航空券のデジタル化など、航空会社においてもDXは着実に進歩を遂げています。
ただ、海外と比較するとデジタル化が遅いといわれており、今回の記事では実際にどのような事例があるのか詳しく紹介していまいります。
航空会社ではDXを「ユーザーファースト」の視点で進めている部分が大きく、海外と国内の違いも含めてDXにおける顧客視点の在り方を学んでいただければと思います。
目次
国内の航空会社のDX事例
まずは国内の2大航空会社であるANA、JALのDX事例について紹介します。
航空会社においてはどちらもMaaSに取り組んでいる点が特徴的で、今後は電車やタクシーなど公共交通機関との連携サービスに注目したいところです。
- 公共交通機関と連携したMaaS
- 顔認証システムの実装
- 手荷物返却時間の可視化
公共交通機関と連携したMaaS
ANAとJALは両社ともMaaS(Mobility as a Service:交通機関と通信を組み合わせた移動サービス)を始めとした、DXの取り組みを進めています。
従来、利用者が飛行機に搭乗するためには、バスや電車などの交通機関を使って空港に向かいますが、快速列車やバスのチケットは航空会社では手配できません。
MaaSを使えば、航空券だけでなく空港に行くまでのタクシーの手配や快速列車のチケット購入などが、一つのプラットフォームで行えるようになるのです。
そのためにJR東日本を始めとした公共交通機関との連携を進めており、MaaSのサービスが実現すれば、航空会社のDXには大きな進展が訪れたといえます。
顔認証システムの実装
ANAでは空港における顔認証システムの実装も進めています。
現在はイミグレーション(入国審査)において、成田や羽田の入国ゲートでは日本人はパスポートを鏡面に設置すれば顔認証をして入国できるようになっていますが、このシステムを保安検査場や搭乗口でもできるようにするという施策です。
空港の入出国の際はどうしても待ち時間が長くなり、混雑時は列が長いために数時間に及ぶことも考えられます。
そうした問題の解決につながるのが顔認証システムであり、ユーザーの利便性向上につながるDXの大きなステップといえるでしょう。
手荷物返却時間の可視化
JALはNECと共同で手荷物の返却時間がアプリで可視化できるシステムを開発しています。
サービス利用のためには事前にマイレージクラブに登録して、空港にあるシステムと連携しているディスプレイで個人認証をする必要がありますが、ディスプレイで認証が済むと登録しているアプリ上に手荷物の返却時間が表示され、目安の時間が確認できるというものです。
長時間の搭乗の後に荷物がなかなか返却されず、イライラする思いをしたことがある人も多いのではないでしょうか。
現在このシステムはJALとNECが協力して和歌山県の南紀白浜空港で利用できますが、全国的に広まれば、手荷物返却の待ち時間のストレスを抑えることが可能になるはずです。
日本と比較した海外の航空会社のDX事例
日本の航空会社はDXが遅れているといわれていますが、果たしてそうなのでしょうか?
上記の通り、国内の航空会社はDX施策を推進していますが、海外では既にDXから生まれたサービスを実働させている例や、早くからデジタル化に着手している空港もあります。
日本の航空会社は海外より遅れているといわれるのは、以下のような試みがされていないことが原因と考えられます。
- SNSを使った顧客との密なコミュニケーション
- 顧客の情報を活用したマーケティング戦略
- 空港や機内におけるデジタル技術の活用
SNSを使った顧客との密なコミュニケーション
まず海外では、SNSなどを使った顧客とのコミュニケーションを図っている航空会社が多く見受けられます。
たとえばKLMオランダ航空では、災害を機に利用者とのコミュニケーションの場をSNSに広げ、WhatsAppやFacebookメッセンジャーなどで24時間問い合わせを受け付ける体制を構築しているのです。
その他にもLinkedin、YouTube、PinterestなどのSNSも積極的に活用しており、顧客との密なコミュニケーションを取ろうとしている様子がうかがえます。
一方で日本の航空会社は、自動チャットボットなどのAIが対応するシステムはあるものの、問い合わせはメール・電話などが主流であることが現状です。
最近ではSNS上で情報検索をする人がいるほど、ソーシャルメディアの利用は大きな広がりを見せています。
そうした流れに乗ることで、DXの発端となる顧客のニーズをくみ取れるかどうかが変わってくるといえるでしょう。
顧客の情報を活用したマーケティング戦略
また顧客情報を活用してマーケティングに活かしているかどうかも、国内と海外の航空会社の大きな違いです。
先ほどのKLMオランダ航空では、ユーザーのフライト時間や目的地などの情報をもとにして、最適な航空券のプランを提案することを試みています。
通常は払い戻し可能な航空券や搭乗日時の変更が可能なプランはユーザー自身が選択する必要がありますが、顧客の利用用途に応じて希望に近い商品を提案してくれるという機能です。
このような個人の要望を汲んでニーズに応えることを「パーソナライゼーション」といい、DXにおいて重要となる「ユーザーファースト」に基づいて本施策を推進しています。
さらにKLMオランダ航空は、他社との差別化のために
- エモーショナル
- 人間性
- 感情に訴えかけるサービス
これらを取り入れたシステム開発に取り組み、DXをうまく導入しながら人の心を打つようなサービス開発を行っています。
DXというと「デジタル化」「非接触」を進めるイメージがありますが、そうした技術の活用を進めつつ、人の心を動かすような取り組みを融合させている希有なDX事例でもあるのです。
こちらも日本の航空会社にはない、顧客の満足度を高める画期的な取り組みといえます。
空港におけるデジタル技術の活用
国内の航空会社はデジタル技術の活用してDX事業を始めていますが、海外では既にサービス提供が始まっているところが多くあります。
たとえば、アメリカのデルタ航空では手荷物の預け入れカウンター、搭乗ゲート、入国審査などに顔認証のシステムを導入しており、既にアトランタやニューヨークなどでセルフチェックインを可能にしています。
日本においては国外からの到着時に、イミグレーションで顔認証ができるようになっていますが、ここまでのシステムの普及はできていません。
こうした認証システムの普及状況も、日本の航空会社が海外より遅れているといわれる理由の一つと考えられます。
まとめ
国内の航空会社の代表であるANA、JALのDX事例と、DX進捗という面から見た海外との比較について解説いたしました。
ANAやJALでのDX事業は着実に進んでいますが、海外と比べるとまだまだデジタル技術を導入できる見込みはあると考えられます。
特に欧米ではテロなどの危機に直面したからこそ空港における顔認証システムの実装が進んでいるといえますが、日本は諸外国に比べるとそうした危機的意識が低いとも捉えられます。
「日本のDXが海外より遅れている」といわれる理由の一つとして、こうした危機感が欠如していることが挙げられるのではないでしょうか。
何かあってからではなく、事件が起きる前にリスクヘッジとしてDXを活用したシステムを導入することが、どの業界においても必要です。
ニューノーマルで飛行機に乗る機会はめっきり減ってしまいましたが、現在の状況を乗り越えたあとは国内外を行き来する人が増えて、これらのDX推進の効果がより一層発揮されるはずです。
現在は難しい状況ではありますが、利用者が増えるまでにどれだけDXに取り組めるかによって、今後の航空業界の未来も変わってくるといえるでしょう。