米国時間の2月3日夜、世界の市場を牽引するGAFAの一角・米アマゾン・ドット・コムが、初のトップ交代に踏み切るという情報が世界を駆け巡り、これがIT業界の未来に投げかける波紋について、当サイトでも速報として報じさせていただきました。
この交代劇からは、Amazon型ビジネスと日本型ビジネスとの相違。そして、今後のIT業界やDXの未来を読み取ることができます。
そのキーワードは3つ。
- イノベーション(技術革新)と再発明
- クラウド事業の未来
- 「善意は役に立たない。仕組みが解決する」
それぞれについて詳しく解説してまいります。
目次
アマゾン社CEO交代劇の概要
まず最初に、今回のアマゾン社CEO交代劇の概要についておさらいしておきましょう。
1995年に米国の小さなオンライン書店からはじめ、一代で世界的企業Amazon社を作り上げたのが、創業者のジェフ・ベゾス最高経営責任者(CEO)。
彼が、9月までに退任。会長職に就き、後任のアンディ・ジャシー氏(現・AWS CEO)にその座を譲るという発表がなされました。
ベゾス氏退任の背景には、米議会が反トラスト法(独占禁止法)違反の疑いでAmazon社を調査対象としていたり、新型コロナ感染拡大の中でも、物流施設や小売店の稼働を続けたことで、従業員たちからの待遇改善・環境対策などの声が強まっていたという事実が原因となっている…など、さまざまな憶測がささやかれました。
しかし、実際にはベゾス氏は何年も前から舞台裏では退任の下づくりを行い、半年ほど前に取締役たちには、自らが新しい役割に移る準備ができたと告げていたといいます。
史上もっとも成功した起業家の1人であるベゾス氏は、今なおAmazonにそのイズムを残しつつ、新リーダーのジャシー氏への引き継ぎを決めたということです。
もちろんこの交代劇はかずかずの課題は残していますが、見事に前向きで鮮やかな引き際だと、世界の株式市場などでは概ね好意的に捉えられているようです。
3つのキーワード
このビッグニュースからは、これからのIT市場の未来像を読み取ることができます。
なによりAmazon形ビジネスと、日本型ビジネスとの違いを比較することで、中小企業のDX推進への大きなヒントが垣間見え、そこから進むべき道が明確になるでしょう。
イノベーション(技術革新)と再発明
Amazon社を立ち上げてから最初の10~20年間は、業務の細部に携わりつつ、「貧乏暇なし」状態だったと語るベゾス氏。
会社が成長するにつれて、彼はITに関わるプロジェクトに引きつけられていきました。
その最たる例が、「バーチャルアシスタント・アレクサ」搭載のスマートスピーカー「エコー」の開発などです。
「アレクサ」は、ベゾス氏が米国のSFドラマ「スタートレック」に登場する宇宙船内のように、会話のできるコンピューター・デバイスを搭載した自宅を着想したことがきっかけだったといいます。
こうした発想を元にしたイノベーション(技術革新)と再発明は、ベゾス氏が常に提唱していたことです。
この考えはAmazon社が巨大企業になってからも変わらず、2000年のロケット開発会社ブルー・オリジンの設立、2013年のワシントン・ポスト紙買収など、さまざまな事業を拡大してきました。
CEOを退き会長職についた後は、ブルー・オリジンでの宇宙事業に注力していくとされているベゾス氏。
どれだけ苦境にあった時も、会社が成長してきてからも、現状の事業に満足せず、新しい事業へと足を踏み出すベゾス氏の精神性が、Amazon社躍進の原動力です。
世界的企業となった今でさえ、従業員に対して「スタートアップ企業(まだ世に出ていない、新たなビジネスモデルを開発する企業)であれ」と説くベゾス氏の理念こそが、今こそ日本の中小企業が学ぶべき企業のあり方なのかもしれません。
クラウド事業の未来
ベゾス氏の後を継いでAmazon社CEOに就任するのは、現AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)CEOのアンディ・ジャシー氏。
彼がベゾス氏の後を継承するということは、IT市場の大きな潮流を予感させます。
現在世界No.1のシェアを誇るクラウドコンピューティングサービスであるAWSは、Amazonグループ営業利益の大部分を占める、巨大産業となっています。
長くベゾス氏の側近として、影に日向に活躍してきたジャシー氏は、ベゾス氏の企業理念を色濃く引き継ぐ人物です。
それでいてベゾス氏よりも従業員やメディアとの対話能力にもすぐれ、現在Amazon社がかかえる諸問題を解決するにも、うってつけの人材だと期待されているのはまちがいありません。
しかし、そのことよりも、AWSのCEOであったジャシー氏がAmazon社全体の指揮を執ることになるという図式が、まさに現在のIT市場全体を暗示しています。
アマゾン社全体の中でも最大規模で、イノベーションと利益を生み出すエンジンであるAWS。
DX構築を考える上でも、クラウドコンピューティングサービスの重要性が、いや増すということが、この交代劇の中からも垣間見ることができるでしょう。
「善意は役に立たない。仕組みが解決する」
「善意は役に立たない。仕組みが解決する」この言葉は、ベゾス氏が創業以来企業モットーとして掲げてきたもので、Amazon社を世界的大企業へと押し上げた力の源です。
これこそDX推進には欠かせない考え方で、日本企業にもっとも欠けている考え方でもあります。
そもそもDXとは「デジタル技術を活用して企業の新しい価値を創出すること」であり、そのためには「ビジネス構造の改革」が必要です。
しかし多くの日本企業では、ビジネス構造の改革どころか、構造そのものができあがっていないということも少なくありません。
そもそも日本の「おもてなし」の精神など、「善意」を重んじる日本文化が根底にある日本企業では、従業員の善意に頼った経営が行われてきました。
これは、顧客へのサービス精神や、現場の自主的な創意工夫などが相当します。
これらは日本的経営においては美徳のように思われていますが、こうしたものに頼っているうちは、デジタル社会で生き残ることができないというのが、ベゾスとAmazonの例から見て取れるのです。
職場において効率的に利益を生み出すためには、必要な「機能」「プロセス」「ルール」といったものが明文化・標準化され、仕組みづくりがされていなければなりません。
しかし、多くの場合日本企業では「自主性」という、形には表すことのできないモノを従業員に求めます。
従業員の自主的なユーザーへのおもてなしは、ユーザーがその後も同様のサービスを求めるなどの弊害を生み、業務の創意工夫は業務プロセスを見えにくく改変するといった事態につながり、多くの外資系企業では忌避される行動です。
そもそもサービス残業などという概念は、欧米諸国にはない日本独特の悪習といえるでしょう。
従業員の自主性という善意に頼る日本的企業経営ではなく、まずは組織的なビジネス構造を作り上げ、すべての業務プロセスを効率化して利益を拡大する。
これこそがAmazon社の理念から学ぶべきポイントで、日本企業のDX推進を妨げているもっとも憂慮すべきボトルネックなのです。
まとめ
世界有数の大企業AmazonのCEO交代劇から読み取れる、IT業界の未来と日本企業が学ぶべき理念。
そのポイントについて解説してまいりました。
クラウドコンピューティングサービスの重要性は、今後のDX推進を考える上でいや増すでしょうし、ビジネス構造を変革する上で、イノベーション(技術革新)と再発明は外せない考え方です。
日本企業として学ぶべきことは多く、DX推進のヒントはそこにこそあるといって過言ではありません。
なによりも、いつまでもスタートアップ企業であり続けること。
その想いこそが、企業を前進させる原動力となるのではないでしょうか。
一介のオンライン書店から端を発し、ロケット開発により宇宙へ飛び出そうとしている、ベゾス氏の背中から、私たちはそんな企業経営のあり方を学びたいものです。