【化粧品業界のDX事例】対面販売方式の改革とデータ活用の可能性【ブランド戦略】

【化粧品業界のDX事例】対面販売方式の改革とデータ活用の可能性【ブランド戦略】

昨今、新型コロナウイルスの蔓延を契機に対面販売の在り方が大きく変化しています。化粧品業界でも例外ではありません。

対面販売が困難になった結果化粧品メーカーや販売店は大きな打撃を受けました。

先の見通せないコロナ禍において、このまま対面販売に固執しても売上の低下は避けられず、今までのやり方に固執していては化粧品業界の存続自体が危ぶまれる可能性すらあるのです。

そんな逆境の中でもDX推進を積極的に行い、対面販売に頼り切らない営業戦略を打ち立て、新たな価値創出を模索している企業があります。

今回は、化粧品業界のDX推進を阻む要因を解説しながら、それを乗り越えて新たなビジネスモデルを確立しようとしている企業のDX推進事例をご紹介します。

化粧品業界に限らず、対面販売を行う店舗型ビジネスにとっても参考になる点があるかと思いますので、ぜひ貴社のDX推進の戦略策定にお役立てください。

化粧品業界のDX推進を阻む要因

化粧品業界のDX推進を阻む問題点

そもそも、なぜ化粧品業界のDXは進んでこなかったのでしょうか?その一番の理由は製品の特性にあります。

多くの場合、顧客が新しい化粧品を購入する際には、店頭で事前に商品を見て、触れて、実際に使ってみるといったテストが必要でした。

自分の肌や髪の色、顔のパーツの位置や大きさ、肌質を総合的に判断し、自分に合う化粧品を見つけ出すためには実際に試してみるしかないのです。

また、美容のプロである販売員から自分にあった商品や使用方法のアドバイスを受けられることは、店頭で化粧品を購入する大きなメリットでした。

このように、対面販売はこれまでの化粧品業界において必要不可欠な販売方法だったのです。

ドラッグストアなどいわゆるメーカー系販売店のように対面販売を実施していない店舗でも、テスターが用意してあり購入前に化粧品を試してみることが可能なケースがほとんどでしょう。

これは化粧品という製品が、香りや色味、さらに肌感といった手にしてみないと分からない情報を多く含む商品であるがゆえに、直接触れる・説明を受けるという体験が重視されているためです。

この化粧品ならではの性質は、画像などでイメージを伝えることが比較的容易な洋服やバッグ、アクセサリーと大きく異なる点で、これまでECサイトなどでの化粧品の販売を困難にしていた最大の要因でした。

すでに購入した商品をリピートする場合ならまだしも新たな商品を手に取る際は、オンラインではなく実店舗で購入する顧客が多かったのです。

コロナ禍で制限される化粧品の対面販売

コロナ禍で制限される化粧品対面販売

そもそも対面販売とは、化粧品販売業界でこそ威力を発揮する販売方法です。

【対面販売とは】

(英)face-to-face selling

対面販売とは店員が顧客と対面し商品の説明をしながら販売する販売方法のことをいう。代表的なものに化粧品の美容部員がカウンセリングを行いながら販売する販売方法がある。

引用:ブランド戦略通信/対面販売とは

対面販売といえば化粧品業界といわれるほど、これまでの化粧品業界において対面販売は当たり前のように行わてきた販売手法であり、販売するメーカーや小売店にとっても購入する顧客にとっても、必要性の確認や新たな販売方法の検討すらほとんど行われていなかったのではないでしょうか。

しかし、コロナ禍による外出自粛の要請や店頭販売の制限、さらには感染リスクを避けようとする顧客側の意識の高まりもあり販売店への来店は減少しています。

また、店舗によっては営業時間そのものが短縮され、これまでのような売上の確保が困難となりました。

こうした状況下では、従来どおり対面販売でのセールスを続けていく事は困難です。

それにも関わらず、化粧品業界の多くは対面販売の機会を縮小しながらも継続し、なんとかコロナ禍を耐えきろうとしているように見えます。

そこに既存のビジネスの常識を覆すイノベイティブな発想や取り組みはほとんど見られません。

こうした緊急事態においても、従来型の販売方式である対面販売にこだわり続けてしまうマインド自体が、化粧品業界のDX推進を妨げるもっとも重要な要因だということもできるでしょう。

メーカーに共有されない販売店の顧客データ

メーカーに共有されない販売店の顧客データ

既存の販売方法に固執する姿勢に加えて、化粧品業界のDX推進を妨げる大きな問題に顧客データの管理体制があります。

化粧品業界においては業界的な慣習として、顧客データは販売店(主として直営店以外の店舗)が直接管理する仕組みになっている場合が多く、個人情報や購買履歴情報がメーカーに共有されないという問題がありました。

DM送付やキャンペーン等も各販売店ごとに独自に行なわれており、販売店と顧客は繋がっていても顧客とメーカーが結びついておらず、真の意味での顧客データ蓄積ができていないのが現状です。

この顧客データの管理体制の問題を浮き彫りにしたのが、コロナ禍の影響で相次いだ店舗の閉店でした。

データが共有されていなかった結果、販売店が閉店する際に既存の顧客に向けて系列店舗やECサイトの案内が出来なかったのです。

これにより店舗の閉店に伴って、大切な顧客データの多くを失ってしまいました。

DX推進においては業務のデジタル化と同時に、データの「活用」が大きなテーマとなっています。

その前提となるデータの「共有」や「蓄積」が出来ていないというのは、大きな問題だと言わざるを得ません。

直販ECサイトに対する販売店の反発

直販ECサイトに対する販売店の反発

顧客データの管理体制に危機感を持った大手化粧品メーカーは、顧客情報を一元管理するために自社の直販ECサイトを通じたダイレクトマーケティングに取り組んできました。

しかし、この取り組みは販売店の反発を招きます。

販売店は、ECサイトの拡大を図るメーカーのアプローチが店頭で購入する顧客の減少につながるのではないかと警戒感を強めていました。

そうした中、実際にとあるメーカーが顧客向けに行なったプロモーションで問題が発生しました。

販売店では商品の定価販売が義務付けられているにも関わらず、メーカー側が直販ECサイトプロモーションの一環として最高級ラインの化粧品を特別キャンペーン価格でセット販売したのです。

これに対して「メーカーが独自に行ったプロモーションは、販売店側には禁止されている値引きに当たるのではないか」という苦情が販売店から寄せられ、メーカーのCEOが販売店に向けてお詫び状を送るという異例の事態を引き起こしました。

このように、メーカー側が顧客情報の一元管理を目指してECサイトに力を入れても、メリットが得られないどころか販売店からの反発を招く可能性さえあるのです。

対面販売方式の改革とデータ活用の可能性

化粧品業界のDXはどう推進すれば良いのか

それでは、コロナ禍で対面販売が直面している壁やデータの管理・活用に関する問題などを解決するためには、どのように化粧品業界のDXを進めていけば良いのでしょうか。

前章で解説した現状の化粧品業界が直面している課題を改めて整理すると、以下のようになります。

  • コロナ禍で対面販売が困難であること
  • 販売店の顧客データがメーカーと共有されていないこと
  • メーカーのECサイト上での販売活動に対して販売店の反発があること

これらを解決するためには、以下のようなDXを進めていくことが望まれます。

デジタル技術によるバーチャル店舗の構築

今まで、非対面販売では実現できないと考えられてきた『化粧品に触れて試す』という体験の提供。この壁を乗り越えるには、AI等のデジタル技術を用いたバーチャルメイクといったソリューション導入が考えられます。

現在の技術では香りや触感をバーチャルで体験させることは困難ですが、顔写真をアプリに取り込むことで、まるで対面販売を行なっているかのようなメイク体験を提供することは可能です。

オンラインで化粧品を試し自分の顔に合うかを試すことができれば、新しい商品のオンライン購入に対するハードルを一気に下げることができるでしょう。

顧客データの一元管理・分析・活用

メーカーと販売店が提携し顧客データを一元管理することで、どのような顧客層に何の商品がどれぐらい売れているかといった傾向分析を行うことが可能になります。

こうしたデータアナリティクスの体制を整えることはDX推進の第一歩です。

ただし、データの一元管理によるメリットを「メーカーと販売店の両者が享受できる仕組みがいかにして構築できるか」が重要なポイントとなってきます。

メーカーによる販売店からの情報搾取にならず、両者がwin-winとなるデータ活用の方法を検討するべきでしょう。

販売店とメーカーによるECサイトの取扱商品の棲み分け

将来的には、顧客データを活用して既存のビジネスモデルに捉われない抜本的な改革を断行し「新たな価値」の創出を目指していくべきですが、その前段階としてデータ収集や顧客の利便性を高めるためのECサイトの運営は手軽かつ有益な施策です。

しかし、前述のように無計画にECサイトでブランドの商品販売を始めてしまうと販売店からの反発が避けられないため、販売店に配慮した商品構成が求められます。

ブランドのフラッグシップ商品となり、販売店売上でも中核を成すいわゆる「最高級ライン」と呼ばれる化粧品に関してはECサイトでは取り扱わずにPRだけに留めるなど、販売店とECサイトでの取り扱い商品を棲み分けるという戦略も、両者がメリットを享受しながらDXを進めるためには必要かもしれません。

>>次ページ【化粧品業界を変えるDX事例】

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DXportal®編集部

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