「2025年の崖」を前にしてますます進む企業のDX施策。その中でも、近年注目を集めている施策の1つがチャットボットの導入です。
当DXportal®でも、何回かに分けてチャットボットを紹介し、その有効性をお伝えしてきました。
しかし、チャットボットをDX推進の力とするためには、いくつか注意しなければならない点があります。
そのポイントを抑えずに導入してしまうと、場合によってはせっかくの施策が失敗に終わってしまう可能性もあるのです。
そこで本記事では、チャットボットの有効活用に失敗する理由と、導入時の注意点についてそれぞれ5つご紹介します。
貴社の業務フローの中にチャットボットを導入する前にご一読いただき、業務効率化と顧客対応の付加価値向上に繋げるための一助としてください。
目次
チャットボット活用に失敗する理由
せっかくコストをかけてチャットボットを導入しても、想定通りの成果が得られず、活用されることがないまま、いつの間にか忘れ去られているというケースは、実は少なくありません。
DX推進に一役買うどころか、なにも成さないばかりかコストが無駄になってしまう。こうしたチャットボットの導入失敗事例を見てみると、多くの場合においてその特性を正しく理解していないことに原因があるようです。
まずは、チャットボットの活用に失敗してしまう理由を解説していきます。
ユーザーの問題を解決できない
せっかく導入したチャットボットが活用されない理由の1つに挙げられるのが、「ユーザーの問題を解決できない」、つまりチャットボットに求められる機能を果たせていないケースがあります。
例えば、サービス内容に関するユーザーからの問い合わせ対応を目的としてチャットボットを導入したにもかかわらず、多くのユーザーが抱える課題や問題に対して適切に回答することができなければ、ユーザーに「使う価値がない」と判断されてしまうでしょう。
そのような烙印を一度押されてしまうと、その後どんなにリニューアルをして使いやすい機能を拡充していったとしても利用を拡大していくことは極めて困難です。
そのため、チャットボットを導入する前にしっかりと「よくある問い合わせ」などをまとめてすぐに回答できる仕組みを整えたり、人でなければ解決できない問題にはすぐに人が対応できる体制を整備しておき、リリース直後からユーザーの問題を即座に解決できるチャットボットになるようにすることが重要となります。
チャットボットが機能するまでの時間を考慮していない
前述のように、チャットボットは導入前の段階での入念な準備が欠かせません。
それに関連して「チャットボットが機能するまでには、ある程度の時間が必要である」ということも理解しておく必要があります。
この点を考慮せずに導入に踏み切ってしまうのも、典型的な失敗例の1つです。
例えば、予想される質問に対して、あらかじめ回答を入力しておく「シナリオ型(あるいはルールベース型)」と呼ばれるチャットボットを導入する場合は、予想される想定問答集を整備しなければならず、これにはそれなりの工数がかかります。
また、運用する中でより適切な回答を提供できるように、シナリオを増やしていくなど、常にバージョンアップしていかなければならないなど、ユーザーの需要に過不足なく応えられるチャットボットになるのは、手間も時間もかかるのです。
AI(人工知能)が質問と回答を学習して、統計的に正解に最も近い回答を選び出す仕組みにより、シナリオ型よりもより複雑で広範囲にわたる問い合わせに対応できることが魅力の「自動学習機能型」のチャットボットの場合は、AIが学習を重ねて、システムが醸成するまで時間を要します。
どちらの形のチャットボットでも、一朝一夕には万能なシステムとして成立はしないのです。
このチャットボットが機能するまでの時間を考慮せずに、いきなり全面的な運用を開始してしまうと、多くのユーザーの悩みを解決するところまで至らず、ユーザー離れを起こしてしまう懸念すらありますので注意が必要です。
チャットボットが認知されていない
せっかくチャットボットを導入したのに、これまでと同じ電話での問い合わせばかりで、ユーザーがチャットボットを利用してくれないというのも、多くの企業で見かける失敗例です。
その原因としては、先に述べたように「一度使ってみたけど役に立たなかった」という場合もありますが、それ以上に多いのは「そもそもチャットボットの存在にユーザーが気づいていない」というケースです。
その理由は、UI(ユーザーインターフェース)の設計ミスなどが挙げられます。
利用を広げるためには、自社ホームページの分かりやすい位置に設置する、ユーザーが「問い合わせ先」を選択すると自動でチャットボットの画面が表示されるなど、ユーザーに認知されるようにUIを工夫する必要があります。
また、できるだけ利用するハードルが低くなるように、親しみやすく簡単そうにみえるようにデザインを工夫することも、せっかく導入したチャットボットが利用されないという事態を防ぐことに繋がるでしょう。
また、チャットボットを設置しているページ自体のPV(ページビュー)が少ない場合などでも、同様の現象が起こり得るため、多くの利用者に認知される仕組み作りを合わせて検討する必要があるでしょう。
チャットボットを利用するインセンティブがない
UIに配慮して、ユーザーにわかりやすい形でチャットボットを導入したにもかかわらず、利用が拡大しない場合もあります。
その理由としては、「そもそもユーザーにチャットボットを利用するインセンティブ(動機づけ、使う理由)がない」ということも考えられます。
例えば、従業員の顧客対応の負担を削減するために、カスタマーサポートの一部にチャットボットを導入したケースを考えてみましょう。
企業側は、業務の効率化や人的コストの削減のために、ユーザーに積極的にチャットボットを利用してほしいと考えているはずです。
しかし、当然ながら、ユーザー側が「企業の効率化やコストカットに貢献しよう」という思いからチャットボットを利用することは考えられません。
ユーザーは、最も効率的に回答を得られる方法を選択するでしょう。
もしユーザーの抱える悩みが複雑で、チャットボットでは解決できそうにないと考えた場合は、ユーザーは最初から電話など別の方法を選ぶはずです。
ユーザーからの問い合わせの内容の多くがチャットボットでは対応できない内容で、結局は人が個別対応しなければならないような場合は、チャットボットの導入によって得られる効果は極めて限定的になってしまいます。
場合によっては、チャットボット自体が完全に無意味なモノとなってしまうことも考えられるでしょう。
こうしたケースは、経営陣と現場で、チャットボットに対する認識のズレが生じている時にもよく起こります。
「チャットボットを導入すれば問い合わせ対応が自動化できる=経費削減になる」とう単純な考えで導入を決める前に、問い合わせ内容などを精査した上で、「本当に自社にチャットボットを導入することで効果があるのか」といった、「そもそも論」の検討は不可欠です。
チャットボット導入によるDX推進へ向けた第一歩は、まず冷静に「チャットボットがユーザーの問題解決の近道となるかどうか」を分析することから始まります。
チャットボットの選択をミスしている
現在、世の中に出回っているチャットボットには、実に様々な種類があります。
その選択をミスしてしまうと、期待していたような成果が得られなかったり、準備に採算が取れないレベルの工数がかかってしまったりといった失敗に繋がってしまうでしょう。
このような事態を回避するには、入力方式や回答方式にはじまり、規模や費用、ターゲットとする利用者などにいたるまで様々な条件を精査した上で、適切なシステムを選択することが重要です。
チャットボットごとに得意なフィールドは異なるため、自社にあったものを選べるかどうかが導入によってもたらされる成果、ひいてはチャットボット導入の成否を分ける重要な分岐点になるのです。
これを理解せず、ただ費用面や使い勝手の面だけでチャットボットを選んだ結果、自社のビジネスにはマッチせず、手間ばかりかかってしまい、結局使わなくなってしまうということは案外少なくありません。
特に、自社専用のチャットボットを開発するのではなく、ベンダーなど他社が開発した既存のシステムを導入する場合は、自社のニーズに照らして、最適なチャットボットを選択することが欠かせないステップだと言えます。
チャットボットでDX推進する際の注意点
せっかくチャットボットを導入したにもかかわらず、思ったような成果が出なかった失敗例の背後にある原因についてはお分かりいただけたかと思います。
ここからは、より具体的にチャットボットを導入してDX推進を行う際の注意点について解説します。
失敗の原因と重なる部分もありますが、改めて注意すべき点をまとめていますので、前半の内容を振り返りつつ、失敗しないために欠かせないプロセスを整理してください。
チャットボット導入の目的を明確にする
チャットボット導入の際には、あらかじめその導入目的を明確にすることが重要です。
また、その目的をどのように達成するのかをイメージしておかなければなりません。
こうした目的が明確になっていないと、チャットボットを通じて、ユーザーの要望にどのように答えていくのかも決められないでしょう。
チャットボットの種類は様々だとは先述しましたが、導入の目的に絞って考えると「問い合わせ対応型」と「マーケティング支援型」の2つに分けられます。
- 問い合わせ対応型:顧客や社内からの問い合わせに自動で対応することで、コスト削減と業務の効率化を実現すると同時に、ユーザーの満足度向上に繋げることが目的
- マーケティング支援型:CVR(コンバージョン率)やLTV(顧客生涯価値)の改善による売上向上、潜在顧客の育成や既存顧客のロイヤルティ向上が目的
このように、2つは導入目的が大きく異なっています。
どのような課題をチャットボットによって解決したいかという、導入の目的が明確になっていなければ、このどちらかを選ぶことすらできないのです。
まずは、チャットボット導入の目的を明確にすること。それが、チャットボットを活用してDX推進へと繋げていく第一歩です。
自社に合ったチャットボットを選ぶ
チャットボット導入の目的が明確になったら、その上で自社に最も適したチャットボットを選ばなければなりません。
繰り返しになりますが、この選択はこの施策の成否を分ける重要なポイントです。
チャットボットは、ノーコード開発などを利用して社内で作り上げるケースもあるでしょうが、多くの企業はベンダーなどが開発した既存のパッケージをアレンジして運用する事がほとんどでしょう。
自社に合わないチャットボットを選択してしまった場合、まったく機能せずコストの無駄になってしまいかねません。
こうした事態を防ぐためには、チャットボットを導入する目的を明確にした上で、より具体的に自社が解決したい課題やユーザーが抱える問題を言語化していく作業が重要です。
ポイントとなるのは、この段階でいかに具体的な課題とチャットボットに期待する成果を整理できるかという点です。
課題と目指すゴールがクリアになっていれば、どのようなシステムで、どの程度の規模感のチャットボットが適しているのかを判断する貴重な材料になります。
なお、チャットボットに限らず、DX推進に広く言えることですが、この課題の洗い出しにおいては、経営陣やDX推進の担当者だけが独断で判断することは避け、様々な部門の意見を吸い上げる姿勢が欠かせません。
もちろん、導入においては自社のビジネスの規模や予算も大きなポイントとなるでしょう。
チャットボットと人が行う作業の境界線を明確にする
チャットボットは、問い合わせ対応を自動化することによって、業務効率化とコスト削減に寄与するツールであり、DX推進においても重要な施策の1つとなり得ます。
しかし、だからといってチャットボットは完全に人に成り代わってユーザー対応ができるほど、万能なシステムではありません。
チャットボットの導入にあたっては、どこまでをチャットボットに任せ、どこからは人が行うのかという境をはっきりとさせておく必要があります。
具体的には、ユーザーからの質問にチャットボットが対応できなかった場合を予め想定し、人による対応に切り替えるポイントを設定しておくと良いでしょう。
この境界線を明確にしておくことで、「チャットボットを使ってみたが役に立たなかった」という状態を回避できます。
簡単な問い合わせにはチャットボットが即時に回答し、複雑な内容であればスムーズに有人対応に切り替えることができれば、顧客満足度向上に繋がることも期待できます。
そしてまた、この境界線について社内で共通認識を作っておくことも重要です。
現場から経営陣まで含めたすべての関係者が同じ認識を持つことで、チャットボットに対する期待値を統一化することができ、「チャットボットを導入したのに成果が上がらない」というような、期待値とのズレによって起こる不満を防ぐことができるでしょう
ユーザーにとって使いやすいシステムを構築するためにも、また、実際にチャットボットを利用する現場の適切な理解を得るためにも、チャットボットと人の作業の間の境界線を事前に引いておくことが求められるのです。
KPIを決めて運用する
先にも述べたとおり、チャットボットは最初から完璧に機能する自動回答ツールではありません。
むしろ、単に導入しただけではただのFAQのようなものです。
顧客の問い合わせパターンを想定して適切な回答を提供するためのシナリオを用意したり、AIの学習機会を確保するなど、本格導入前の準備が不可欠であることは間違いありませんが、その一方でリリースしてみないとわからない部分もあり、準備には限界があります。
ユーザビリティ向上に繋げ、真のDX推進に役立つシステムとして育てるためには、チャットボット自体を進化させていかなければなりません。
そのためには、チャットボット導入に関するKPI(重要業績評価指数)を設定し、得られたデータを分析・活用していく必要があるのです。
ここで設定しておきたいKPIは、次のようなものになります。
【問い合わせ対応型の場合】
- チャットボットの起動回数・起動率:チャットボット自体が利用されているかを判断する指数。この数値が悪ければ設置場所を変えたり、起動方法を適切なものに変えるなどの施策が必要
- 問い合わせに関する回答数・回答率:どれだけの問い合わせに対応しているか、また解決できているかを確認する指数。有人対応に切り替わるケースが多い場合は、チャットボット自体の精度を向上させる必要がある
- ユーザーの満足度:チャットボットの対応終了後に「満足度」を調べるアンケート項目を挿入するなどして、実際のユーザー満足度を計測した指数。データを可視化することにより費用対効果を常にチェックし、改善点を検討する
【マーケティング支援型】
- CVR(コンバージョン率):チャットボットの利用者のうち、商品の購入やサービスの申込み、資料請求など予め設定したゴールに至った人の割合を示す指数。CVRが向上しているかどうかは、最も重要な指標であり、これが悪ければ設置場所の変更や、ユーザーが情報を入力する際にストレスがかかっていないかなどを検討する
- 購入単価・継続率:1人の顧客が購入した商品や利用したサービスの価格と、その後の継続率を示す指標。これらは、LTVに直結する指標であり、この指標が高ければ顧客満足度が高いことがわかる。数値を改善していくためには、チャットボット内でユーザーに対して的確な商品やサービスの案内が行われているか、関連する商材の提案が適切に行われているかなどを常に精査する必要がある
- ユーザーの離脱箇所:チャットボット内のどの項目でユーザーが離脱したのかを計測し、数値化したもの。離脱が多い箇所の原因を分析し、常に改善策を模索し続けることでCVRやLTVの向上に繋がる
必ず複数のサービスを試用して比較検討する
先にも述べたとおり、チャットボットは開発したベンダーごとに様々な個性があり、解決できる課題や規模・費用も大きく異なります。
そのため、自社の問題を解決できるチャットボットを選ぶためには、必ず複数のチャットボットを比較検討しなければなりません。
できれば、実際に触ってみて、複数の使用感を比較することが望ましいでしょう。
チャットボットを比較する際に、基準となるポイントは次のとおりです。
- 料金
- 問いかけ方法(テキスト入力式、選択肢式、音声会話式など)
- AI機能搭載の有無
- 登録や追加・修正のしやすさ
- チャット内容のテキスト確認
- 導入後のサポート体制
その他にも注目すべき点はありますが、まずはこうした視点で複数のサービスを比較検討することは必須条件です。
なお、ここで適正な選択をするためには、チャットボット導入の目的の明確化など、これまでに挙げたポイントが重要になってきます。
担当者が独断で決めることのないように、社内の声を吸い上げた上で、比較に移ることが大切です。
まとめ
貴社のビジネスにチャットボットを導入するに当たり、注意すべき点をよくある導入失敗例をもとに解説してまいりました。
チャットボットは、うまく活用すれば業務の効率化だけでなく、コスト削減や顧客満足度の向上、さらには売上向上にまで繋がる可能性がある施策であり、優秀なDX戦略の1つとなってくれるでしょう。
しかし、明確な目的を設定しないままただ「チャットボットが便利そうだから」と導入しても、それは宝の持ち腐れになるだけでなく、負の遺産となってしまう可能性すらはらんでいます。
導入を検討されている企業の担当者様は、本記事に加えて関連記事なども改めてお読みいただいた上で、貴社に最も適したチャットボット導入戦略を策定し、DX推進への大きな足がかりとしてください。
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