目次
テーマ4:予算の限られた企業が最初にやるべきDX施策とは?
編集長
「では逆に、これまでの中でいくつか事例は出てきましたが、『予算の限られた小規模事業者や中小企業などが、最初にやるべきDX施策とは何でしょう?』色々あるとは思うのですが、これだけはやっておいた方が良いというものがあればお教えいただけますか?」
福田氏
「すごい良いテーマですね。まさに私が普段から研究していることです。私のクライアントさんの多くは特に小規模事業者が中心なのですが、(クライアントに)中小企業様が多い山田社長のお考えはどうですか?」
山田氏
「まず窓口としての『WEBの入口』。例えばホームページとか、SNSとかがないならまず最初にそこを開くべきですね。それはどこに依頼してもいいし、自分で作ってもいいのですが、それをやったときにどういう反響があるかというのをまずは知る、というのが最初のステップだと思います。」
編集長
「インターネット上に居場所を作り、そこで間口としての役割を果たすということですね。なるほど、福田先生はいかがですか?」
福田氏
「私のクライアントである小規模事業者の場合は、社長に『そろそろデジタルを使わないと、時代から乗り遅れてしまう』と気づいていただかないといけないので、その気づくためのプロセスが必要となる、というのがまず一つ目の課題です。
そのあたりを論文でも書いたのですが、次に気づいた後にどうするのか?というところで、私が参考にしている理論があります。それが『エフェクチュエーション』という考え方です。」
福田氏
「大手企業というのは、何か新しいことをやろうと思ったら何らかのマーケティング分析をして、事業計画を立ててというように、ものすごく時間がかかる。これは『コーゼーション』と言います。
そうではなくて、小規模事業者のDX推進はエフェクチュエーションで進めると、新しいプロジェクトも早く進むという考え方です。」
福田氏
「まず5つ要素があってざっくり解説しますが、目的ではなくまず手段を選ぶ。そしてどこまでならマイナスを許容できるかを先に決めておく。つまり、100万使おうなど予算を決めておくということですね。
次に『レモネード』というのが、予期せぬ事態を避けるのではなくて、偶然を拾いにいきなさいという、『運も実力のうち』のような感じです。そして社長一人や夫婦二人だけでなく、第三者の協力を得ようというものです。
最後は、どうせ全てをコントロールできないのであれば、その部分は諦めて進めようという考え方になります。
私がいくつかの伸びている小規模事業者を調べたところ、細かい話は省きますがこうした考えのもとでDXをしているから伸びてきたのだ、ということが分かってきました。
ですので、特に小さい会社が最初にやるべきDXは『とにかくデジタルを使ってみる』ことなんですね。次にちょっと難しく『計画的偶発性理論の実践』と言うのですが、先ほども言った『運も実力のうちなんだから運をつかみにいこう』ということですね。その上で、『一人じゃ無理だから、相談できる相手を見つけなさい』と。この三つを最初にやると、ちょっと先に進んでいくと思いますね。」
編集長
「このあたり、中小企業などがクライアントの中心となる山田社長のお立場では、どのようにお考えになりますか?」
山田氏
「そうですね。先ほど福田先生のエフェクチュエーションのお話でもあったように、ある程度の規模の企業になってくると何かを始めようと思ったら、稟議を通して、根回しをしてといったような文化が残っていると思います。
でも、そこは例えばDXの部署を作るなど、いわば特殊部隊を作って進めると企業も増えてきましたが、組織としてDXに取り組む大命題として考えると良いのではと感じます。当然、そこにある程度の予算をかけるというのも含めてですが。」
編集長
「つまりは、まずは『やると決めて、組織の忖度に左右されないチームを作る』のがファーストステップという感じですね。」
山田氏
「そうです。」
テーマ5:DXが必要のない企業とは?
編集長
「では次のテーマなのですが、ちょっと意地悪な質問を用意してみました。『DXが必要のない企業というのはありませんか?』ここでは、夫婦経営の町の定食屋さんなどを例に出しましたが、このあたりいかがでしょう?」
福田氏
「来た!いいですね。町のラーメン屋さんとかね。」
山田氏
「これはまさに私の場合、両親が小さな居酒屋を経営しているので実感していますが、夫婦二人とバイトが一人という小さな店でも、例えばレジをタブレットにしたら使いやすいし、(今日の売上など)今の現状も把握できるしで、『やはりいいよね』という話は聞きます。
こうした細部のデジタル化をDXと言うか言わないかというのが、この『テーマ5』の分かれ目になるかと思いますが、やはり全くデジタルとは関係ない企業もあるといった結論を出してしまう必要はないかなと考えます。」
福田氏
「私は今、とある伝統工芸の工房を支援をしているのですが、そこは震災で多大な被害を受けて工房がボロボロになってしまったんですね。
この方と話していてもデジタルの話などまるででてこないんですよ。でも、伝統工芸品に高価な材料を使用する作業があるわけなのですが、この材料の価格が今世界的に高騰してしまって、問屋さんに聞いてもはっきり分からないと。だから、ご主人が仕方なく自分でインターネットで材料の相場を調べ始めたというんです。これって、デジタル活用ですよね、と。
それから、もし補助金を活用する場合、その申請にはどうしても電子申請が必要な場合もあります。それでご主人は、今までパソコンなんか使ったことはなかったようですが、どうしてももう一度被災から立ち直って復活したいので、頑張ってパソコンで調べて、申請書をダウンロードしてWordで書いたらしいのです。
それを『先生、チェックしてください』と言われたんですが、これを聞いて私は、被災してしまったことは残念でしかないけど、それをきっかけに『デジタルを使わないと先に進めない』と気づき始めたことはものすごい変革なのではないかと感じました。
現在日本には360万社以上の企業(2023年度中小企業庁発表)がありますので、そのなかにはもしかしたらDXが必要のない企業もあるかもしれませんが、それでも時間軸で考えると、今は必要ないと感じていても、災害などでなくともいつかは使わないと生きていけないと気づくポイントはあるんじゃないかと思います。」
編集長
「結局のところ、今は役所とかもマイナンバーカードやデジタル申請など時代が変わってきている中で、本当の意味で人と関わらないでいるならデジタルなしで生きられるかもしれない。でも、企業であれ個人であれ、ビジネスである以上お客さんがいるわけで、人と関わらないではそもそも成立しない。であれば、今の時代はどうしてもデジタルは使わざるを得ない。その程度問題であって、それら全てを『DX』と言ってしまうのが適切かどうかは分からないけれど、デジタル化して変わっていく。そして、そこから何かが生まれてきたとかしたら、それはもうDXなってますよということなんでしょうかね。」
福田氏
「おっしゃる通りですね。先ほどその被災した方々も、『震災で仕事ができなくなっちゃったけど、続けたいからデジタルを使い始めた』ということそのものが、やっぱり一つの変革なんじゃないかなって思います。」
編集長
「では、テーマ5の答えとしては、それこそ山奥で隠匿生活でもしているような『個人』では必要のない場合もあるかもしれないけど、『企業』であれば絶対に必要になる、ということですね。」
福田氏
「最初に言いましたが、私の定義的には『トランスフォーメーション=経営』なわけで、何も大それたことばかりではない。身近なできることからデジタルを使うことがDXである以上、全ての企業や個人事業の方に必要になるのではと思います。」
>>後編(2024.7/12公開予定)へ続く