テクノロジーが急速に進化している現代社会では、デジタルデバイスの活用が日常生活に深く根付いています。
生活の利便性が向上する一方で、スマートフォンやPCの利用時間の増加は、睡眠不足やメンタルヘルスへの悪影響といった新たな課題を引き起こしています。
こうした状況下で注目されているのが「デジタルウェルビーイング」です。これは、テクノロジーの利便性と心身の健康のバランスを取り、より健全で持続可能なデジタルライフを追求する取り組みを意味します。
デジタルウェルビーイングは、単にデバイス使用を制限するのでなく「個人や企業がどのようにテクノロジーと向き合うか」を考えるための視点を提供しています。
デジタルの利用を加速させるDX(デジタルトランスフォーメーション)戦略のなかに、この視点を取り入れることで企業は従業員の健康を支援し、また顧客との持続的な関係を構築する新たな戦略を見出すことが可能になるのです。
世界では、こうした取り組みがますます加速しており、特に欧米諸国ではデジタルデトックスの実践やデジタルデバイスの使用ガイドラインが普及しています。
本記事では、日本におけるデジタルウェルビーイングの現状と課題を明らかにするとともに、SNS依存や「ながら視聴」などの実態を分析し、その対策としての具体的な実践方法を紹介します。
DXがもたらす社会の変化の中で、個人と企業がどのようにして心身の健康を保ちながら、持続可能なデジタルライフを実現できるのか。本記事を通じて、読者の皆さんが健全なテクノロジー活用を考える際のヒントを提供できれば幸いです。
目次
日本におけるデジタルウェルビーイングの現状
デジタル社会が急速に発展する中、日本でもスマートフォンやPCの利用が日常生活に深く浸透しています。
多くのビジネスパーソンは通勤時にスマホ、オフィスワークの際にはPCに触れており、仕事の後にもなんらかのデジタルデバイスを利用しています。現代人は、1日の多くの時間がデジタルデバイスに依存しているという指摘は、多くの読者にとっても当てはまるでしょう。
この状況は我々の生活に利便性をもたらす一方で、SNS依存などの課題も浮き彫りにしています。特に若年層における「ながら視聴」や深夜のデバイス使用は、睡眠不足や生活リズムの乱れを引き起こし、心身の健康に悪影響を及ぼすリスクがあります。
このような状況は世界中で問題になっていますが、日本は他の先進諸国に比べてデジタルウェルビーイングへの取り組みが遅れていると指摘されています。
欧米諸国では、企業や教育機関が率先してデジタルデトックスやデジタルデバイスの使用ガイドラインを導入している一方で、日本ではこうした取り組みはまだ限定的です。今後は個人が意識して依存状態にならないようにするだけでなく、企業や社会全体が協力して、健全なデジタル利用を促進する必要があるでしょう。
そのために、デジタルデバイスの利用実態を把握し、心身の健康を守るための具体的な対策を検討することが急務となっているのです。本章では、日本のデジタルウェルビーイングへの取り組みの現状についてさらに詳しく探ります。
スマホ・PC利用の実態と課題
日本社会では、デジタルデバイスの使用時間が年々増加しており、スマートフォンやPCの利用が生活の中心に位置するようになっています。
例えば、総務省の調査によると、2018年から2022年の5年の間に、日本全体におけるスマートフォンによるインターネット利用時間は平日1日あたり72.9分から113.3分に約1.6倍も増えていると報告されています。特に若年層ではその傾向が顕著です(参考:増え続けるモバイル機器の利用時間/総務省)。
特に夜間にかけての使用が増えており、睡眠の質を低下させる一因となっています。
また、リモートワークの普及によってPCの使用頻度も増加しています。これまでは対面で行っていた会議や商談などが画面の上でおこなわれるため、スクリーンタイムが増加しています。
これらの状況は、心身の健康において新たな課題を生んでいるのです。
SNSと動画視聴依存の傾向
スマホの利用時間の長期化に関連して、SNSや動画コンテンツへの依存は、日本社会全体で深刻な問題となりつつあります。特にYouTubeやTikTok、Instagramの普及によって、若年層を中心に長時間にわたる「ながら視聴」や深夜の閲覧が増加しています。
この傾向は、生活リズムの乱れを引き起こし、ストレスやメンタルヘルスの悪化を招くリスクの高まりにつながっていると言ってよいでしょう。
さらに、SNSの過度な使用は、人間関係の摩擦や孤独感を助長する要因にもなり得ます。例えば、他人の成功や幸福をSNSで見続けることにより、自身と比較して自己評価が低下したり、不安が引き起こされる「SNS疲れ」が、大きな社会問題となっているのです。
世界との比較:遅れる日本の取り組み
日本は、デジタルデバイスの普及率や利用時間は世界の中でも高い一方で、デジタルウェルビーイングに関する取り組みでは欧米諸国に遅れを取っています。
例えば、アメリカやヨーロッパでは、すでに多くの企業が従業員のデジタル利用を適切に管理するためのガイドラインやデジタルデトックスの取り組みが進んでいます。
一方、日本ではこうした取り組みは限定的であり、企業や教育機関による啓発活動が求められています。特にリモートワークにともなうスクリーンタイムの増加のように、仕事上避けられないデジタルの利用が広がっているなかにおいては、企業は従業員のデジタル利用を適切に管理し、健康的な働き方を促進する責務があるのです。
デジタルウェルビーイングと心身への影響
これまで見てきた通り、現代社会では、スマホやPCをはじめとするデジタルデバイスが生活の中心となり、利便性をもたらす一方で、心身への負荷が深刻な課題となっています。本章では、これらの課題をより具体的に解説します。
メンタルヘルスへの影響
長時間のスクリーンタイムは、集中力の低下、慢性的な疲労感、ストレスを引き起こします。特に、寝る前にスマホを使用することで、ブルーライトが睡眠の質を低下させ、睡眠障害や睡眠不足を招くことが明らかになっており、厚生労働省なども警鐘を鳴らしています。
SNSへの依存も深刻な問題で、他者との比較によって孤独感や自己肯定感の低下が生じることがあり、うつ病や不安障害のリスクを高める可能性があります。
さらに、通知音や新着情報のチェックが癖になり、注意散漫を引き起こし、集中力の維持を阻害しかねません。
身体への影響
PCやスマホを使った長時間作業は、眼精疲労や姿勢の悪化を引き起こし、肩こりや腰痛の原因となるほか、筋肉の緊張が続くことで慢性的な身体の不調につながります。特にリモートワークでは、オフィス環境と異なり姿勢をサポートする設備が不十分な場合も少なくなく、これらのリスクが高まる可能性があります。
さらに、スマートフォンやパソコンを長時間使用することで、首の自然なカーブが失われ、首がまっすぐ伸びてしまう状態である「ストレートネック」、通称「スマホ首」にもつながります。スマホ首は頭痛、吐き気、しびれなどの症状を引き起こす可能性があるとして、深刻な現代病とも考えられています。