2022年度日本のキャッシュレス決済比率は36%に達し、決済総額は初めて100兆円を超える記録を樹立しました。(参考:経済産業省「2022年のキャッシュレス決済比率を算出しました」)
キャッシュレス決済の拡大は、まさに金融業界におけるDX(デジタルトランスフォーメーション/以下:DX)であるといえます。それを支える大きなテクノロジーが「FinTech」です。
FinTechはキャッシュレス決済に限らず、従来の金融業界のビジネスモデルを根本から変革しています。
このテクノロジーは、今後もさらにユーザーと企業の両方に新たな価値を提供する可能性を秘めており、業種を問わず全ての企業にとって重要です。
本記事では、FinTechの具体的なサービスの内容や直面している課題、さらには日本政府が取り組んでいる金融業界の展望について詳しく解説します。
FinTechの理解と将来への展望を持つことは、ビジネスの新たな機会を見出すことに繋がりますので、どうぞ最後までお読みいただきご参考にしてください。
目次
金融業界のDXを推進させるFinTech11のサービス
FinTechは、「Finance(金融)」と「Technology(技術)」の合成語で、近年金融業界における重要なトレンドとして急速に成長している分野です。
デジタル技術の進化により、金融サービスを取り巻く環境は大きく変化しており、FinTechはこの変化の中心的な役割になっています。
実際に、世界中でFinTech市場は、年々増加の一途をたどっており、今後もさらに拡大すると考えられます。
経営コンサルティングファームのボストン コンサルティング グループと、米国のベンチャーキャピタルQEDインベスターズの共同レポート「Global Fintech 2023:Reimagining the Future of Finance」によれば、その市場規模は2021年の2,450億ドルから、2030年までに1兆5,000億ドルへと、約6倍に成長するとの予測されているのです。
今後もさらなる拡大が期待されるFinTechですが、現在の主要サービスは次の11カテゴリーに分類されます。
- キャッシュレス決済・送金サービス
- 暗号資産(仮想通貨)・ブロックチェーン
- クラウドファンディング
- 個人資産運用
- ソーシャルレンディング
- 会計・経理
- 個人財務管理(PFM)
- 保険
- 金融情報サービス
- 個人向けローン・融資
- セキュリティ
1.キャッシュレス決済・送金サービス
「LINE Pay」や「PayPay」などのキャッシュレス決済・送金サービスは、日常生活におけるFinTechの代表例です。
キャッシュレス決済・送金サービスを活用することで、現金を持っていなくても、スマートフォンを通じて簡単にデジタルでの送金や支払いが可能になります。
さらに普及が進めば、日常生活のあらゆる場面で、現金でのやり取りや銀行・ATMでの振り込みなどの機会が減少し、日々の決済取引がよりスムーズで便利になるでしょう。
2.暗号資産(仮想通貨)・ブロックチェーン
暗号資産(仮想通貨)は、投資対象として注目を集めていますが、その取り引きを支えているブロックチェーン技術もFinTechの1つです。
ブロックチェーンは、全世界にデータ分散して取引記録を管理させることで、安全かつ透明な取引を可能にし、金融業界に新たな可能性をもたらしています。
3.クラウドファンディング
クラウドファンディングは、インターネットを通じて、さまざまなプロジェクトやアイデアに資金を提供する人々を募るサービスです。
一般企業だけではなく、起業家、アーティスト、発明家、さらには社会的活動を行う個人や団体など、幅広い分野で利用されており、新しいアイデアや製品を実現するための有効な手段となります。
同時に、クラウドファンディングはプロジェクトに賛同してくれた人たちと1つのコミュニティを作り出す機会も提供してくれるため、プロジェクト提案者は、資金だけでなく、賛同者からの反応や価値あるフィードバックも得ることができます。
4.個人資産運用
個人の資産運用を手助けするロボアドバイザーは、独自のアルゴリズムを用いて個人の投資を自動管理・サポートするFinTechサービスです。
ユーザーは自身の投資目標やリスク許容度を入力し、ロボアドバイザーがこれに基づいて最適なポートフォリオを提案します。
専門知識がなくても効果的な資産運用が可能で、投資をはじめたばかりの人にもアクセスしやすい投資手段です。
5.ソーシャルレンディング
ソーシャルレンディングは、インターネット上のプラットフォームで、資金を必要とする人々と投資を希望する人々を直接結びつけるサービスです。
銀行を介さずに資金調達が可能な仕組みにより、個人や中小企業も容易に資金を得られると同時に、投資家にとっても利息という固いで収益を得ることができるようになっています。
ソーシャルレンディングサービスは、伝統的な金融機関に代わる革新的な資金調達の手段として注目されています。
6.会計・経理
FinTechは会計・経理業務の自動化にも大きく貢献しており、特にAIやクラウドベースの会計ソフトウェアを活用することで、手作業に依存する会計処理から脱却し、効率と精度を大幅に向上させます。
例えば、銀行取引のデータを会計システムへとAPI連携(アプリケーション間やシステム間でデータや機能を連携することで、利用可能な機能の拡張)るすることで、自動的に仕訳を行えます。
また、API連係により入力ミスや時間のかかる手作業が削減され、経理担当者はより戦略的な業務に集中できるようになるでしょう。
さらに、リアルタイムでの財務状況の把握や、予算管理、財務分析なども容易になり、企業の経営効率化に大きく寄与します。
FinTechによる会計・経理業務の自動化は、企業のコスト削減とリスク管理の両面で大きなメリットをもたらすのです。
7.個人財務管理(PFM)
PFM(Personal Financial Management)は、個人の財務状況を効率的に管理するためのデジタルツールです。
具体的には家計簿アプリなどにより、日々の支出、収入、そして貯蓄の追跡を容易に把握できます。
ユーザーは銀行口座やクレジットカード、投資口座などをPFMツールにリンクさせることで、全ての財務情報を一元的に管理できるようになります。これにより、支出のパターンの分析や予算の設定、財務目標に向けた計画を立てることが容易になります。
PFMによっては、支出のカテゴリ分けや予算超過のアラート機能などが実装されているので、ユーザーが自身の財務状況をより深く理解し、賢く金銭管理を行う手助けになるでしょう。
8.保険
保険業界はFinTechの進化により、InsurTech(Insurance×Technology:保険×テクノロジー)という新しい領域を切り開き、顧客体験の向上と業務効率化を推進し、業界全体のDXを加速させています。
InsurTechはデジタル技術を活用して、保険サービスを革新することを目指しており、顧客にとっての保険購入や管理プロセスを大幅に簡素化・効率化する技術です。
例えば、オンラインプラットフォームを通じて保険の見積もりを瞬時に取得できるなど、保険申込みプロセスを完全にデジタル化することで、紙ベースの手続きや時間を要する審査プロセスを省略できます。
また、AIやビッグデータを活用することで、ユーザーのリスクプロファイルをより正確に分析し、パーソナライズされた保険プランを提供することが可能です。
InsurTechを活用することで、顧客は自分のニーズに合った保険を迅速かつ簡単に選ぶことができ、保険会社は効率的なリスク管理と顧客サービスの向上を実現できます。
9.金融情報サービス
金融情報サービスはFinTechの進歩により、金融市場の複雑なデータを効率的に分析し、ユーザーに価値あるアドバイスを提供する重要な役割を果たしています。
FinTechを活用することで、ビッグデータ、AI、機械学習などの最先端技術を駆使して、リアルタイムに分析や情報の取得が可能です。
- 株価の動向
- 市場のトレンド
- 企業の財務諸表
- 人事情報
- 投資リスク
- 国連、世界銀行、IMFなど世界のマクロデータ
- 日本統計局などのマクロデータ
- M&A案件
例えば、株式市場の動きを予測する詳細な分析レポートや、個々の投資家のポートフォリオに合わせたカスタマイズされた投資アドバイスなどが提供されます。
ユーザーはこれらの情報を活用して、より効果的な投資決定を下すことができるのです。
また、金融市場の透明性を高め、個人投資家が市場にアクセスしやすくすることで、より公平な投資環境が促進されるでしょう。
金融情報サービスの発展は、金融市場の理解を深め、投資家がより正確な情報に基づいた意思決定を行うための基盤を提供しています。
10.個人向けローン・融資
FinTechの進化により、個人向けローンと融資のプロセスも大きく変わりつつあります。
従来、銀行や金融機関の窓口を通じて行われていたローン申請が、FinTechのプラットフォームを利用することで、より迅速かつ簡単に行えるようになっています。オンラインでの申請と自動化された審査プロセスにより、借り手は数分でローンの承認を受けることが可能です。
また、貸す側にとっても、AIとデータ分析を活用することで、個々の借り手の信用リスクを正確に評価し、より適切な金利と返済条件を提供できます。
FinTechを活用すれば、ユーザーは自分のニーズに合った柔軟な融資オプションを選択できるようになります。
特に信用履歴が少ない若年層や非正規雇用者などにとっては、資金調達の機会が広がるでしょう。
11.セキュリティ
FinTechの発展により電子的な取引が増加し、それに伴いセキュリティの重要性が高まっています。
特に個人情報や金融データの保護は、ユーザーの信頼を維持する上で不可欠です。
FinTech企業は積極的に高度な暗号化技術、二要素認証、生体認証などを導入して、データの安全性を確保する必要があるでしょう。
セキュリティサービスにおけるFInTechは、AIと機械学習を活用して不正アクセスや詐欺行為を検出し、リアルタイムで対応するシステムも開発されています。
また、トランザクションごとにリスクを評価し、異常なパターンが検出された場合には即座に警告を発することも可能です。
さらに、ブロックチェーン技術を活用することで、取引の透明性と追跡可能性を高め、セキュリティは強化されます。
FinTechは安全かつ信頼性の高い、セキュリティサービスを提供し、ユーザーのデータ保護を徹底することで、金融業界全体の持続的な成長とDXに必要なカギとなっており、今後もその重要性は増すことでしょう。
FinTechの課題
国内でも活発化しているFintech市場ですが、重要性が高まるに伴って、次のような課題も表面化しています。
- 法整備の課題
- 先進国からの技術の遅れ
- 不十分なユーザーのデジタルリテラシー
法整備の課題
FinTechの急速な発展に伴い、法整備が重要な課題となっています。
新しい技術やビジネスモデルは、従来の金融規制の枠組みを超えることが多く、これまでの法律のなかでは対応できない問題が生じる懸念があります。適切な法的枠組みの不在は、イノベーションの障害となることも少なくありません。
例えば、暗号資産やブロックチェーン技術に関する規制は、国によって大きく異なります。この違いにより、こうした技術を国際的なビジネス展開していくことに対して不確実性が生まれており、企業は異なる法域に合わせた運用をするために複雑な課題に直面しているのです。
また、データプライバシーとセキュリティに関する法律も、デジタル時代の新しい要求に対応する必要があります。
FinTech企業が扱う情報の重要性を鑑みれば、顧客の安全や市場の安定のために、個人データの保護とセキュリティ対策を強化することが求められることは言うまでもありません。
しかし、現行法では詳細な要件が定められていなかったり、チェック機能が十分でない等の課題があるため、法的枠組みの整備が急務なのです。
時代に合わせた法制度の適切な改正は、ユーザーをしっかり保護しながら、業界内の健全な競争や発展を促していくカギとなります。
FinTech業界は法的な枠組みの整備によって、さらなる成長とイノベーションを実現することができます。
先進国からの技術の遅れ
FinTech業界は技術革新が非常に速い分野ですが、日本ではDX先進国からの技術の遅れが顕著な課題となっています。
この遅れの一因として、日本の消極的な投資姿勢が挙げられます。
ブロックチェーンやAIなどの最先端技術を活用したサービスの開発と導入には、積極的な投資と高度な技術力が必要です。
しかし、日本ではこれらの分野への投資が他の先進国に比べて控えめであるため、技術の遅れが生じているのです。
米国やドイツなどのDX先進国では、金融機関などにおけるブロックチェーンを活用した決済システムの受け入れ態勢が進んでいますが、日本ではこれらの技術の導入が遅れています。
こうした技術の遅れは、国際市場における競争力低下の原因となっているのです。
日本のFinTech業界は、国際競争力を高めるために、迅速な技術導入とイノベーションを推進する必要があるでしょう。
そのためには、それを後押しする政府や民間企業による積極的な投資と技術開発への取り組みが不可欠です。
不十分なユーザーのデジタルリテラシー
FinTechの普及には、ユーザーのデジタルリテラシーも重要な役割を果たします。
デジタル金融サービスは、従来の銀行手続きとは異なるアプローチを取っています。
それを十分に使いこなすため、ユーザーには新しいサービスへの理解と適応が求められますが、デジタルリテラシーが低い層や新しい技術に対する不信感を持つユーザーも少なくありません。
また、セキュリティやプライバシーに関する懸念も、ユーザーのFinTechサービス利用状況に影響を与えています。
一部のツールやサービスでのトラブルが広まることで、ユーザーの中には新しい技術を使うことに抵抗感を覚える人もいるようです。
ユーザーがFinTechサービスを安心して利用できるためには、ユーザー自身のデジタルリテラシー向上が不可欠であり、同時に企業側はそれを推し進める啓発活動が必要となるでしょう。
日本政府が取り組むFinTechと金融業界DXの展望
日本政府はFinTechを活用して、金融業界のDXを推進し経済の活性化を目指しています。
金融庁はデジタルイノベーションを通じて、より利便性の高い金融サービスの創出を目指し、国際シンポジウム「FIN/SUM」や海外の優れたFinTech企業と日本の金融機関とのミートアップを実施しています。
2018年には「FinTech Innovation Hub」が設置され、これまでに以下のような多岐にわたる活動を行ってきました。
- FinTech企業、金融機関やITベンダーとの意見交換
- FIN/SUMやMeetup with FSAなどのイベント開催
- ブロックチェーン国際共同研究プロジェクト
特に暗号資産やWeb3分野では、官民一体となってグローバルリーダーを目指す動きが見られます。
政府は、利用者保護を重視しつつ、エコシステムの健全な発展と金融サービスの向上に貢献するため、最新動向の把握やイノベーションの促進に向けた事業環境の整備を行っています。
ただし、海外FinTech企業とのコミュニケーションの壁を克服し、日本のFinTech市場の成長を促進するためには、国内外のプレイヤーがコミュニケーションを取るための環境整備が必要でしょう。
そして技術の活用と公益性の確保を両立させるために、多様なステークホルダーの協働が重要なのです。
日本経済新聞社と金融庁が共催する日本最大級のフィンテックカンファレンス「FIN/SUM2021」では、「New Paradigm of Trust in Financial Services」と題し、デジタル上の信頼構築に向けた課題について、多様な専門家によるディスカッションの場が設けられました。
また、分散型金融システムの発展に向けて、ブロックチェーンに関する新しい国際ネットワーク「BGIN(Blockchain Governance Initiative Network)」への貢献や、ブロックチェーン国際共同研究プロジェクトが継続されています。
こうした日本政府の取り組みは、日本の金融業界DXの展望を形成し、国際競争力を高めるための重要なステップと言えるでしょう。
まとめ〜金融業界のDXにはFinTechの活用がポイント!
FinTechが金融業界にもたらす変革の概要と、日本政府の取り組みについて詳しく解説しました。
FinTechは、キャッシュレス決済からブロックチェーン、個人資産運用、保険、セキュリティに至るまで、金融サービスのあらゆる側面に革新をもたらしており、日本政府もFinTechを活用して金融業界のDXを推進し、経済の活性化を目指しています。
FinTechの発展には法整備、技術の遅れへの対応、ユーザーのデジタルリテラシー向上など、さまざまな課題をクリアしなければなりません。
こうした課題を克服しFinTechのポテンシャルを最大限に活用することが、金融業界のDXを成功させるカギとなるのです。
企業やユーザーがFinTechの理解を深め、将来の展望を持つことで、ビジネスの新たな可能性を見出すことができれば、日本経済全体の発展も期待できるでしょう。
今後もFinTechの進化と金融業界のDXに注目が集まり、そこにビジネスチャンスがあるのは間違いありません。
ぜひとも積極的にFinTechを活用して、益々変化が激しくなるこの流れから取り残されないよう確固たるビジネスチャンスをつかみ取ってください。