自動車業界では、自動運転や電気自動車などを始めとしたDX(デジタルトランスフォーメーション/以下:DX)が盛んになっています。
今回はそんな自動車業界においてどんな事例があるのか、現時点で見えている課題は何なのか、これらをCASEと呼ばれる4つの項目に分けて解説してまいります。
自動車業界は自動車を単なる「移動手段」としてではなく、社会を巻き込んだスケールの大きいDX施策として取り組んでいるのが特徴的です。
法律や環境問題にも絡んでくる影響力の高い業界で、DXの観点からどのように価値を生み出していくのか、1つのDXモデルとしてお読みいただければと思います。
目次
自動車業界のDXにおける4要素”CASE”
自動車業界全体が取り組んでいるDXは”CASE”といわれる、4つの要素に分類されます。
それぞれの項目について事例や課題を解説してまいります。
- Connected(接続された)
- Autonomous(自動化)
- Shared & Service(共有化)
- Electric(電動化)
Connected~ICT機能の搭載による利便性向上
CASEのCは”Connected(接続された)”という単語で、いわゆる「コネクティッドサービス」と呼ばれるものが該当します。
コネクティッドサービスとは、車にICT(Information and Communication Technology=情報通信技術)機能を搭載させて、周囲の情報を感知して運転手に知らせたり、運転や移動を効率化する機能です。
たとえばトヨタのコネクティッドサービスでは、
- 事故に遭った際にオペレーターが緊急通報してくれる
- 車の駐車位置をスマホで確認できる
- 車が盗難に遭ったら位置情報を追跡する
上記のような機能が搭載されています。
従来は事故に遭った際の対応も、大量の車が止まっている駐車場での車探しも自分たちで行う必要がありましたが、ICT機能を使うことでこうした問題を解決できるのがコネクティッドサービスなのです。
Autonomous~システムによる自動運転
CASEのAは”Autonomous(自動化)”という意味で、自動車のDXと聞いて「自動運転」と思い浮かぶ人がいるほどに、自動車業界が力を入れている分野です。
自動運転が本格化するのは2030年といわれており、現在は実現するための5つステップのうち、レベル2から3の段階まで進んでいます。
【自動車運転実現の5レベル】
- システムが運転および加速・減速どちらかをサポート
- システムが運転および速度調整をサポート
- 場所によってはシステムが全て運転できるが、必要に応じて人の手で運転する
- 特定の場所でシステムが全て運転する
- 場所を問わず完全にシステムが運転する
2021年3月初旬にホンダがリリースした「レジェンド」はこのレベル3を搭載した市販車であり、世界的に見ても公道を走るレベル3の自動運転車はレジェンドが初といわれています。
ただ、場所を問わずシステムが完全運転するためには、法改正も含めた対応が必要なのが実情で、その実現は簡単ではありません。
今後自動車業界や国全体が、自動運転車による事故や責任の所在のルール化とどう向き合っていくのかが気になるところでもあります。
Shared & Service~ユーザーファーストのシェアリングサービス
CASEのSである”Shared & Service(共有化)”も、自動車業界のDXにおける興味深い分野です。
これはいわゆる「シェアリングサービス」のことで、アメリカなど諸外国ではカーシェアだけでなく、配車サービス(送迎用の車の手配をアプリのみで予約・支払いができるシステム)がシェアリングサービスとして大流行しています。
例えばUberというとフードデリバリーのUber Eatsを連想する方が多いと思いますが、もともとは配車サービスから派生したものです。
日本ではタクシーの配車アプリとして一部実装されていますが、海外では一般の人が自家用車を使ってサービスを提供でき、UberやLyftといったアプリの配車サービスは、タクシーより値段が安いため高い人気を誇っています。
【タクシーに対する利用者のストレス要因』】
- 大きな道路に出ても空車のタクシーが見つかるとは限らない
- 空車を見つけたら手を挙げてタクシーを呼ぶ必要がある
- 運転手が悪質だと遠回りしてメーター料金を膨らませる
しかしUberのような配車サービスでは、予約時に目的地をアプリ上で指定して支払もオンラインで完結するため、このような不満は解消されます。
ただ、日本ではこうした配車サービスは法的制限のため、許可を受けたタクシー以外に一般人が運転手として配車サービスを提供することはできません。
今後日本におけるシェアリングサービスがどのように発展していくのかが、海外と比較した着目点の1つです。
Electric~環境に優しい電気自動車
「EV車」と呼ばれる電気自動車は、CASEのEである”Electric(電動化)”として自動車業界のDX施策の一つに挙がっています。
車のCO2排出は世界的にも大きな問題となっており、電気自動車に切り替えることで環境汚染を防ぐことが大きな目的です。
たとえば日産では、航続距離458kmの新型車「リーフ」をリリースしており、電気自動車を使ううえで懸念されるバッテリー不足問題を解消して、さらに乗車中の静音機能などにもこだわっています。
ただ電気自動車に関しては電力の供給が課題となっていて、今後大幅に普及が広がるとエアコンなど電気を大量に消費する夏場は電力不足になるといわれているのです。
そのため、万が一火力発電や原子力発電の稼働が増えるような事態に陥ると「電気自動車を使ってCO2削減」という目的が意味をなさなくなってしまいます。
ガソリン車から電気自動車への切り替えを進めるうえで、電力の供給問題をどのように解決していくかが電動化における大きな課題となっており、DX推進するうえで考えなければいけないことはまだまだありそうです。
自動車業界が目指すのはMaaS
CASEの事例を受けたうえで、自動車業界全体が目指しているのはMaaS(Mobility as a Service=交通機関と通信を組み合わせた移動サービス)を活用した社会です。
MaaSは移動そのものをサービスとして捉えた概念であり、車、タクシー、バスなどを連携して最安で早い移動手段を探せるプラットフォームが基盤となっています。
さらにそのプラットフォームで各交通機関の予約・支払が可能となるため、複数のWebサイトを使って1つひとつ手配をする必要がありません。
現在ではそうした一気通貫の基盤づくりが主となっていますが、MaaSが進むことによって、車の使用は単なる「移動手段」という目的ではなくなるかもしれません。
IT業界では、Appleを始めとしたデジタル分野に強い企業が「『モノ』ではなく『顧客体験』をサービスとして提供している」といわれています。
iPhoneそのものを売るだけではなく、iPhoneのカメラを使って得られる臨場感のある映像や、FaceTimeによって得られるコミュニケーションの面白さなどが顧客体験につながっているということです。
自動車業界も同様に移動そのものをサービスと捉えて、単なる交通手段ではなく自動車による移動から利用者が得られる体験や価値に重きを置くことが、DX推進にあたって必要と考えられています。
まとめ
自動車業界におけるDX事例を、CASEという4つの項目とMaaSに分けて紹介いたしました。
自動車業界のDXは非常に幅が広く、ICT機能などの効率化、シェアリングサービスや電動化などさまざまな業界を巻き込み、都市計画のDXにも絡んでくるスケールの大きい施策が特徴です。
これらのDXが進むことで、それまで私たちにとって移動手段でしかかなかった自動車が、新しい価値を得られるモノになるはずです。
今後自動車業界のDXが社会にどんな影響を及ぼすのか、またCASEの各項目における課題をどのように解決していくのか注目したいところです。