商品(物件)の内見から成約まで時間がかかり、関係者の作業も膨大になりやすい不動産業界。
金額が大きく成約まで時間がかかるために「他の業界に比べてITの発達が遅れている」といわれていますが、昨今ではどのようなDX(デジタルトランスフォーメーション/以下:DX)が使われているのでしょうか。
今回は不動産業界の中でもIT化が進む「賃貸物件の内見」から見る事例をいくつか取り上げ、DXの活用方法や得られた成果について解説いたします。
ユーザーと何度もやり取りをしなければならない不動産業界こそ、ユーザビリティに配慮したDXの進化が問われる分野でもあり、コロナ禍でどのように集客を成功させているか、そのノウハウも参考にしていただければと思います。
目次
オンラインで完結する賃貸手続きOHEYAGO
イタンジ株式会社が提供するセルフ内見型賃貸サイト「OHEYAGO(オヘヤゴー)」は、DXと不動産をかけ合わせた「不動産テック」の分野で目覚ましい成果をあげています。
OHEYAGOの内容を簡単に紹介すると、アプリ上で空室がある物件を探して内見を申し込み、成約に至るまでの各種手続きを行えるオンラインサービスです。
従来の賃貸物件の内見をどのように変えたのか、3つのポイントに絞って紹介いたします。
- タイムリーな空室情報を入手できる
- IoT機器のスマートロックにより内見の同行が不要に
- ほぼ全ての作業がオンラインで完結
タイムリーな空室情報を入手できる
OHEYAGOの特筆すべき点は、賃貸物件の空室情報をタイムリーに入手できるところです。
これまで賃貸物件を見つける際は、部屋探しのサイトで情報収集し気になる物件を見つけたら取り扱っている仲介業者へ問い合わせる、という流れでした。
しかし掲載されている情報が古く、目ぼしい物件があって仲介業者に問い合わせても既に入居者が決まっており、新たな物件を探す手間も発生します。
これは一般の利用者が見ることのできる部屋探しサイトの内容は一次情報ではなく、仲介業者が大元の情報を確認しなければいけないことが原因です。
OHEYAGOでは一次情報をアプリに反映させる仕様にしたため、利用者は現在のリアルタイムな空室情報のみを確認することが可能です。
そうすることで内見希望者の問い合わせや仲介業者の情報確認の手間が省け、目ぼしい物件を見つけ次第すぐに内見手続きに移行できるようになっています。
このようにユーザビリティを優先してアプリを作ったことにより、OHEYAGOには10,000件を超える物件が掲載され多くの利用者を集客しています。
IoT機器のスマートロックにより内見の同行が不要に
OHEYAGOの優れている点は、DXの重要な鍵の1つであるIoT(Internet of Things=モノのインターネット)に分類されるスマートロックを活用してセルフ内見を実現しているところです。
スマートロックとは電子錠のことであり、物理的な鍵を使わずにパネル上で暗証番号や指紋による認証を行うことで施錠・開錠できるサービスを指します。
OHEYAGOが取り扱っている物件ではこのスマートロックを活用し、仲介業者の同行なしに利用者が「セルフ内見」をすることが可能です。
内見をする際は仲介業者がワンタイムパスワードを発行し利用者に番号を伝え、物件に出向いた際にスマートロック上で開錠する仕組みになっています。
仲介業者がいないことによって、利用者は第三者の目を気にせず思う存分部屋の中を見られるようになり成約率の向上が期待できます。
さらに仲介業者は同行する必要がなくなるので作業時間の短縮につながり、空いた時間を他の業務にあてて生産性を向上させることが可能です。
DXにおいては、いかにツールを有効活用するかが求められますが、うまくIoTを取り入れたことで利用者の満足度を向上させることに成功した例といえます。
ほぼ全ての作業をオンラインで完結
OHEYAGOは賃貸物件の手続きにおいて「不便」と感じられる作業をオンラインに移行することで大きな成功をおさめました。
ここで、通常の仲介業者とのやり取りを経由する賃貸物件の申し込み手順と、OHEYAGOのオンラインサービスによる契約の流れを比較してご紹介します。
【通常の流れ】
- インターネットで物件を探す
- 仲介業者へ内見が可能か問い合わせる
- 仲介業者のオフィスに出向き要望を伝える
- 物件をいくつか選定し、実際に内見する
- オフィスに戻って書面による審査を申し込む
- 審査に通ったら契約書類に署名・押印し成約
【OHEYAGOの流れ】
- OHEYAGOで物件を探す
- 内見可能な物件を見つけて内見申し込み
- 物件へ出向いてセルフ内見
- オンラインで申し込み手続き
- 審査に通ったら電子契約に署名・押印し成約
通常の賃貸物件探しの一連の流れは短ければ1週間から2週間、長いと数か月に及ぶこともあり、その上希望の物件が見つからない場合、何度も仲介業者のオフィスへ通って内見をするのはなかなか骨が折れるものです。
しかし、OHEYAGOではこうした物件探しや仲介業者のオフィスでのやり取り、書面の手続きを徹底的にオンラインへ移行しています。
これにより仲介業者においては、物件を探す利用者とやり取りする時間が1時間から15分ほどに短縮され、先述のIoTの活用と合わせることで作業効率も大幅に向上しました。
また利用者においては、アプリ上で内見申し込みをする際に個人情報などを入力して、それらの情報を再度利用できるので、再審査を受けるときでも同じ内容を入力する必要がありません。
結果として利用者・仲介業者共にスムーズに内見から成約まで進めることができ、やり取りに関わるストレスが減少したのです。
DXでは対面で行っていた作業をオンラインに移行することで業務効率化につなげることが大切といわれますが、OHEYAGOの試みはまさにこれを実現しています。
不動産業界では「成約までにかかる時間の長さや手間を考慮すると、書面の契約をオンラインに移行しづらい」風潮がありましたが、OHEYAGOはそうした概念を当たり前のものに変えつつある革新的なサービスでもあるのです。
まとめ
実際に賃貸内見の現場で使われているアプリに焦点を当てて、不動産業界のDX事例を紹介いたしました。
OHEYAGOはほんの一例ですが、デジタル技術の活用によるタイムリーな情報の可視化やIoT機器による利便性向上を実現しており、今後の不動産業界を牽引していく先進的な事例です。
実際に非接触が必要とされるコロナ禍においても集客効果は高く、すべてのやり取りをオンラインにすることで時代のニーズに合致したサービスを作り上げています。
これらの例に共通しているのは利用者が不便と感じたり、ストレスに思ったりするものに対してDXを使ってテコ入れをしたことによって成果をあげていることです。
自社のDX推進においても、まずは身近にある「不便と感じる」部分を見つけ、デジタル化することで解決できないか考えることから始めてみてはいかがでしょうか。