洗い出してみてください。