コロナ禍で「生活に必須ではないジャンル」にカテゴライズされ、従来のような楽しみ方が難しくなっている音楽業界。
そんな音楽業界では、どのようなDX(デジタルトランスフォーメーション/以下:DX)が行われビジネスを支えているのか。
今回はコロナ禍における音楽業界の動向を交えながら「ライブ配信」に焦点を当てて、DXの観点から見た画期的な事例をいくつか紹介してまいります。
従来のビジネスモデルが通用しない状況下でどのような価値を提供するべきか、紹介する事例を参考にしていただき、自社のビジネス変革にご活用ください。
目次
オンラインならではの楽しみが鍵となるライブ配信
ファンが一同に集まってリズムに乗り、身近で迫力あるパフォーマンスを体感できるのが魅力であるライブ。
感染防止のために「密」を避けるべくライブは自粛対象となり、アーティストの発信の場はオンラインへ移行しています。
音楽業界のDXは「いかにオンラインならではの楽しみを価値に変えられるか」が問われ、従来のライブでは得られないような体験を提供することが成果を出すための鍵です。
そんな中でどのようにファンを惹きつけて成果を出しているのか、著名なアーティストが行ったオンライン配信の3つの事例を紹介いたします。
- オンラインだからこそのユーザー体験を提供:サザンオールスターズ
- 「双方向性」を活かしたインスタライブ:サカナクション
- ゲーム業界とのコラボレーション:米津玄師
オンラインだからこそのユーザー体験を提供:サザンオールスターズのライブ配信
日本人なら知らない人はいないほどの大物アーティストであるサザンオールスターズは、コロナ禍で主流となった「無観客ライブ」に、オンラインだから「こそ」得られるユーザー体験を乗せて新しい波を起こしました。
無観客ライブというとステージ上でアーティストがパフォーマンスを行い、その様子をパソコンなどの画面から見られるイメージを持つ人が多いと思います。
カメラは基本的にステージを映しますが、ときどき見える観客席は空の状態で、全体からスタジオを映すと少し寂しい雰囲気に見えることでしょう。
しかしサザンオールスターズは巨大なスタジオを貸し切り、無観客だからこそできるパフォーマンスを最大限活用したのです。
たとえば大量のダンサーを起用し、本来なら観客がいるはずの席に出てきてパフォーマンスを行う。
また曲のテイストに合わせてドレスアップしたパフォーマーが観客席の上空を飛び、ダイナミックな演出をする。
これらの内容は観客がいないからできることであり、サザンオールスターズは見事にスタジオ全体を活用したライブを実現しました。
ライブ配信の1回あたりの推定視聴者はおよそ50万人といわれており、名を馳せるアーティストが革新的な演出を行ったことでオンライン配信に拍車がかかるきっかけの1つとなったのです。
DXにおいてはIT技術を導入することが目的ではなく、「IT技術を用いて顧客にどんな価値を与えられるか」を考えることがビジネス拡大のために欠かせません。
音楽業界も同様にオンライン配信は手段であり、従来から状況が変わってしまったコロナ禍で価値を届けるためにはユーザーに「体験」を提供することが必要です。
サザンオールスターズのライブは、無観客のスタジオで大々的なパフォーマンスを取り入れることで、オンラインだからこそ得られる体験を創出した好例といえます。
「双方向性」を活かしたインスタライブ:サカナクションのインスタライブ
人気ロックバンドのサカナクションは実際のライブでファンと相対できない中でも、SNSのインスタグラムを活用して人気を集めています。
「自粛期間中はライブに行けない。でもリアルなやり取りを楽しみたい」というニーズを汲み取り、インスタグラムのライブ配信によるリアルタイムの演出や、チャットを使ったファンとのやり取りを可能にしたのです。
馴染み深いSNSを利用することで新たなファンを獲得することができ、アーティスト自身をより身近な存在として知ってもらえるきっかけにもなります。
実際に自粛期間中でもインスタライブを楽しみにしているファンは多く、深夜の時間帯の配信でも5,000人から8,000人ほどの視聴者がいたといわれています。
サカナクションの取り組みはSNSを使って「双方向性」をうまく活かしたことが成功の理由であり、「自粛期間はライブを楽しめない」というイメージを払拭したのです。
コロナ禍で主流となったテレワークにおいてDXの成果を出すには、オンライン会議システムなどを使い「双方向」のコミュニケーションをすることが欠かせません。
プレゼンなどの一方通行では洗練された意見は出にくく、お互いが意見を出し合いながら議論することでアイデアがブラッシュアップされ、大きな成果を出しやすくなるからです。
サカナクションのインスタライブは、そんなオンラインが持つ「双方向性」という得意性をうまく音楽配信に取り入れたことで、ファンの声を拾いながら価値を提供した好例の1つです。
ゲーム業界とのコラボレーション:米津玄師
大人気のシンガーソングライター米津玄師は、音楽業界に留まらずゲーム業界とコラボレーションを図り新たな風を巻き起こしました。
オンラインのバトルロワイヤルゲームであるフォートナイト内で配信を行い「音楽」と「ゲーム」を融合させることで、コロナ禍の新たな音楽の楽しみ方創り出したのです。
参加するためには視聴者がアバターを使ってフォートナイトの世界に入り、VRの仮想ライブ空間へに行く必要があります。
VR(Virtual Rearity=仮想現実)とは
ネットワーク上に仮想の空間を設けて疑似体験できるようにする技術。
五感に刺激を与えることで、現実世界で起こっているかのような体験ができる。
本事例ではオンラインゲームの中に仮想ライブ空間を設けてライブを体験できるようにしている。
仮想ライブ空間内に入るとモニター上で米津玄師のアバターがパフォーマンスを行い、実際のライブさながらの演出が見られる仕組みです。
モニターに映るのは米津玄師自身ではなくアバターを含めた演出動画ですが、従来のライブ配信と異なるのはゲームならではの脚色や、視聴者のアバターが自由に仮想空間内を行き来できるなどの面白さがあることです。
このコラボレーションは大きな話題を呼び、フォートナイトの公式YouTubeアカウントが提供している予告動画は合計400万回以上再生されました。
DXにおいて新たなビジネスモデルを構築するためには、別の業界との協業による成果がニーズを満たすことにつながり、売上拡大のきっかけになることもあります。
米津玄師とフォートナイトのコラボレーションはこれに似た仕組みであり、今までにない配信方法を価値として創出した音楽業界のDX事例の1つです。
まとめ
コロナ禍の動向も交えながら音楽業界におけるDX事例を3つ紹介いたしました。
音楽業界ではライブがオンラインになったことで、従来の臨場感を味わいにくくなってしまいましたが、その分画面を通したやり取りだからこそ実現できる「新しい体験」を提供することが鍵となっています。
紹介した3例では直接やり取りができない状況下でも、「今までにない方法」を模索して実践していくことで新しいビジネスチャンスを生み出しました。
自社の新たなビジネスを検討する際は顧客が得られる「新たな体験」も軸の1つとして、どのような価値を提供できるか見直してみてはいかがでしょうか。