【行政のDX事例】マイナンバー制度にみる日本と諸外国のIT戦略の違い

【行政のDX事例】マイナンバー制度にみる日本と諸外国のIT戦略の違い

国によって顕著に差が出る行政のDX(デジタルトランスフォーメーション/以下:DX)。

なるべく多くの国民にサービスを普及させるためにどんなアプローチを取るかが、行政のDXの難しいところです。

今回は日本だけでなく国外の行政のDXにも着目して、人々の生活に根差すデジタル施策を取り上げてまいります。

「日本はDXが遅い」と言われていますが、今後どのような動きがあるのか。

海外諸国の状況と比べながら、現状の分析や今後の展望の参考にしていただければと思います。

デジタル発展の鍵はマイナンバーカード:日本のDX

我が国、日本では、デジタル庁の開設(現在準備中/2021年6月4日時点)をはじめとして幾つかのDX施策が進んでいますが、諸外国と比べるとまだまだ発展途上と言わざるを得ません。

実際に行政手続きのオンライン化を目的の1つとしているマイナンバーカードは、2021年5月の時点でわずか30%の交付率となっています。

これに対して、政府は「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」の中で「2022年度中にはほぼ全国民にカードを持たせることを目指す」と公表しています。

現在行政の手続きは役所などに出向いて書類で申請するのが一般的ですが、マイナンバーを使えば自宅にいながらオンラインの手続きが可能です。

たとえば、介護や被災者支援、子育てなどの行政手続きが一本化され、管理者と利用者双方にとってメリットがもたらされると予想できます。

さらに、銀行口座の開設などで郵送する本人確認書類も不要になり、マイナンバーカードに埋め込まれたICチップを読み込めばオンラインでの電子認証が可能です。

ただそのような仕組みのベースがあっても、利用するハードルが高いままだとカードの普及は進みません

現状マイナンバーカードを使って電子認証をするためにはカードリーダー、もしくはスマートフォンが必要です。

マイナンバーカードの普及率が低いのには、電子認証の説明がわかりにくいことや、電子機器の利用は高齢者にとって難易度が高いことが関与しています。

また、オンラインの電子認証を行ったり、パスワードを変えたりするためには役所に出向かなくてはいけません。

コロナ禍で人との距離を保つ必要があるにもかかわらず、対面でやり取りしなければいけないのは利用者にとってストレスでもあります。

諸外国に比べて日本の電子認証の普及率が低いのには、こうした矛盾が背景にあることが原因と考えられます。

  • 私達1人ひとりがマイナンバーカードのメリットを理解したうえで利用に踏み切ること
  • 実現させるためのスピーディーな動きと、ユーザーの目線に立ったシステムの構築

この2点が日本のDXの課題といえるのではないでしょうか。

個人の信用度を可視化する「社会信用システム」:中国のDX

個人の信用度を可視化する「社会信用システム」:中国のDX

中国ではさまざまなDX施策がありますが、その中でも特に個性的なのは国民1人ひとりの信用度を表す「社会信用システム」です。

もともと中国では偽札の利用や脱税などが横行しており、政府は「世界的に見ると国家の競争力を下げる要因になり得る」と捉えていました。

そこで健全な取引を促進し経済を活性化させるために導入されたのが、スコアで国民の社会的信用度を表す「社会信用システム」です。

名前や住所などの個人情報だけでなく、以下の項目も信用度の評価対象です。

  • 購買取引に不正がないか
  • 職歴に不審な点はないか
  • SNSで過激な発言をしていないか

これらはほんの一部で、あらゆる項目が評価対象になるといっても過言ではありません。

スコアが低い人物は国をまたぐ移動の制限や罰金の支払いを命じられることもあり、「国家規模の監視」とも言われています。

しかし一方で社会的なメリットも生み出しており、本システムを導入してから不正取引の数が減り、電子決済が主流になったことで確実な商取引が可能になりました

さらに、今まで信用度を可視化できなかった農村部に住んでいる国民がスコアを高めれば、「社会的な信用度が高い」とみなされ銀行口座やクレジットカードを持てるようになります。

「社会信用システム」を導入したことはさまざまな意見がありますが、全国民が平等な権利を得られた点においては、少なくともDXの成功をもたらしたといえるでしょう。

驚異の普及率を誇るデジタル認証基盤:インドのDX

驚異の普及率を誇るデジタル認証基盤:インドのDX

インドでDXが進んでいるイメージを持っている人は少ないかもしれませんが、驚くべき早さでデジタル認証基盤の利用が進んでいます。

従来は公的証明書を持ってる国民が少なく、行政側で個人を特定できないことが多々ありました。

この問題を踏まえて構築されたのが「AadHaar(アドハー)」というデジタル認証基盤です。

国民1人ひとりにIDを付与し、指紋・顔・虹彩の3つを使って生体認証と紐づけオンラインで個人を特定できる仕組みになっており、強制ではないものの既に国民13億人のうち12億人以上が登録しています。

また、様々なSDKやAPIも公開されており、本人確認や本人に紐づく決済や医療といった各種の既存システムへの取り組みや新規サービスの開発も可能としました。

この背景には、大量の国民の登録に対応するべく、スピーディーな照合を可能としたNECのデジタル技術が使われていたことが寄与しています。

件数が多いときは1日に200万件もの新規利用者の登録が必要でしたが、大規模なデータベースと高精細な照合システムのおかげでシステムダウンせずに処理を進められたといいます。

このようにAadHaarは急速なペースで広まり、ほとんどの国民の認証と公共サービスのスムーズな利用が可能になりました。

AadHaarの事例は、デジタル技術の活用が必要といわれている現代こそ、スピードを重視して新たな施策を進めるべきであることを教えてくれています。

全ての世代へのユーザビリティを重視してデジタル国家に:デンマークのDX

全ての世代へのユーザビリティを重視してデジタル国家に:デンマークのDX

北欧にあるデンマークは「屈指のデジタル国家」と呼ばれており、行政のDXは他と比べて著しく発展しています。

理由はいくつかありますが、特に注目するべきは高齢者のインターネット利用率です。

デンマーク政府によると、71歳以上の高齢者のうち「毎日インターネットを使っている」と答えた人は全体のうち74%だそうです。

これには前提として早期にコンピューターが導入され、高齢者層がデジタル端末に慣れていることがあげられます。

しかしそれだけでなく「ユーザーの心に刺さるPR方法」が成功要因の1つでもあります。

たとえば行政から国民に対する連絡は「Digital Post eBoks(デジタル・ポスト・イーブックス)」というシステムを介して行われ、政府からの連絡や定期健診のお知らせ、税金の支払に関する情報などがメールで届く仕組みです。

「Digital Post eBoks」のPR動画では、国民がシステムを使うことで削減できる森林伐採の数や紙の枚数など、デンマーク国民の関心が高い「環境問題」を取り上げています。

行政のDXは高齢者層への普及が1つの課題でもありますが、ユーザーが興味のある事柄を知り、それに紐づける形でうまくシステムをPRしたことがデンマークのDXの成功につながったのです。

まとめ

日本と海外の行政に目を向けてDX事例を解説してまいりました。

国によってDXの内容はまったく違い、それぞれの国の施策を進めるうえでのアプローチ方法はさまざまです。

幅広い年齢層が使うからこそ、以下のような「システムを普及させる戦略」が重要です。

  • ユーザー(国民)自身が使いたいと思うメリットを的確に伝えるPR活動
  • 高齢者まで誰もが使いやすい、できるだけ簡略化したシステム
  • 時間をかけずスピーディに導入できる仕組みづくり

今後日本を含めて諸外国がどのようなデジタル発展を遂げていくのか、そのベースとして行政のDXがどのように影響を及ぼすのか注目したいところです。

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DXportal®編集部

DXportal®の企画・運営を担当。デジタルトランスフォーメーション(DX)について企業経営者・DX推進担当の方々が読みたくなるような記事を日々更新中です。掲載希望の方は遠慮なくお問い合わせください。掲載希望・その他お問い合わせも随時受付中。

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