DX(デジタルトランスフォーメーション/以下:DX)を進める際に、とりあえずIT領域やデジタルツールに投資すればいいと考えている企業は多くあります。
しかしDXの投資対象はそう簡単なものではなく、費用対効果を意識して行わなければ、得られる結果が出ず中途半端に終わってしまいかねません。
今回はDX推進にかける投資の順番や、重要な指標となる費用対効果の考え方について解説してまいります。
DX推進において、自社の投資先が適切かどうかチェックする際の参考としてください。
目次
DXの投資において大切な指標「費用対効果」
DXにおいて投資先を選ぶ際は、費用対効果を見ることがもっとも大切です。
「費用対効果」とは簡単にいうと「コストパフォーマンス」と同じ意味であり、とある取り組みにかけた費用(コスト)に対して、得られた成果物が適切かを判断する指標となります。
「DX=デジタル化を進めればいい」と考える企業の経営者やIT担当者は多く、得られる成果が明確でないのにとりあえずAI(Artificial Intelligence=人工知能)を工場に導入する、といった試みも見られます。
その工場や倉庫にデジタル情報技術が使われているのなら、たしかに自社のDX推進の一助となるかもしれません。
しかしその取り組みから得られる成果物が具体的にわからないのであれば、投資先は見直すべきと考えられます。
費用対効果は事前にある程度予想できるものであり、さらに実施後に効果を測定し、指標化することがDXを進めるうえでは大切です。
たとえばAIを使った工場を拡大して生産性が20%上がり、導入前に比べて自社の商品の売上が5%向上すれば、費用対効果という観点で見ると成功しています。
しかし費用対効果が明確でないままAIを導入して「自社はAIを工場で使っており、現在も工場の数を拡大中です」というだけだと、今後DXの面で大きな成功をすることは難しいといえます。
このように自社が投資しているものに対して「本当に費用対効果が高いのか?」と今一度問い直し、成果を検証することがDXの効果を得るためには欠かせません。
大きな成果がすぐに出るわけではない
DXを進めている企業の中には「費用対効果を意識しているが、成果が出ないので取り組みを中止する」と考えるところも少なくありません。
たとえばDXの取り組みの一環として、RPA(Robotic Process Automation=人に変わり業務プロセスや作業を自動化する技術)などのツールを導入した場合に数百万円以上かかり、初期投資に見合う売上が出ないと意味がないと思うこともあるでしょう。
しかしDXにおいて費用対効果はすぐに表れるものではなく、期間が長くなるほどその効果は大きくなるものです。
費用対効果を大きくしたい場合や、短期で成果を出したいときには、事前に効果を検証して小さな試みをくり返すことが大切になります。
高い効果を出すためには「デジタルやIT分野に投資すればすぐに効果が出る」といった単純な考えは捨て、長期的な目線で結果が出るものを見極めなければいけません。
とはいえ、資金や人材が限られている中小企業においては、長期的な計画のみを立案することも難しいので、次章からDXにおける投資の順番について解説してまいります。
DX投資の順序は身近なところから始める
DXを進めるためにどのような順番で投資をするべきか、2つのステップで解説いたします。
この時、前提条件として考えておくべきなのは、最初はスモールステップで問題解決を重ねて、社内から社外へと範囲を広げていくということです。
ステップ1:社内業務のデジタイゼーションとデジタライゼーション
DXの効果を見えやすくして、費用対効果をわかりやすくするためには、身近で成果が出しやすいものから投資を試みることです。
つまり社内のアナログデータをデジタル化するデジタイゼーションがDXの最初のステップ。
デジタル情報ツールに大きな初期投資をすると、業務効率化や売上拡大につながるイメージがあるかもしれませんが、むしろスモールステップを重ねることが理想です。
投資先の順番としては、たとえば電子印鑑の導入や現行システムのクラウド移行など、社内のデジタル化(デジタイゼーション)から始めてみると良いでしょう。
こうした試みを続けることで、郵送や印刷にかかる費用が浮き、社内スタッフの押印に関わる作業も減ることになります。
アナログデータのデジタルへの以降(デジタイゼーション)が完了したら、ビジネスのプロセス自体をデジタル化する作業、つまりデジタライゼーションに移行するのです。
- アナログデータのデジタル化:デジタイゼーション
- ビジネスプロセスのデジタル化:デジタライゼーション
この後にはじめてIT技術によって新しい価値を創出する、デジタルトランスフォーメーション(DX)が完成します。
このように身近な問題をIT技術を活用して解決していくことで、大きな投資をせずに小さな成功を積むことが可能になり、徐々にスケールを広げてDXへと進行させやすくなるのです。
ステップ2:社外を巻き込むDX
そしてスモールステップによる社内のDX化に慣れてきた段階で、あらためて大きな投資をして社外を巻き込むDXに移ることが理想です。
DXとは、デジタル情報技術を使って自社やユーザーの抱える問題を解決し、新たなサービスや価値を生み出すことを指します。
社内の問題(作業性や生産性など)を解決する社内のDXを実現した後、クライアントの課題を解決できるようDXを使って新商品の開発をする(例えばAIを商品に新機能として搭載しユーザビリティを上げるなど)社外を巻き込んだDXへと投資を回していく。
このように最初のステップは小さなものかもしれませんが、継続することで業務効率化やコスト削減が可能となり、徐々に売上拡大につながっていくのです。
最初から売上拡大に直結する社外に働きかけるDXへの投資は、一見効率的に見えながら実現への道は長く遠いもので、その過程で目的を見失ったり成果が出なくてDXそのものを断念したりという問題が噴出します。
このようなことにならぬよう、まずはメリットがわかりやすいものから投資を始めて、スモールステップで課題を解決していくことが失敗しにくいDXの進め方です。
自社にとって最適な投資先を見つけることが大切
DXにかける投資の順番はまずは身近な社内の問題、次に自社の商品などが抱える課題の解決をすることが理想とお話ししました。
ただこれはあくまでも一例であり、もっとも大切なのは自社にとって最適な投資対象を見つけることです。
たとえば業務効率化や社内のDXが既に進んでいる企業であれば、自社のデジタル化よりもクライアントが抱える課題に目を向けるべきかもしれません。
そしてどの対象に投資すれば成果が出るのかは、企業の規模や状況によって違います。
リモートワークが課題の企業であれば書類や印鑑の電子化、人材不足がネックとなる会社ならエンジニアの採用や社内スタッフの教育など、どの施策を進めるのがもっとも効果的かは一概に言えることではありません。
最適な投資対象を見つけるためには、まず小さなことから実験をしてみることです。
一部の部門で電子印鑑を導入して効果を測定する。もしくは、外部のベンダーに依頼したり、社内のデジタル教育を行いパフォーマンスの成果を見てみたりするなど、大きな投資をせずとも確認できることは山ほどあります。
小さな取り組みを重ねて、その中かから効果が得られるものを見つけて、さらなるDXの拡大に結び付けてください。
まとめ
DX推進にあたり知っておきたい投資の考え方と、大切な軸となる費用対効果について解説いたしました。
自社に変革を起こすためには、デジタルツールやITに関わる分野に投資すればOKというわけではなく、規模や状況に応じて費用対効果が高いものであるかどうかを吟味することが大切です。
費用対効果が高いものがわからない場合は、まずスモールステップから始めて効果が高そうなものを探してみてください。
DXの効果を最大限発揮するためには、身近なところにある課題を解決して検証を重ねることが近道です。
ぜひ自社のDX推進に活かしていただき、新しいことに投資する際は費用対効果を意識してみてください。