2023年の日本の出生数は75.8万人と過去最低を更新し、8年連続で減少が続いています。
この傾向が続けば、2035年には出生数が50万人を下回るとの試算もあり、少子化に歯止めをかける対策が急務です。
出生数減少の背景としては、「子育てをしにくい環境」が一因と指摘されています。そこで、子育て環境の改善を図る「子育てのDX(デジタルトランスフォーメーション/以下:DX)」に、政府と民間企業が取り組み始めています。
本記事では、DXが解決すべき子育ての課題と、具体的な取り組み事例をご紹介します。
子育てDXの推進により、子育て家庭の負担軽減、子どもの健康と安全の確保、教育の質の向上など、様々な課題の解決が期待されます。
子育てDXの動向に注目しつつ、自社の事業機会に繋げるヒントとしてください。
目次
子育てのDXが解決すべき課題
子育ての環境は時代とともに変化していますが、現代の子育て家庭は様々な課題に直面しています。
核家族化が進み、親や親族からサポートを受けることが困難な状況に置かれる家庭が増える一方で、それを補うような仕組みは残念ながら十分に機能してきませんでした。
女性の社会進出が進み、共働きの夫婦も増加傾向にありますが、子育てと仕事を両立することには依然として大きな負担があります。
こうした子育て家庭の負担を軽減し、子どもを育てやすい社会を作ることは、少子高齢化に悩む日本社会全体が取り組まなければいけない課題です。
子育てDXによって解決が期待されている課題は、主に以下の5つです。
- 行政手続き
- 健康管理
- 安全対策
- 家族間のコミュニケーション
- 教育と学習のサポート
行政手続き
子育て家庭向けの支援制度をはじめ、行政は様々な形で子育てをサポートしています。他方で、児童手当の申請や予防接種の管理など、紙ベースの行政手続きが保護者に多大な負担を強いている側面もあります。
また、大量のペーパーワークは自治体や医療機関の業務効率化にとっても課題です。
例えば、児童手当の申請手続きは、出生や転入の翌日から15日以内に行わなければなりませんが、その手続きは必ずしもシンプルなものとは言えません。
期限内に必要書類を揃え、最寄りの市区町村窓口に出向いて提出しなければならず、書類不備があった場合は再提出が必要です。
そこまで複雑な書類ではないとはいえ、出生や転入後の忙しい時期に、わざわざ役所まで出かけなければならないというのは大変な負担でしょう。
また、子育て経験のある方ならご存じの通り、新生児が受けなければならない予防接種は多岐にわたります。
うっかり接種漏れがないように、病院側も受診履歴管理を紙の手帳に記録し、親も次の予防接種の時期を見落とさないよう気をつけなければなりません。
いくら大切な予防接種とはいえ、年に何度も発生するイレギュラーな通院を管理し、スケジュールすることはそれなりに手間のかかる作業です。
既にオンライン手続きの導入など、DXを推進している自治体もあり、行政手続きの利便性は徐々に向上してきています。
一方で、DX推進に消極的な自治体では手続きや予防接種の管理が非効率な状態が続いており、課題があります。
安全対策
子どもの安全をどのように守るかは、子育て世代が常に直面してきた課題です。
さらに、インターネット時代を迎えた現在は、スマートフォンをはじめとするモバイルデバイスは子どもにまで普及しており、今までにないリスクが生まれてきています。
実際のところ、モバイルデバイスに触れさせずに子育てをすることはほとんど不可能と言ってもいい状況です。
幼少期からネットやデジタルに慣れておくことはメリットもある一方で、子どもがネット上の様々な危険にさらされるリスクが高まっているのです。
SNSや情報サイトの危険性、スマホやタブレットの安全な利用方法を教え、家庭内で適切なルールを設定するなど、ネット上の危険から子どもを守るのも親の責務です。
登下校時からインターネットに至るまで、様々な場面において子どもが安全に過ごせる環境を整えるためにも、子育てDXが期待されます。
すでに、帰宅時や最寄りの改札を通過した際に親のスマホに通知が行くサービス、ゲームの時間などを遠隔で管理できる機能の導入などをはじめ、デジタルによる子どもの安全確保・見守りの取り組みは進んでいます。
とはいえ、急速に広がった子どものSNS利用等に対する安全確保は引き続き課題になっているのです。
家族間のコミュニケーション
フルタイムの共働きの家庭を筆頭に、親の仕事や子どもの習い事、塾など忙しい日常生活の中で、家族間でのコミュニケーションはどうしても不足しがちです。
子どもと過ごす時間を作ることの重要性は理解していても、なかなかゆっくり話をする時間が取れないという家庭は少なくないでしょう。
また、核家族での生活が当たり前になった現代では、周囲に自分やパートナーの親が暮らしているとは限りません。共働きの家庭の場合は、周囲の子育て家族と関わる機会も限られているのです。
子育ての悩みを共有し、アドバイスを得られる場が少ないことは、保護者の孤独感や不安を増大させる要因となっており、解決すべき課題の一つだと言えます。
教育と学習のサポート
子どもの教育は、いつの時代でも親の頭を悩ませてきました。
学校教育をはじめ、社会全体としても学校の勉強についていけない子どもをどのようにサポートするかや、それぞれの興味や特技を伸ばすための学習支援をどのようにすればよいかという問いに取り組んではいるものの、簡単に正解がでる問題ではありません。
子どもの貧困による教育格差や、学習スタイルの違いも考慮する必要があるでしょう。
特に新型コロナウイルス感染症での学習環境変化により、オンライン学習の重要性が高まっていますが、家庭によってICT(Information and Communication Technology/情報通信技術)環境に差があることが、教育格差を助長する懸念もあります。
子育てのDXに対する政府と民間企業の取り組み
政府は国をあげて子育て課題の解決に取り組み始めています。
2023年4月に発足した「こども家庭庁」は、こどもの最善の利益を確保するためのデジタル技術を活用した子育て支援を重要な施策の一つと位置づけており、関連予算の確保や法整備を進めていく予定です。
また「こども政策DX推進チーム」の会合では、妊娠届・出産届のオンライン申請の推進や、健診・予防接種などの事務手続きに民間のアプリなどの活用を図る方向性が示されました。
行政のデジタル化と並行して、子育て支援のデジタル化を推進することで、子育て家庭の利便性向上と、行政の効率化を同時に実現していく方針です。
一方で、子育てDXの実現には、以下のような様々な課題が残されています。
- 保護者のICTリテラシー向上
- デジタルデバイド(情報通信技術を利用できる者と利用できない者との間に生じる格差)への対応
- 個人情報の保護とサービスの信頼性確保
子育てDXを社会全体で推進していくためには、行政、企業、保護者、教育機関など、様々な立場の人々、組織の連携が不可欠です。それぞれが持つ知識や経験を共有し、力を合わせて取り組むことが成功の鍵となるでしょう。
例えば、企業が開発した子育て支援アプリの情報を自治体が保護者に共有して、導入をサポートし、利用した保護者がフィードバックを提供するなどの連携が実現すれば、更なるアプリの改善に繋げていくことができます。
このように、官民が積極的に関与し情報交換と協力を進めることが、子育てDXの実現に向けた鍵となるのです。