2021年9月1日、行政デジタル改革の司令塔となるデジタル庁が発足しました。
菅前首相の肝いりで設立へと至ったデジタル庁ですが、なぜわざわざ新しい省庁を立ち上げるに至ったのでしょう。
デジタル庁発足の背景とその目的を探ることで、民間企業のDX推進における重要なポイントも見えてきます。
今回は、デジタル庁発足の背景と目的を3つのポイントにしぼって解説。
さらに、そこから民間企業のDX推進に対する5つの学びをご紹介しますので、中小企業の経営者・DX担当者は参考にしてみてください。
目次
デジタル庁発足:3つの背景
2020年12月、政府は「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」を策定し、ポストコロナの新しい社会を目指すデジタル改革推進への指針を示しました。
その目玉の1つとして考えられたのが、デジタル庁の設置です。
2021年2月に「デジタル庁設置法案」が閣議決定され、同年9月1日にデジタル庁が発足する流れとなりました。
政府がデジタル庁を発足させた狙いとしては、デジタル・ガバメントへの取り組みを加速させたいという思惑があるようですが、そこへ至る背景を分析すると、主に次の3つに集約されます。
- 電子政府ランキングの後退
- 機能しないマイナンバーカード制度
- 縦割り行政の弊害
デジタル・ガバメントの定義を押さえたうえで、それぞれについて詳しく見ていきましょう。
デジタル技術の徹底活用と、官民協働を軸として、全体最適を妨げる行政機関の縦割りや、国と地方、官と民という枠を超えて行政サービスを見直すことにより、行政の在り方そのものを変革していくこと、すなわち、デジタル社会に対応したデジタル・ガバメントの実現が、我が国が抱える社会課題を解決し、経済成長を実現するためのカギとなります。
デジタル・ガバメント概要
引用:政府CIOポータル【デジタル・ガバメント】
電子政府ランキングの後退
国連の経済社会局(UNDESA)は、2年ごとに国連加盟国政府の電子化の状況を調査して報告書「E-Government Survey」にまとめています。
報告書では、各国の電子政府開発の進捗状況がいくつかの指標をもとにランキング化されているのですが、2014年は6位であった日本は、2020年には14位まで後退しました。
他の先進国と比較して、DX後進国とも揶揄される日本ですが、この結果は日本の取り組みが進んでいないというよりも、ランキング上位各国の取り組みスピードが早く、日本の成長速度を遥かに凌駕しているというのが実情です。その結果、ランキングにおける日本の順位が相対的に後退してしまっているのでしょう。
機能しないマイナンバー制度
デジタル庁発足の2つ目の背景は、マイナンバー制度の普及・活用が遅れている点にあります。
新型コロナウイルス蔓延に伴って全国民に10万円給付を行った際にも、マイナンバーを活用したオンライン申請が試みられましたが、結果的には遅延が見られたことは記憶に新しいでしょう。
マイナンバーカードに銀行口座がタグ付けられるなど、制度が整って入いれば、政府の計画通り給付が進んだのかもしれません。
しかし、マイナンバーカード内の個人情報を行政機関から自治体へ情報連携する事が法律で禁止されているなど、マイナンバー制度は様々な制約があります。これらの法的な制約が、マイナンバー制度自体の進化とマイナンバーカードの普及率向上の足かせとなっているといえます。
縦割り行政の弊害
そして、デジタル庁発足の背景として、もっとも重要視されるのは省庁ごとの縦割り行政の弊害です。
現行の仕組みでは、各省庁が保有するデータはそれぞれ個別に蓄積・管理されており、横断的なデータベースでの一元管理はなされていません。
「連携」が苦手な日本の官庁では、省庁間の覇権争いや法規制等が足かせとなり、組織をまたいだデータ活用やプラットフォームの構築が進まず、非効率的なシステムとオペレーションが続いてきました。
そんな縦割り行政を打破するために、内閣内にデジタル庁を創設し省庁ごとのサイロ型(縦構造)ではない、省庁間を横断する行政のDXを目指すというのがデジタル庁設立の最大の目的です。
元々、このような非効率的な仕組みが放置されてきた原因の根幹は、各省庁がユーザー(国民、民間企業)にとって使いやすいシステムを目指すのではなく、各省庁、ひいては政府にとって都合の良いシステム開発を続けてきた事にあります。
しかし、時代の要請であるデジタル・ガバメントを実現するにあたっては、ユーザビリティ意識が鍵となることは間違いなく、ついに日本政府もユーザーに目を向けたデジタル政策に移行しようとしています。