これまで対面でのやり取りが主流だったアパレル業界では、DX(デジタルトランスフォーメーション/以下:DX)を活用していくつもの企業がビジネス変革を成功させています。
その手法は三者三様ですが、成功事例を持つ企業に共通しているのは「DXを取り入れて弱みを強みに変えている」ことです。
今回はアパレル業界の中でも著しい成果を上げた業界大手2社の事例をピックアップして、それぞれの「弱み」と「強み」を取り上げながら、どのように売上拡大を実現したのか紹介いたします。
- 対面接客をオンライン接客へ切り替え業績アップ「アダストリア」
- 在庫管理システムを見直して商品提案機会へと昇華「ABCマート」
デジタルツールを導入するだけでなく、経営の在り方を見直すきっかけとして、自社の弱みを強みに変える参考にしてください。
目次
対面接客をオンライン接客へ切り替え業績アップ「アダストリア」
アパレル業界の大手であるアダストリアは、ローリーズファームやスタジオクリップなど、若年層の女性を主に対象としたファッションブランドを複数展開しています。
もともと対面での接客を強みとしていましたが、コロナ禍で対面のやり取りがしづらくなり、実店舗に足を運ぶ利用者の数は大幅に減っていました。
そんな中でアダストリアが実施したのは、EC(Electronic Commerce=電子商取引)サイトを活用した「オンライン接客」です。
ターゲットのニーズを捉えてオンラインの波に乗る
ファッションを取り扱う実店舗では、利用者は気になる服を試着して着心地やサイズを確かめますが、ECサイトで購入する場合は商品を手に取ることができません。
アダストリアはそうした問題を解決するために、「.st(ドットエスティ)」「STAFF BOARD」というECサイトの構築と、SNS運用を開始しました。
他のファッションブランドが提供するECサイトとは違い、アダストリアのスタッフ自身が商品を着用した写真をSNSにアップすることで、実際に商品を手に取れなくても利用者の購買意欲を向上させることを狙いとしています。
またオンラインで販路を拡大することにより、実店舗以上の潜在顧客にアプローチすることも狙いの1つと考えられます。
ECサイトやSNS運用はスタッフが自宅にいながら実施できるため、IT技術を用いた「オンライン接客」を実現し、DXの観点から見たビジネスチャンスの創出につながっているのです。
オンラインの接客を実施し前年より大幅な売上増に
アダストリアが実施したオンライン接客は、対面でのやり取りが規制されるコロナ禍でも大きな成果を生むことになります。
ECサイト上にスタッフが商品を着用している写真を投稿することで、サイズ感や着用時のイメージがしやすくなり、オンライン経由で商品を購入する際の懸念を払拭することが可能です。
さらに、若年層の女性が積極的に利用しているSNSの1つであるInstagramを活用し、リアルタイムの接客を開始したことで、購買意欲がある利用者への質問回答なども試みています。
結果として、アパレル業界はコロナ禍で厳しい状況だったにも関わらず、アダストリアは前年に比べて16%の売上拡大に成功しました。
このケースは「コロナ禍による対面接客機会の減少」という弱みを「ターゲットのニーズを捉えたオンライン接客」という強みに変えたDXの成功事例です。
在庫管理システムを見直して商品提案機会へと昇華「ABCマート」
有名ブランドのスニーカー販売などで知名度の高いABCマートも、DXを活用して売上拡大につなげた企業の1つです。
利用者が靴を買う際は試着をすることが多く、その都度スタッフが店舗の奥に入り在庫を探したり、パソコンを使って他店舗の保有数を見たりすることに時間がかかっていました。
在庫探しが長引くと利用者が店を出てしまうこともあり「時間がかかる」という課題を解決するために導入されたのが、スマートフォンで即時在庫探しができるアプリです。
アプリの導入により即時在庫確認が可能に
スタッフが接客時に携帯するスマートフォンに在庫確認のアプリを導入することで、利用者を待たせることなく、その場で希望商品の有無を見られるようにしたのです。
これまで数分かかっていた時間を10秒ほどに短縮する、即時在庫確認のシステムを作ったことにより、利用者の待ち時間を短縮しスムーズに購買を促すことが可能となりました。
またアプリでは自店舗だけでなく他店舗やオンラインの在庫も検索できるため、在庫探しの時間を短縮するだけでなく、ビジネスの機会損失をなくす仕組みが出来上がっています。
たとえば、自店舗に該当する商品や適したサイズがない場合は、利用者の自宅への配送など代替案を申し出て近日中に配送する。
もしくは、都市部の支店が集中するエリアであれば、近隣店舗の在庫を確認して該当商品があったら即座に取りに行くことが可能です。
さらに該当する商品が売り切れの場合、色違いの靴や似たタイプの別商品を見せることもでき、利用者の購買意欲を削ぐことを防ぎつつ売上に結び付ける確率を高めています。
このようにABCマートは、今まで取りこぼしていたビジネスチャンスを確保し、新たな提案機会に変えることで大幅な売上拡大を実現したのです。
バリエーション豊富な商品を強みとして押し出す
ABCマートのケースでは「取り扱い種別が多いから在庫探しに時間がかかる」という弱みを、スマホでスタッフが顧客の前でリアルタイムで管理することにより、「豊富な在庫から最適商品を提案する」という強みに変えています。
DXにおいてビジネスチャンスを確実にするためには、自社にとっての弱みと強みを正確に把握することが必要だとわかる事例です。
まとめ
アパレル業界におけるDX事例を見ながら、企業における弱みを強みに変えるための考え方を解説してまいりました。
- コロナ禍で対面営業の弱さを「オンライン接客」という強みに変えたアダストリア
- 膨大な在庫があるがゆえの機会損失を「即時の在庫確認による新たな商品提案」へ変えたABCマート
この2例から分かるのは、社会が不況に陥っている中でも自社の弱みを正確に把握し、課題を解決することで成果を出すのは可能ということです。
そのためには、いかに自社の持つ弱みを客観的にとらえ、DXにより強みへと変換して新しいビジネスを創出するかが鍵となります。
DXを実施しても成果につながらない場合は、繰り返し「自社の弱みをどう強みに変えるか」を問うことが、現状を打破するヒントになるのです。
ぜひアパレル業界の事例を自社のケースに置き換えていただき、DXを使って強みを押し出す戦略を立案していただければと思います。