データ民主化で実現するDX推進の新たなステージ |成功企業に学ぶ実践アプローチ

データ民主化で実現するDX推進の新たなステージ |成功企業に学ぶ実践アプローチ

先進企業の事例紹介

先進企業の事例紹介

本章では、データ民主化の取り組みを具体的に理解するため、製造業と住宅・建材業界からそれぞれ先進的な事例を2社紹介します。

異なる業種ではありますが、どちらも独自のアプローチでデータ民主化を推進し、「人材育成」「組織体制の整備」「文化の醸成」に取り組んだという共通する重要な要素があることがわかります。

ヤマハ発動機|データ民主化で実現するスマート工場

世界的な二輪車・マリン製品メーカーであるヤマハ発動機株式会社は、2017年からDXを本格的に始動させ、製造現場から営業、マーケティングに至るまで、データサイエンス技術を活用した事業変革を推進しています。

同社のデータ民主化への取り組みで特筆すべきなのは、2018年に設立されたデジタル戦略部の役割です。

CoE(Center of Excellence:中核的研究拠点)として位置づけられたこの部門は、社内に分散していたデータを統合し、製造・マーケティング等の事業領域における迅速な意思決定を支援しています。

特に注力したのが人材育成です。データ分析官の研修として、1日8時間×20日間にわたるブートキャンプ形式の集中研修を実施しました。

研修の主な内容は以下の通りで、いずれも基礎を習得するものです。

  • Python:データ分析に必要なプログラミングスキル
  • SQL:データ抽出・加工に必要なデータベース操作スキル
  • 統計解析:データ傾向やパターンを分析し、説明するスキル
  • 機械学習:データから自動的に学習し、予測・判断を行うスキル

これらの基礎を学ぶ機会を通じて、2019年には29名が研修に参加し、そのメンバーの力で18件のデータ分析プロジェクトを生み出しました。

さらに、データ民主化の取り組みは「CoE駆動型」から「現場/CoE協働型」へと進化。現場の実務担当者が日常的にデータを分析する文化の醸成を目指し、ノンコーディングのデータ分析ツールの整備やオンライン研修の拡充を進めたのです。

その結果、開発・製造部門だけでなく、営業、事務系の従業員まで幅広い層がデータ活用に参画できるようになり、年間400名以上が研修に参加するまでに成長しています。

具体的な成果としては、製造現場における鋳造工程でのデータ活用が挙げられます。従来は経験則に頼っていた品質管理を、データ分析により定量的に可視化。不良品が製造される予兆を捉え、良品製造の条件を導き出すことで、品質向上と効率化を実現しました。

ヤマハ発動機の事例は、データ民主化がDX推進の重要な基盤となることを示しています。

全社的な推進体制の構築、段階的な人材育成、現場主導の文化醸成という3つの要素が、成功の鍵になったと言えるでしょう。

LIXIL|データ民主化による従業員主導の変革

住宅・建材業界大手の株式会社LIXILは、従業員1人ひとりが自ら考え行動する新しい企業文化の醸成を通じて、全社的なDXを推進しています。

同社のデータ民主化への取り組みの特徴は、「市民開発者」の育成にあります。従来、アプリケーション開発は専門部署に依頼する必要がありましたが、ノーコード/ローコードツールを導入することで、現場の従業員が自らアプリを開発できる環境を整備しました。

特に注目すべきは、制度面での工夫です。従業員によるアプリ開発を正式な業務アプリとして承認する前に、CoEチームによる審査を設けることで、他のアプリとの重複やセキュリティリスクの有無などを確認するプロセスを確立したのです。

これにより、現場の力による開発を後押ししつつ、企業全体でのアプリの管理やセキュリティ面を担保することができる体制が整い、その取り組みの成果として、業務改善のためのアプリ開発が活発化しました。

例えば、毎朝行っていた店舗の開店前点検では、前日からの課題対応状況やアルコールチェックを一括管理できるアプリが開発され、業務効率の大幅な改善を実現しました。

この例のように、同社では、多様な職種の業務の課題を最もよく知る現場の従業員が、自らの創意工夫で解決策を見出していく新しい働き方が根付きつつあります。

このような「現場駆動型」のDXを実現できた背景は、トップダウン型の改革ではなく、従業員が中心となって変革を進める企業文化が育ってきた結果だと言ってよいでしょう。

従業員同士が活発にコミュニケーションを取り、互いの課題や経験を共有し、自発的なチャレンジを後押しする組織風土が、デジタル民主化の成功を支えているのです。

LIXILの事例は、デジタル技術の民主化が、単なる業務効率化にとどまらず、従業員の主体性を引き出し、新しい企業文化を創造する原動力となることを示しています。

まとめ~データ民主化で組織を変革しDXを推進させよう!

データ民主化によるDX推進は、もはや選択肢ではなく必須の経営課題です。

本記事で紹介した以下4つのステップは、着実な進展のための重要な道筋を示しています。

  1. 現状分析とゴール設定
  2. 推進体制の整備とツール選定
  3. パイロットプロジェクトの実施
  4. 全社展開と定着化

また、ヤマハ発動機とLIXILの事例からは、この段階的アプローチに加えて、成功に導くための重要な要素が見えてきました。

  • 全社的な推進体制の構築:専門組織(CoE)の設置と、現場とのスムーズな連携体制の確立
  • 継続的な人材育成:ブートキャンプ形式の集中研修から、より気軽に参加できるオンライン研修まで、現場の状況に応じた多様な学習機会の提供
  • 組織文化の醸成:トップダウンではなく、現場の従業員が主体的にデジタル技術を活用し、業務改善を進めていく文化の定着

これらは、特に第4ステップの「定着化」において重要な要素となります。

完璧を求めるあまり立ち止まっていては、デジタル時代の競争から取り残されてしまう可能性すらあるでしょう。まずは自社の現状を正確に分析し、無理のない形でスタートを切り、4つのステップに沿って着実に前進していくことが大切です。

データ民主化という新しいステージへ、計画的かつ戦略的に歩みを進め、貴社のDX推進を加速させましょう。

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